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【番外編】包み隠さず
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しおりを挟む12月に入って、街は一層クリスマスモードになってきた。
「ねぇ朝香。イブは亮輔くんとどこかへ行ったりするの?」
今日は真澄と午前中にお買い物をして、今はイタリアンのお店でランチ中だ。
「24日25日は仕事あるから、クリスマスデートは23日にするの」
トマトクリームパスタをフォークに巻きつけながら私は真澄の問いに答える。
「クリスマスとは直接関係なさそうなのに珈琲屋さんも大変なのね」
「目立たないようで12月は案外忙しいんだよ。クリスマス前まではギフトの依頼が集中するし、何よりケーキにはコーヒーが付きものだから」
私の話に真澄はゴルゴンゾーラのピザを口に含みながら
「……確かに」
と呟く。
(そうなんだよね……珈琲屋って地味なようでクリスマスだとかバレンタインだとかイベント時期に左右されやすい職業なんだよねぇ)
まして夕紀さんのお店はスペシャリティコーヒーを扱っているから、「年末年始はちょっと良いコーヒーを飲みたい」と考えている人もかなりの割合居たりする。コーヒーも案外忙しいのだ。
しかもこの頃、「商店街の活性化」って名目で夕紀さんは商工会のメンバーと会議に参加するようになってきたから私一人で店を任される事が増えてきた。
(お店を任されるのは嫌じゃなくて寧ろ嬉しいんだよね。
でも、りょーくんに手料理を食べさせてあげられなくなってきてるのが寂しいかなぁ……。
昼休憩も休める時にお互い取りに行くスタイルになって、家に戻って夕飯の支度をする時間が取れなくなっちゃったし。何より遊びに行く時間が本当に無いっていうか)
「だから今月入って最初の日曜日に真澄と遊ぶこの日を心待ちにしてたんだよねー」
私がパスタをもぐもぐしながら力を込めてそう言うと、真澄は苦笑した。
「結構ストレス溜まってそうだねー」
「そうそう! ストレスたまりまくり!!」
ストレスは確かに溜まってきているから、真澄の言葉に首を縦にブンブンと振って見せたんだけど……
「じゃあ今日はセクシーな下着選ばなきゃだね!」
「そうそう!! ストレス溜まってるからこそセクシーな………って…………………えええ???!!!!」
危うく「セクシーな下着」の部分にまで首をブンブン振りそうになり、硬直する。
「どういうこと??」
意味が分からなくて目を見開く私に
「どういうことって、そのままの意味だけど?」
と、真澄は真顔で答える。
「ストレス溜まってるなら今まで着けたことないヤツ買って亮輔くんにバーンと見せつけて濃厚にイチャイチャラブラブしちゃえばいいのよ。クリスマスなんだし」
「ちょっとちょっと真澄ぃ! 外でイチャイチャラブラブとか言っちゃダメだよぉ!!」
白昼堂々、急に放り込まれてきたワードにビビって辺りを見回す私。
「私達の話に聞き耳立てる暇人なんか居ないよ」
それなのに真澄は平然としているんだから本当にビックリする。
「去年のクリスマスはイブの前にちょこちょことイルミネーションのハシゴして終わったんでしょ? そんなショボいデート今回も繰り返すつもり?!」
「ショボいって……酷い言い方だなぁ。りょーくんとチーズフォンデュしてすっごく楽しいイブも過ごしたんだからねっ!!
確かに、私が以前から気になってたクリスマスマーケットに行く約束はしてるけどぉ」
「今年は去年より朝香は忙しくしてるんだからあま~いクリスマスは過ごせないって事にならない? イブは朝から仕事なんだからそのクリスマスマーケットとやらも泊まり無しで家帰っちゃうんでしょ?」
「そりゃあまぁ……そうだけどぉ」
「ショボっ!!! 中学生のデートじゃないんだから!」
「ちゅっ……中学生じゃないもんっ!!」
悪態を吐く真澄に、私は少しムッとした。
恐らく真澄は「お洒落なお店でディナーしてから眺めの良いホテルとか泊まって過ごすくらいしろ」って事を言いたいんだと思う。
「朝香の彼氏がほんわかした天使なら私だって文句言わないよ。
相手がエッチな事が大好きなド変態彼氏だから助言してやってんの!」
「ド変態彼氏……」
勿論それはりょーくんの事を言ってるんだろう。去年秋に真澄がお泊まりしたあの夜の事をまだ根に持っているのかもしれない。
「りょーくんだって頭の中エッチな事ばっかりじゃないよぉ」
真澄に対するモヤモヤした気持ちを抱えたまま、コーヒーで口の中のトマトソースを流し込もうとしたら
「いーや! 絶対にヤバイよ! 最近の笠原くん、めちゃくちゃストレス抱えてるもの」
真澄のその一言でモヤモヤがスーッと別のものに成り代わった。
(えっ?? ストレス??!!)
「りょーくん……大学でなんかあったの?」
(そういえば自分の仕事で頭いっぱいになった所為で、りょーくんにあまり構ってあげられなかったかもしれない……)
大好きな彼氏がストレス抱えてるなんて初めて耳にして、私はかなり動揺してしまう。
真澄は私の顔を見て口元を抑え
「失言失言っ……まぁ、大した事じゃないんだけどね」
とはぐらかそうとする。
「え?! なんなの? すごく気になるんだけど?」
気付かなかった私が悪いんだけど、私の知らないところで彼氏が何かあったのかと思うと心配でならない。
「朝香に愚痴ってないならいいのよ。多分本人で解決するんだろうから」
「えー?! 何それ? めちゃくちゃ気になるんだけど!!」
(なんだろ? ゼミで何かあったのかな?
それとも就活セミナーでとか??)
それからも何があったのか真澄から聞き出そうとしても教えてくれなかった。
「ストレス云々は私から見てそう感じただけで、本人は何とも思ってないかもだし。笠原くんから何も聞いてないなら私が言う話じゃないから」
「……」
「とにかく! もう中学生じゃないんだからさぁ、セクシーな下着を身に付けて21歳なりのクリスマスを笠原くんと過ごすべき! って言いたいわけよ、私は」
「セクシーな下着って……Tバックなら既に何枚か持ってるんだけど」
私だって大人だし。
りょーくんとの付き合いの中でそういうのは何枚か持ってるんだから!と鼻息を強めてみたものの、真澄の表情は冷たくて
「だーから中学生って言ってんのよ、このお子ちゃまっ!!」
って、ジト目で睨まれてしまった。
「中学生がTバック履くわけな……」
「ちなみに、私はこういうのネットで注文したよ♪」
私のセリフを搔き消し、スマホの画面を突然見せてきた。
「んもぉ……いきなり画像って」
少しムッとしながらも、私は真澄のスマホ画面を覗き込んだんだけど
「えええ??……何コレ?! 何がどうなってんの?」
別の意味で、映し出されているものが何なのかさっぱり意味が分からない。
「どういうことっていうか、こういう下着としか言いようがないんだけど」
「っていうか、真澄はなんとも思わないの??!! こんな破廉恥な!!」
スマホ画面と真澄の顔を交互に見ながら狼狽える私に対して真澄はジト目のまま言い返す。
「いや、普段朝香たちがしてる事の方が充分破廉恥だし」
「私達の何を知ってんのよっ」
「聞かなくても分かるよ。朝香いっつも服で隠しきれないところにキスマーク付いてるし、この前の旅行だって2人して次の日変な顔してたじゃない」
(うそっ!!!! ヤバすぎるじゃん! 私達!!)
「朝香たちがしてる事に比べればこんなのフツーだよ」
真澄はそのまま私の分の下着をサッと選んでしまい、購入手続きを済ませてしまった。
「ちなみに下着は朝香達のマンション近くのコンビニで引き取り出来るようにしたからね」
「え?? お金は??」
「そんなに高いもんじゃないし、私からのクリスマスプレゼントって事で。その代わり、何が届くかは内緒ね♪」
「デザインが内緒って……めちゃくちゃ怖いなぁ」
買ってくれるのは嬉しいけど、この場合喜んでいいのやら悩んでしまう。
「お腹もいっぱいになった事だし、買い物の続きいっちゃおっかー!」
真澄はスマホを鞄の中に入れ、私の目の前においてあるカップの中身を空にするよう促す。
「えっ! ちょっと待って!!」
急かされながらコーヒーを飲み切って、椅子に掛けていたコートに袖を通した。
(んもぉ~! 真澄ったら強引だなぁ)
真澄は優しい親友だ。今回の豪快な提案だってちゃんと理由がある事を理解している。
(りょーくんの「ストレス」の事を気遣って、無理にでもあの下着を私に身につけさそうとしてるんだろうけど……でも……)
(それにしてもりょーくんのストレスって……
一体何が要因なんだろう?)
真澄と楽しく買い物をしながらも、私はりょーくんのストレスの件が気になって仕方なく、頭の中をモヤモヤぐるぐるさせていた…………。
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