【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

文字の大きさ
上 下
238 / 251
【番外編】包み隠さず

3

しおりを挟む



「さっき飲んだグリューワイン、結構美味しかったね」

 クリスマスデートも終わり、電車を降りた私達はマンションまで歩いていた。

「うん♪ スパイス入りの赤ワインなんてどんな味なんだろうと思ってたけど美味しくて身体もまだポカポカするよ♡」
「ポカポカなのはワイン飲みすぎたからでしょ」
「違うよぉスパイスの効果だもん」

 デートはお昼前から始まって、お互いの欲しいものをクリスマスプレゼントとして買ってあげたり、ランチの後に映画を観たりゲーセンでちょっと遊んだり。
 夕方からはクリスマスマーケットでグリューワインやドイツ料理を食べるまではかなり健全なデートだったと思う。

 でも、帰りの電車から私の胸はドキドキしていた。

(ワインや料理を楽しんでお腹いっぱいになったら外デートは終わりでしょ?
 帰ったら……部屋の中に入ったら……りょーくんとのラブラブな時間が待っているわけで……。  
 2人でいつものようにお風呂入って、りょーくんにバレないようにこっそりアレを身につけてってしなきゃいけないし)

 りょーくんは終始ニコニコで私に接してくれてるのに私は夜の事で頭がいっぱいで「グリューワイン、美味しいしあったまるから」とか、何だかんだ理由をつけて何杯もお代わりしてしまった。

 緊張をアルコールで誤魔化して飲み過ぎるっていう話をよく聞くけれど、今の私がまさにそれだ。

「あーちゃん大丈夫?」

 ふいに足元がふらついて頭がりょーくんの体をトンっと突いてしまったので、心配なのか優しい腕が私の腰を支えてくれた。

「うん! 大丈夫!! へーきへーき!!」
「本当に? ちゃんと歩ける?」

 強がってみたけど、りょーくんは心配の表情を崩さない。

「大丈夫だよ! りょーくんに荷物たくさん持ってもらっちゃってるしこれでおんぶとかしてもらったらりょーくんの体がもたないし」

 首をブンブン横に振りながらそう言ったら

「ぶっ!! おんぶって!! 可愛い♡」

 と、りょーくんが噴き出した。

(うわわ……私、変な事言っちゃった!)

「ごめんりょーくん! 変な事言っちゃった!!」

 あわあわする私にりょーくんはケラケラ笑いながら

「いや、別にやろうと思えば出来るけど?」

 と言うので私はまた首をブンブン横に振ってお断りした。

「本当に平気だから。ちゃんと歩けるし、その後も……大丈夫だし」

 冷気に覆われながら歩いてるのに、自分の発言のせいで顔が熱い。
 そんな私の表情をりょーくんは覗き込むようにしばらくジーっと見て……

「大丈夫ならいいんだけど」

 ポツリと呟き、私の腰に回していた腕の力をキュッと強くした。



 帰り道はりょーくんに支えられていた私だけど、りょーくんと一緒にシャワーを浴びて色々洗い流している内に酔いが覚めていき

「俺、飲み足りないから先に出て昨日買ったやつ開けるけどあーちゃんはどうする?」

 りょーくんからそんな事を提案された。

「あ、私はいいや」
「そう? じゃ、リビングでちょっと飲んでくる」

 たしかに昨日の夜、美味しいって評判らしいロゼワインを買ったという話を聞かされていた。

(りょーくんは私と違ってグリューワインを二杯だけしか飲まなかったから、そのワインを飲むのを密かに楽しみにしていたんだろうなぁ)

「うん、いってらっしゃい」

 バスルームからりょーくんにヒラヒラ手を振って見送り、扉が閉まる。


 ……。
 …………。

「よしっ! こっちはこっちでぐちゃぐちゃになってた頭の中をスッキリ整理しなくちゃ!」

 りょーくんにバレないようにを着るミッションを遂行させることにした。

「うわぁ……完全にヤバくない?」

 自分の部屋に入りを身に付けて姿見の前に立ってみたら、ネットショップの画像とは似ても似つかない自分の姿に悲しくなる。

「これって正解? 私なんかが着ちゃダメなヤツだったんじゃない??」

(身に付ける方法は事前にネットで調べたし、サイズもバッチリ合っていたはずなんだけど本当に私ってスタイル悪いんだなぁ……)

「この姿でりょーくんの前に現れたら、彼は何て表情をするんだろう?喜んでくれるのかな?  
 それともさっきのおんぶ発言の時みたいに噴き出しながら笑っちゃうかな? ……いやいや、りょーくんに限って笑い飛ばしはしないだろうけど」

 自分の姿を見つめるているうちに「いっそのこと脱いでしまって全部無かった事にしてしまおうか」という考えが浮かんで

「……いやいやそんなの真澄にバレたらめちゃくちゃ怒られそうだしぃ」

 直後、真澄の顔が浮かんで思い直す。

「……あーちゃーん?」

 姿見の前でブツブツ呟き頭を駆け巡らせていると、廊下からりょーくんが私を呼ぶ声が聞こえた。

(ヤバい! りょーくんが私を探してるじゃん!)

「今すぐ行くからっ。寝室で待ってて!」

 部屋のドアを少しだけ開け、りょーくんがちょうど背を向けたタイミングを見計らってそう呼びかける。

「え? そっちの部屋に居るの?」

 私の声に反応してこっちを振り返ってきたのでドアをピッチリと閉め

「すぐに私も寝室行くからりょーくん先に待ってて!」

 もう一度言って彼がその場を離れるまでドアに耳をつけ、しばらくジッとしていた。


 りょーくんは私に言われた通り、私の部屋のそばを離れて寝室へ入ったらしい。

「ふぅ」

 廊下を通って寝室のドアを開ける音まで確認できた私は安堵の息を漏らした。

「そうだ……唇くらいは塗っとこうかな」

 自分のこの姿が残念なのはすっぴんの所為もあっただろうと思い、赤みの強いルージュを姿見の前で塗り塗りした後で部屋のドアを開ける。

(うん! りょーくんに見られてないっ! 廊下は私1人だぁ)

 意を決して廊下に足を踏み入れ、寝室の前で深呼吸する。

「よしっ」

(りょーくんにお披露目だ!)

 コンコンと軽くノックをして、私は寝室を開けてりょーくんの前に現れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

強引な初彼と10年ぶりの再会

矢簑芽衣
恋愛
葛城ほのかは、高校生の時に初めて付き合った彼氏・高坂玲からキスをされて逃げ出した過去がある。高坂とはそれっきりになってしまい、以来誰とも付き合うことなくほのかは26歳になっていた。そんなある日、ほのかの職場に高坂がやって来る。10年ぶりに再会する2人。高坂はほのかを翻弄していく……。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...