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【最終章】愛を包む
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しおりを挟む「ふぁ……」
今年も今日で終わる。
大晦日の朝、私はいつものようにりょーくんの腕の中で目覚めた。
「んっ」
私のモゾモゾした動きに彼も目を覚まして
「おはよ♡ りょーくん♡」
「あーちゃんおはよ♡」
朝の挨拶をして……
「寒い?」
「うん、寒い……から」
「きゃあ」
「もうちょっとくっつこ♡」
「ひゃあん♡」
ちょっとだけ、イチャイチャ♡
「んふう♡」
「んちゅっ……ぁん♡」
年末年始休暇だからこそ出来る、幸せな朝の時間……
では、あるんだけど
「ダメダメりょーくんっ!! ちゃんと起きなくちゃ!!」
私は今日中にやらなければならない事があって、すぐに跳ね起きる。
「えっ? まだ良いんじゃないの?」
「ダメなのダメなのっ! 結構時間かかるんだからっ!!」
私はそう言って寝室を出ると、服に着替えたり洗面台の前に立ったりとパタパタ動く。
「だって、重箱に詰めるだけでしょ? 昨日お姉さんと一緒にお節料理の具材全部用意したんだから」
りょーくんは私を追いかけながら同じく服に着替えて私と同じタイミングで歯を磨いている。
「ただ詰めれば良いってわけじゃないんだもんっ」
「そういうもん?」
「そういうものっ!」
「……ふぅん」
りょーくんは私みたいに急いで支度しなくていいんだけど、こうして同じタイミングで身支度してくれる姿は可愛らしいし、「私に迷惑をかけてはいけない」と真面目に考えてくれているようでいて嬉しい。
「手伝おうか?」
キッチンでエプロンを身に付けている私にそう呼び掛けてくれたんだけど
「それはダメっ! 私1人でやりたいからっ!!」
私は断固拒否をした。
「えっ」
「料理を詰めるところをりょーくんと一緒にやったら、重箱開ける楽しみ無くなっちゃうんだもん!」
「開ける……楽しみ?」
りょーくんはあまりピンときていない。
「そうそうっ! 楽しみはとっておかなくちゃ」
「楽しみ……」
彼がお節料理に対してあまり良い印象を持っていない事は私も知っていた……だから彼が私の意見に全然納得していない様子でいるのも理解している。
「そうだよっ! 夕紀さんの和食の腕はりょーくんも知ってるでしょ?」
「うん」
「夕紀さんに教えてもらいながらお節料理作るの2回目だけど、前回よりもめちゃくちゃ美味しく出来てるのっ!それをきちんと重箱に詰めた完璧な状態をりょーくんに見てほしいのっ!!」
(だからこそっ! 今年はっ!! このお節料理を頑張りたかったんだもんっ!!!)
「そっか……」
私の強い語気にりょーくんはコクンと頷いてキッチンのカウンターから一歩離れ
「ごめんねりょーくん、完成したら必ず呼ぶから」
「分かった……俺もお姉さんから頼まれごとあったし、部屋で作業してくる」
廊下をペタペタ進み始めた。
「ごめんね! すぐに朝ごはん作ってりょーくんのお部屋持って行くから」
りょーくんの部屋には、ベッドの他にも机やちょっとしたカフェテーブルが置かれている。
「ありがとう」
「朝ごはん食べようね!」
「うん……取り敢えず先に玄関のお花の水やりしてくるね」
「ありがとうりょーくん」
キッチンの私と、廊下のりょーくん。
少しだけ離れた場所からの会話のやり取り。
……顔を合わせずな会話はちょっと申し訳ない気もするけど、私はそこまで嫌いではなかった。
(さぁて! 冷蔵庫からタッパー全部テーブルに並べながらトーストとコーヒーの用意だっ! 今日は忙しいぞっ!!)
りょーくんが玄関に置いてあるお正月用のフラワーアレンジメントに水やりをしたり、パタンとドアの音を立てていたりしている間、私は猛烈に頭をフル回転させて簡単な朝ごはんを作りトレイの上に乗せる。
「りょーくん、お待たせー」
ドアのパタンを聞いて10分後、私はそのドアをコンコンノックして彼を呼んだ。
「あっ、持って来てくれてありがとうあーちゃん」
りょーくんはすぐに部屋の中に私を招き入れ、トレイをゆっくり優しく持ち替える。
「簡単な朝ごはんでごめんね」
コーヒーはお店でも出している今月限定ブレンドの豆を使ってはいるんだけど、いつものダイニングテーブルではないから、今朝のトーストは省スペース向けにスクランブルエッグを食パンの上に乗っけただけという簡素なものにしていた。
「作ってくれる事がありがたいんだよ。いつもありがとうあーちゃん」
りょーくんはそれでも私にニコッと微笑みかけてくれ、私を作業用机の椅子に座らせた。
「そういえばこの部屋で食事するのって初めてじゃない?」
りょーくんは、アパート時代から使っている大きなビーズクッションに腰掛け、コーヒーカップを手にして香りを優雅に嗅いでいる。
「ああ……そういえばそうだよね」
今日もやっぱりりょーくんはイケメンで素敵だなぁと感じる反面……
「今日は朝からダイニングテーブルを占領しちゃうからね」
「……そんなに見せたくないんだね。料理を詰める作業」
その言葉は私の心をキュッと痛ませる。
「うん、ごめんね」
「サプライズ的なもの?」
「まぁ……そんなところかなぁ」
「そっかぁ」
「うん」
りょーくんはコーヒーを一口飲んで、立ち上がり、コーヒーカップとソーサーをテーブルに置き、代わりにトーストの皿を持って再びストンとビーズクッションに腰掛ける。
(めんどくさいよねその立ち上がる作業……本当にごめんね)
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