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「女は花で男は犬。悪戯に蹴散らさないよう優しく扱うのよ」
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[それって、香織も妊娠したけどそのような結果になってしまったって意味なんだろうか?]
樹くんは少し間を置いてメッセージを送ってきた。
それに対し僕も一呼吸置いて
[そこまでは僕も分からない]
と送信し、続けて文字を打ち込む。
[物語完結ページの次ページに、flavorさんのあとがきが書かれていたんだ。
「花はきっと犬に多くを求め過ぎてしまった。花は犬に恋を抱いてしまい、その恋を犬に知られてしまうのが怖かったから、あのやり方で野に放す事しか出来なかったのだと作者の私は思う」って]
[花は犬に多くを求め過ぎた……なんか意味深だなぁ]
[うん、僕もその部分がとても印象に残っているよ]
そこまでメッセージのやり取りを交わしていると、最寄り駅に辿り着いた。
僕達は他の乗客の流れに任せて同様に車両を降り、そのまま出口まで無言で歩く。
「3年経ってもあとがきの内容を覚えている辺り、太地くんらしいというか執念深さを感じるなぁ」
出口付近で僕達は足を止め、周りに人が居なくなるまで待ってからようやく樹くんが僕の方を見下ろして声を発した。
「執念深さか……flavorさんに会いたくてネットストーキングまでしちゃったんだから、まさにその通りだよね」
flavorさんとは別の意味で、樹くんのストレートな言葉選びは絶妙にマッチしている。
「樹くんごめんね。8ヶ月も僕に優しく接してくれて金銭的な援助までしてくれたのに、こういう事を今まで黙ってて」
僕は185㎝はゆうに超えていそうな樹くんの綺麗な顔や髪色を見つめながらそう言うと、彼は眼鏡を外して目を細めて微笑み「謝らなくていい」という意味の表情を見せた。
「職業柄、秘密には慣れているからね。俺だって自分のリアルを他者に曝す事は滅多にしてこなかったから、逆に太地くんがここまで俺を信用してくれているのが嬉しい。
そういう男の子は性的嗜好の意味でも大好物だから、太地くんが困っている事は何でも助けようと思うんだよ」
眼鏡をコートの内ポケットに仕舞い、「仕事モード」ではなくなった妖しげな瞳で僕を捕らえ、それによって僕の身体は硬直する。
「お金は……必ずまとめて返済するから、もう少し待ってもらえると嬉しい、かなって」
「たかが32万だよ? 『そのくらいくれてやる』って前にも言った筈だけど?」
樹くんの顔はとてもにこやかなのに、僕の腰や尻に触れている手つきはとてもセクシーでねっとりとしている。
ダッフルコート越しだというのに、彼の指はまるで僕の素肌を直に触れているかのような感触があり、大臀筋に彼の指が触れた途端にキュッとその部分に力を入れて更に硬く締めた。
「でも、初勤務の後でいきなり『家賃が足りないからお金を貸して下さい』って太地くんが土下座してきたのは今でも笑っちゃう」
樹くんは8ヶ月前の思い出話を交えながらクスクスと面白げに笑い、僕から指を離す。
「それは……」
言葉に詰まってしまった。
8ヶ月前の僕は一人暮らし生活をなめていたんだ。家賃以外にも色々とお金がかかってしまい、あの広さは学生1人が抱えられるものではなかったと後悔したんだ。
「『この仕事に就きたいからこっちの大学を受験して親の囲いから抜け出した』って、あの時太地くんは土下座しながら言ったよね。なんかそれでさぁ、『太地くんは今時の10代と少し違うんだろうな』って感じたんだ。『親の囲いから抜け出す』なんてそれなりの家庭関係を築いていたら出ないもん。太地くんの生きていた18年19年には色んな事があったんだと俺は学の無いアタマで想像したよ」
「……」
「その上、太地くんは住まいにもこだわった。学生向け単身アパートにしたって良かったっていうのに、君は譲らなかったよね」
「……」
「太地くんは香織の元でリョウになる事も、あの間取りでたった1人で生活する事もどちらも重要で譲れなかったんだよね」
「うん」
住宅が立ち並ぶ駅出口ではあるけれど、23時半という時間帯だから僕達以外誰も居ない。
だからこそ、僕の相槌はとてもよく響く。
「そういう太地くんがね、俺には魅力的に感じたんだよ。可愛いなぁって」
「ありがとう」
当然の事、「可愛い」「ありがとう」の掛け合いも響いて駅の中へと吸い込まれてしまいそうな気分になって……真冬だというのに身体が熱くて仕方なくなってくる。
樹くんは少し間を置いてメッセージを送ってきた。
それに対し僕も一呼吸置いて
[そこまでは僕も分からない]
と送信し、続けて文字を打ち込む。
[物語完結ページの次ページに、flavorさんのあとがきが書かれていたんだ。
「花はきっと犬に多くを求め過ぎてしまった。花は犬に恋を抱いてしまい、その恋を犬に知られてしまうのが怖かったから、あのやり方で野に放す事しか出来なかったのだと作者の私は思う」って]
[花は犬に多くを求め過ぎた……なんか意味深だなぁ]
[うん、僕もその部分がとても印象に残っているよ]
そこまでメッセージのやり取りを交わしていると、最寄り駅に辿り着いた。
僕達は他の乗客の流れに任せて同様に車両を降り、そのまま出口まで無言で歩く。
「3年経ってもあとがきの内容を覚えている辺り、太地くんらしいというか執念深さを感じるなぁ」
出口付近で僕達は足を止め、周りに人が居なくなるまで待ってからようやく樹くんが僕の方を見下ろして声を発した。
「執念深さか……flavorさんに会いたくてネットストーキングまでしちゃったんだから、まさにその通りだよね」
flavorさんとは別の意味で、樹くんのストレートな言葉選びは絶妙にマッチしている。
「樹くんごめんね。8ヶ月も僕に優しく接してくれて金銭的な援助までしてくれたのに、こういう事を今まで黙ってて」
僕は185㎝はゆうに超えていそうな樹くんの綺麗な顔や髪色を見つめながらそう言うと、彼は眼鏡を外して目を細めて微笑み「謝らなくていい」という意味の表情を見せた。
「職業柄、秘密には慣れているからね。俺だって自分のリアルを他者に曝す事は滅多にしてこなかったから、逆に太地くんがここまで俺を信用してくれているのが嬉しい。
そういう男の子は性的嗜好の意味でも大好物だから、太地くんが困っている事は何でも助けようと思うんだよ」
眼鏡をコートの内ポケットに仕舞い、「仕事モード」ではなくなった妖しげな瞳で僕を捕らえ、それによって僕の身体は硬直する。
「お金は……必ずまとめて返済するから、もう少し待ってもらえると嬉しい、かなって」
「たかが32万だよ? 『そのくらいくれてやる』って前にも言った筈だけど?」
樹くんの顔はとてもにこやかなのに、僕の腰や尻に触れている手つきはとてもセクシーでねっとりとしている。
ダッフルコート越しだというのに、彼の指はまるで僕の素肌を直に触れているかのような感触があり、大臀筋に彼の指が触れた途端にキュッとその部分に力を入れて更に硬く締めた。
「でも、初勤務の後でいきなり『家賃が足りないからお金を貸して下さい』って太地くんが土下座してきたのは今でも笑っちゃう」
樹くんは8ヶ月前の思い出話を交えながらクスクスと面白げに笑い、僕から指を離す。
「それは……」
言葉に詰まってしまった。
8ヶ月前の僕は一人暮らし生活をなめていたんだ。家賃以外にも色々とお金がかかってしまい、あの広さは学生1人が抱えられるものではなかったと後悔したんだ。
「『この仕事に就きたいからこっちの大学を受験して親の囲いから抜け出した』って、あの時太地くんは土下座しながら言ったよね。なんかそれでさぁ、『太地くんは今時の10代と少し違うんだろうな』って感じたんだ。『親の囲いから抜け出す』なんてそれなりの家庭関係を築いていたら出ないもん。太地くんの生きていた18年19年には色んな事があったんだと俺は学の無いアタマで想像したよ」
「……」
「その上、太地くんは住まいにもこだわった。学生向け単身アパートにしたって良かったっていうのに、君は譲らなかったよね」
「……」
「太地くんは香織の元でリョウになる事も、あの間取りでたった1人で生活する事もどちらも重要で譲れなかったんだよね」
「うん」
住宅が立ち並ぶ駅出口ではあるけれど、23時半という時間帯だから僕達以外誰も居ない。
だからこそ、僕の相槌はとてもよく響く。
「そういう太地くんがね、俺には魅力的に感じたんだよ。可愛いなぁって」
「ありがとう」
当然の事、「可愛い」「ありがとう」の掛け合いも響いて駅の中へと吸い込まれてしまいそうな気分になって……真冬だというのに身体が熱くて仕方なくなってくる。
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