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新年を共に慶び、真綿の中で愛を育む
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しおりを挟む「どうしよう! 10時過ぎの約束だったのにだいぶ時間が過ぎちゃった!」
「今の時刻ならまだ10時過ぎの範囲内だよ。花ちゃん落ち着いて」
アパートを出るなり早足でサカサカ前へ進む花ちゃんを、僕は手土産を持ちながら追いかける。
「だって他所の人の御宅に訪問するなんて初めてなんだもん! 太ちゃんはある?」
「そりゃまぁ友達の家へ遊びに行く程度なら」
「だよねぇ? 私もそうだから緊張する! 歳上の、しかも仕事の先輩の家だなんて経験が無さすぎて……」
「あっ! 花ちゃん行き過ぎてる!! 住所の番号、教えてもらった数字より過ぎてるっぽい!」
「あぁどうしよ! 戻んなきゃ!」
「あぁだから走っちゃダメだってば花ちゃん!」
花ちゃんをなんとか落ち着かせて辿り着いたエリコさんの家は、花ちゃんの説明通りアパートと同じ並びに建っていた。
家の外観は周囲の家と大きさも雰囲気も変わらず、二世帯入っている僕らのアパートの建物と同じくらいっていう感じだ。
「じゃあ、インターフォン押すね」
花ちゃんはゴクリと喉を鳴らし、インターフォンのボタンに触れる。
(エリコさん……一体どんな女性なんだろう?)
花ちゃんの話から抱くイメージは「気さくなアラフォー」という感じだけれど、僕の予想ではもう少し年齢が高め。
(派手過ぎず、それでいて清潔感のある奥様……って感じかなぁ)
花ちゃんの緊張が僕にも伝わり、背筋がピッと伸びる。
すると、扉が開いて……
「いらっしゃい、時間通りね」
「エリコさん」らしき女性が僕達の前に姿を現した。
「あけましておめでとうございます恵里子さん」
「あけましておめでとうございますお花ちゃん♪ 今年もよろしくね!」
エリコさんの外見や声は僕の予想そのまんまだった。
シンプルなパンツルックの装いの上から大振りな花柄ドレスエプロンを身につけているのがなんとも大人の女性らしさを演出している。
髪の長さは花ちゃんと同じくらいではあるものの、家事の邪魔にならないようオールバックポニーテールにしていてそのピシッとしたヘアスタイルもなかなか似合っていると思うし、所謂「ナチュラル美人さん」だと感じた。
(良かったぁ、良い人そうだ)
推察から外れていない雰囲気にホッとしたのも束の間———
(えっ……??!)
次に目に入った特徴的な口元のホクロに僕はギョッとする。
「ほら、太ちゃんも恵里子さんに挨拶して」
「……え? ……あぁ、うん」
つい動揺してしまったから、花ちゃんと同じように挨拶する事が出来ず口籠った僕に対し
「あらあら、もしかして弟さん?」
エリコさんは僕を一目見てすぐに花ちゃんへと向き直る。
「そうなんです。太地って言うんですけどすみません……」
花ちゃんは申し訳なさそうに謝り、僕にトンっと身体を軽くぶつけてきた。
「あっ、あけましておめでとうございます。今日は部外者の僕までお誘いありがとうございます」
花ちゃんに無言で急かされ、慌てて左口端にホクロを持つ女性に挨拶し深々と頭を下げたんだけど
「まぁ、きょうだい揃ってセクシーなホクロを持ってるのねぇ」
僕が顔を上げると目の前の女性はそう言い、自分の左目尻を指でトントン軽く叩いていた。それから続けて、優しく微笑み僕に握手を求めて決定的な「呼び名」を口にする。
「それに素敵なお洋服に似合う綺麗なお顔!お花ちゃんにそっくりだわぁ♪
気張らずに中にお入りになってね、坊や」
「……」
(間違いない。目の前の……「エリコ」と名乗るこの女性は、ユリさんだ!!)
「お邪魔します」
「……お邪魔、します」
緊張しつつも快活に口を開いて靴を脱ぐ花ちゃんに対し、僕は「エリコさん」の頭の先から爪先までをゆっくり視線を下ろしながら小声でボソッと言う。
「お花ちゃんもだけど弟さんも遠慮なく中に入ってね! 今、お雑煮作ったところだから召し上がってね♪」
「エリコさん」は僕にも靴を脱いで上がるよう指示してくる。
「太ちゃん? 中に入ろう?」
「あぁ……もたもたしてごめんなさい」
花ちゃんまで玄関に立ったまま動かないでいる僕を不思議そうに見るものだから、慌てて靴を脱いだ。
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