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「お伽話はどうして、結婚式で終わりを迎えるのでしょう?」
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(芯の強い人だな……霞草の枝みたいだ)
「じゃあ、始めるね。カスミさんはどんな香りが好みかな? カスミさんの事、僕に沢山教えて?」
やはり僕のイメージする霞草と彼女は似ていた。
その実直な目力に僕は微笑み、ベッド横に置いてあるマッサージ用アロマオイルに手を伸ばす。
「えっと……オレンジとか、グレープフルーツみたいな爽やかな香りが好き……かなぁ」
「柑橘系が好きなんだね! そしたら今が旬の香りだ♪
だとしたら柚子なんてどう? 冬至に柚子って昔から言うでしょう? 確か2週間後くらいにあるよね冬至って」
なるべく優しい表情を作ってカスミさんに提案すると、黙って柔らかな微笑みで返事をしてくれた。
「じゃあ僕が手を温めたりしている間に、出せる範囲で構わないからほぐして欲しい部分の肌を出して待ってくれる?
今回僕がほぐせるのは上半身まで。背中なら服を脱いでバスタオルのかかっているところにうつ伏せになってね。脱いだ服はカゴの中に入れてね。
恥ずかしかったら手や腕だけでも大丈夫だよ」
僕はこれからカスミさんに施す行為の「準備」を事務的に説明した。
恐らく、僕が今言った説明はこの部屋に入るまでに樹くんの口から一度聞いている筈だ。それでも僕がもう一度カスミさんに告げるのは、このごく一般的なリラクゼーション店とは一線を介する店に来た女性全てに対する優しさでもあると思っている。
「脱いだら肌をリョウさんにそのまま見せるんだね……バスローブを身につけるわけでもなく」
どこをどう良く表現しようともラブホテルにしか見えない家具配置をしているこの部屋を、カスミさんは今一度グルリと見回しながら質問をすると
「そうだよ。バスルームやトイレはあるけど衣服を脱ぐ為だけには使わせないんだ、僕はね。
だって背中を向けている僕の前で服を脱げなかったら、女性向けのこのような店に来ちゃいけないんだもん」
僕はカスミさんに確認の意味でその言葉を言い、クルリと背を向いて自分の両手を湯に浸けた。
基本的に僕の体温は普通の男性より低めだから、手を温める湯は少し熱めにしている。
風呂の湯も温度によって身体に変化が起こるというのは、既に一般的に認知された常識となっているんだろうか? ぬるま湯にじっくりと浸かれば副交感神経を高めるけれど、熱い湯だとその逆になる。手首から腕をこうして温めていると、これから仕事する僕の士気もより高まり気持ちもシャキッとするから好きな行為でもあった。
交感神経が優位になった僕に対して、触れる女性にとってはちょうどいい表面体温となった僕の手指で癒されてほしい……僕は数分の間浸けていた両手をゆっくりと引き上げて、その場に掛けていたタオルで水分を拭き取った。
「カスミさんは準備出来たかな? 振り向いてもいい?」
(第一印象からして若く大人しそうでこういう雰囲気に慣れてなさそうだもんなぁ……肘のところまでトップスの袖を捲っているだけだったりして)
そう予想を立てながら確認の為の言葉を優しく掛けてあげると
「大丈夫です」
というハッキリとした彼女の声が鼓膜を震わせた。
「じゃあ、始めていくね」
耳から脳へと沁み渡ってゆく心地良い振動を合図に、僕は柚子香のオイルボトルを数回プッシュして片手で受け止めると、ヌルリとした感触をもう片方の手に纏わせ馴染ませた。
それからすぐカスミさんの待つ方へと身体を半回転し、クイーンサイズのベッド全体を己の視界に入れると
「へえぇ……すごい!」
僕は感嘆の声を思わずあげてしまった。
「かっこいいなぁカスミさんって!」
僕の視界にはハッキリと、ベッドのマットレスに敷いた大きめバスタオルの上にカスミさんが上半身裸の状態で天井を見つめたまま横たわっている様子が映し出されていて、彼女の勇気ある行動を褒め称え続ける。
「だってここは普通のリラクゼーション店ではないでしょう? コンプレックスを抱えている自分の胸をほぐしてほしい目的でこの店まで勇気を振り絞ったんだもの。
だから……このくらいは、ちゃんとしなきゃって、思って」
(白い尻尾を撫でている時はか細い声だったのに……さっきの「大丈夫です」が強い語意を含んでるような言い方だったのはこういう意味だったんだな)
「うん、カスミさんはかっこいいと思うよ。すっごく」
僕は頷きながら彼女の言葉に納得し
「胸をほぐす前に、カスミさんの身体の状態を確かめさせてね……その間、僕といっぱいお話をしようね」
小さなパイプ椅子に腰掛けて、首筋や肩、鎖骨や乳腺の辺りを10本の指で確かめてみる事にした。
「じゃあ、始めるね。カスミさんはどんな香りが好みかな? カスミさんの事、僕に沢山教えて?」
やはり僕のイメージする霞草と彼女は似ていた。
その実直な目力に僕は微笑み、ベッド横に置いてあるマッサージ用アロマオイルに手を伸ばす。
「えっと……オレンジとか、グレープフルーツみたいな爽やかな香りが好き……かなぁ」
「柑橘系が好きなんだね! そしたら今が旬の香りだ♪
だとしたら柚子なんてどう? 冬至に柚子って昔から言うでしょう? 確か2週間後くらいにあるよね冬至って」
なるべく優しい表情を作ってカスミさんに提案すると、黙って柔らかな微笑みで返事をしてくれた。
「じゃあ僕が手を温めたりしている間に、出せる範囲で構わないからほぐして欲しい部分の肌を出して待ってくれる?
今回僕がほぐせるのは上半身まで。背中なら服を脱いでバスタオルのかかっているところにうつ伏せになってね。脱いだ服はカゴの中に入れてね。
恥ずかしかったら手や腕だけでも大丈夫だよ」
僕はこれからカスミさんに施す行為の「準備」を事務的に説明した。
恐らく、僕が今言った説明はこの部屋に入るまでに樹くんの口から一度聞いている筈だ。それでも僕がもう一度カスミさんに告げるのは、このごく一般的なリラクゼーション店とは一線を介する店に来た女性全てに対する優しさでもあると思っている。
「脱いだら肌をリョウさんにそのまま見せるんだね……バスローブを身につけるわけでもなく」
どこをどう良く表現しようともラブホテルにしか見えない家具配置をしているこの部屋を、カスミさんは今一度グルリと見回しながら質問をすると
「そうだよ。バスルームやトイレはあるけど衣服を脱ぐ為だけには使わせないんだ、僕はね。
だって背中を向けている僕の前で服を脱げなかったら、女性向けのこのような店に来ちゃいけないんだもん」
僕はカスミさんに確認の意味でその言葉を言い、クルリと背を向いて自分の両手を湯に浸けた。
基本的に僕の体温は普通の男性より低めだから、手を温める湯は少し熱めにしている。
風呂の湯も温度によって身体に変化が起こるというのは、既に一般的に認知された常識となっているんだろうか? ぬるま湯にじっくりと浸かれば副交感神経を高めるけれど、熱い湯だとその逆になる。手首から腕をこうして温めていると、これから仕事する僕の士気もより高まり気持ちもシャキッとするから好きな行為でもあった。
交感神経が優位になった僕に対して、触れる女性にとってはちょうどいい表面体温となった僕の手指で癒されてほしい……僕は数分の間浸けていた両手をゆっくりと引き上げて、その場に掛けていたタオルで水分を拭き取った。
「カスミさんは準備出来たかな? 振り向いてもいい?」
(第一印象からして若く大人しそうでこういう雰囲気に慣れてなさそうだもんなぁ……肘のところまでトップスの袖を捲っているだけだったりして)
そう予想を立てながら確認の為の言葉を優しく掛けてあげると
「大丈夫です」
というハッキリとした彼女の声が鼓膜を震わせた。
「じゃあ、始めていくね」
耳から脳へと沁み渡ってゆく心地良い振動を合図に、僕は柚子香のオイルボトルを数回プッシュして片手で受け止めると、ヌルリとした感触をもう片方の手に纏わせ馴染ませた。
それからすぐカスミさんの待つ方へと身体を半回転し、クイーンサイズのベッド全体を己の視界に入れると
「へえぇ……すごい!」
僕は感嘆の声を思わずあげてしまった。
「かっこいいなぁカスミさんって!」
僕の視界にはハッキリと、ベッドのマットレスに敷いた大きめバスタオルの上にカスミさんが上半身裸の状態で天井を見つめたまま横たわっている様子が映し出されていて、彼女の勇気ある行動を褒め称え続ける。
「だってここは普通のリラクゼーション店ではないでしょう? コンプレックスを抱えている自分の胸をほぐしてほしい目的でこの店まで勇気を振り絞ったんだもの。
だから……このくらいは、ちゃんとしなきゃって、思って」
(白い尻尾を撫でている時はか細い声だったのに……さっきの「大丈夫です」が強い語意を含んでるような言い方だったのはこういう意味だったんだな)
「うん、カスミさんはかっこいいと思うよ。すっごく」
僕は頷きながら彼女の言葉に納得し
「胸をほぐす前に、カスミさんの身体の状態を確かめさせてね……その間、僕といっぱいお話をしようね」
小さなパイプ椅子に腰掛けて、首筋や肩、鎖骨や乳腺の辺りを10本の指で確かめてみる事にした。
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