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新年を共に慶び、真綿の中で愛を育む

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 花ちゃんがこんな顔して寂しそうな声を出すのは、嫉妬なんだろうか?それとも単なる疑問だろうか?

「モテないなんて絶対にウソ」

 真面目な表情で花ちゃんは僕をジッと見つめた。

「ウソじゃないよ。恋愛も何もかも知らないガキみたいなものだから」

 その眼差しが本当にどちらを意味しているのか判断出来ず、僕はヘラヘラ笑いを花ちゃんに見せて自虐気味に返答し

「それって……ホント?」

 直後怪訝けげんな顔で上目遣いしてきた花ちゃんに僕は頷きで返してやった。

「ホントホント。新年早々花ちゃんにこんな話したくないんだけど、童貞だしそもそも女性を前にして興奮とかした事ないんだ」
「……」
「女性は好きだと思うんだけど……正直よく分からないっていうか」
「…………」
「本当に誰のものにもなってないガキなんだよ本当に」
「でも……は……」
「さあ? それはワンコの時だから分かんないや」
「ワンコだからわかんないって……」
「もー、弟だからって新年早々変なとこ掘り下げられたら怒るよ?
 男としても相手の女性からしてみても『興奮してくれなかった』『出来なかった』ってかなり傷付くんじゃないかな? っていうか誰も好きになんかならないよ、僕みたいなチビで細いヤツ! 男性としてダメダメな見た目なんだもん」
「そんなことは……」
「いい? 今この部屋にあるセミダブルは僕がバイトしてお金貯めて買ったものっ! セミダブルにした理由は広くて快適な点と収納棚付きな点! 分かった? もうこの話はおしまい!!」

 僕は早口で一気にそう言い、花ちゃんの前で興奮してオーガズムを得てしまう事実を誤魔化す。
 
「……ごめんなさい、センシティブな事に首を突っ込むような真似しちゃって」

 誤魔化しが上手くいったらしく、花ちゃんは謝って僕に服を渡してきた。

「そうだよね……『なんで反応しないのか』とか『なんで私の前で反応するのか』とか他人に訊かれても分からないよね。デリカシーない事訊いてごめんなさい」

 花ちゃんは反省顔というには落ち込み過ぎな表情をして僕の部屋から出て行く。

「僕も言い方きつかったよ……悲しい気持ちにさせてしまったのなら謝るよ。ごめんなさい」

 大きく怒鳴ったつもりは無いんだけど、そういうたぐいの声が苦手な花ちゃんに予想以上の落ち込み顔をされると僕も僕で不安になった。

「太ちゃんは謝らないで。洗濯物干してくるだけだから」
「僕も着替えたら下へ降りるよ」
「ううん、着替えてもそこに居て。メイク、して欲しいから」
「……分かった」

 花ちゃんが階段を降り、僕は再びエッセンシャルオイルを零した床を拭く作業に移り深い溜め息をつく。

「ワンコの設定……やっぱり無理があったかなぁ……」

 今のところ花ちゃんに触れる体の部位はリョウの時にする甘えん坊コースで触れる部位とほぼ同じだから、女性が心地よいと感じる触れ方は慣れているしリョウの姿で学んだテクニックは有効活用出来ていると思う。
 実際に花ちゃんから香ってくる女性的な匂いやガクガクした身体の震え、絶頂顔から判断しても花ちゃんを十二分に気持ち良くさせ満足させていると……その点にはかなり自信があった。

 でもリョウの時とタイチの時で明らかに異なる点は舐め犬さながらの行為と性的興奮の有無だ。
 他の女性では全く反応しないポンコツな男性機能が、真に愛する花ちゃんにだけ反応し過剰に自分の欲情した気持ちを言葉によって発してしまう。

(僕も気持ちいいし本当にイった気でいる。男性としての機能が劣っているわけではないんだろうし、幸せでたまらないくらいなんだけど……)

 頭の中でタイチと太ちゃんを切り替えているつもりではいるけれど、熱中し過ぎてしまうのも問題だ。
 このベッドの上で花ちゃんと居る時に口にする「甘えたい」の言葉、舐め方、吸い付き方はどう考えても犬の感情を飛び越えてしまってはいないか? と、不安に感じてしまうんだ。

 店の常連さんなら僕がそういう過剰な口ぶり身ぶりをしても割り切って接してくれるんだろうけど、花ちゃんはそうじゃない。

(やっぱり花ちゃん相手にワンコの設定を課すのは色んな意味で無理があったんだ……だからといって今後改めて弟の太ちゃんとしてあの行為を続けていくのも無茶だし……悩ましいなぁ)

 花ちゃんの心は読み取れないけど逆に僕の心が読み取られるのは時間の問題で、犬設定を一度作ってしまった以上それを解除する事は二度と出来ないんだ。

「はぁ……」

 タイチになって花ちゃんの体を舐めるのは楽しくて気持ちいいけれど、その分胸が苦しくなって張り裂けそうになる。

「『新しい年が明けたからお胸をいっぱい舐めてあげる』だなんて、どうかしてるよ昨夜のタイチも……」

 花ちゃんに選んでもらった服に着替える為に下着姿になったらそこに大きめの染みがついていて僕はまた大きな溜め息をつき、新しいものに履き替えた。
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