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絵に描いた結婚生活と、性格の不一致

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「エビが丸まってない……」

 花ちゃんが今夜用意してくれたメインディッシュはエビフライ。
 実家で出されたエビフライはいつもグルンと丸まっていて硬い食感で、正直ソースをべったりつけないとまともに食べられないような代物しろものだった。
 それなのに目の前に出された揚げたてのエビフライはレストランで出されるように真っ直ぐピンとしていて、衣もサクサクしていそうだ。

「先に食べてもいいよ、熱いうちに召し上がれ」

 あまりにも美味しそうだったから、まだ配膳中だった花ちゃんの言葉に一瞬甘えようかと思ったんだけど

「時間と労力かけてこれを作ってくれた花ちゃんを差し置いて先に食べるとか無理だし!」

 と、すぐに思い直して配膳を手伝い花ちゃんと一緒にいただきますを言う。

「手料理を前にして誰かと『いただきます』言うの、久しぶりだ」
「……僕も」

泣きそうな顔になっている花ちゃんに、僕はなるべく優しい声にして同調し微笑んでみせた。


「うまっ!!」

エビフライの味は見た目以上で、何もつけなくてもいいくらい美味しい。

「値段の割にエビの質が良かったからだよ」
「でも見た目も店みたいだし! 花ちゃんすごい!!」
「エビを真っ直ぐにするには、そういう下処理する必要があるの」
「えっ? そうなの?」
「うん、なんか、常識、みたいだよ」

 花ちゃんは言葉をプツリプツリと短く切りながら、エビにタルタルソースをつけて口にゆっくりと運ぶ。

「……母さんは、その……常識ってヤツを、知らなかったって事?」

 タルタルのマヨネーズや揚げ物油で花ちゃんの唇がつやめいている。

 その唇が……

「単にめんどくさかったんじゃない?」

 やや吐きてる様な動き方をしたものだから、僕はドキッとした。


 母さんは専業主婦で、「女に勉学は必要ない」とまで言ってしまう古い考えをする人間だ。
 だから大学に進学した花ちゃんに対してうとましい態度を取っていたし、メイクをするようになったり彼氏が出来たと知らされたりした時はその都度「無駄に色気付いて」とかげけなしていたのも知っている。

 大学4年になると、花ちゃんと顔を合わす度に「彼と結婚するのか就職するのか、どっちなんだ?」とキツく詰めよっていた。
 結果、花ちゃんは卒業してすぐに結婚する道を選んだんだけど、実家に残っている受験生の僕の前で「早く子どもは出来ないのか、毎日ちゃんと務めは果たしているのか」と気色悪いぼやきを何度も何度も口にするんだ。

 花ちゃんを褒めた事は一度も無い。
 僕の前ですらそうだったのだから、僕の居ない時にこっそり褒めるなんてする筈が無いだろう。

 それでいて、母さんの専業主婦っぷりはどうだったのかと言うと所謂「及第きゅうだい点」というヤツだ。
 僕自身一人暮らししていて感じるけれど、母さんの家事は全体を通してかなり大雑把でエビフライ一つに至っても花ちゃんとは雲泥の差だ。

「味噌汁って、出汁取ってたよね。難しくないんだ?」
「簡単だよ。味は薄く感じるかもしれないけど、風味があって私はこの方が好きだな」
「ブロッコリーがまさかちゃんとした副菜として出て来るとは思わなかった」
「茹でるだけでもいいけど、こうして食べるのも美味しいでしょ? 天ぷらにしても美味しいんだよ」
「そうなんだ! 知らなかった!! 花ちゃん凄いね!! もしかして専業主婦になってから勉強したの?」

 花ちゃんは一瞬僕をキョトンとした表情で見たけれど、すぐに睫毛まつげを伏せて

「そりゃあね」

 と軽い返答をした。

「それって、料理教室通ったとか?」
「料理教室へ通う余分なお金は持たされなかったから、本読んだりネットで調べたり」

 花ちゃんから語られる内容の節々から……

「独学もすごいね! 花ちゃん偉いなぁ。主婦、頑張ってたんだ」
「うん……仕事しながら家事を丁寧にするのは性格上無理だから、家の事を丁寧にして、仕事で疲れて帰ってきた大好きな人を優しく迎え入れる結婚生活をしたいって……そう思ってたからね」

 経済的ながあったのだと感じたし、本当にニコニコ微笑みながら主婦業に勤しんでいたのか疑ってしまう。

(専業主婦は楽だ、とか……ネットでも良く目にしたりはするけど、花ちゃんはどうだったんだろう?)

「それが、『花ちゃんの思い描いてた結婚生活』ってヤツだったんだね」
「うん」

 てっきり花ちゃんは母さんから二択を迫られ、就活のプレッシャーに勝てなくて……ちょうどいいタイミングでプロポーズされたから、結婚という楽な道を選んだんだと思っていた。

(花ちゃんは、丁寧に家事がしたかった。仕事をして家事が疎かになるのが嫌だったから、あの人の役に立ちたい尽くしたいって真面目な気持ちがあったから、プロポーズを受けて結婚したんだ……)

 と、僕はその理由を知り黙り込んでしまった。
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