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うなじ濡れる時
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しおりを挟む11月初めの連休を利用して、私とりょーくんは海辺の温泉地に向かっている。
「海だぁ~!!」
「相変わらず海が大好きなんだねぇあーちゃんは♪ 子どもみたいに喜んでるっ……フフッ♪」
私がテンション高く声を上げるなり、隣のりょーくんが可笑しそうに笑った。
「えー? いいじゃん海! 寒くなかったら入りたいくらいだよ!」
「じゃあまたあの赤い水着着てくれる?
それだったら海の中入るとこ見てみたいけど♡」
「んもう! 夏みたいに水着姿で今すぐに海水浴したいっていう意味じゃないってば!!」
りょーくんの方を振り向いて反論するんだけど、あんまり共感してもらえない。
(海水浴ってほどじゃなくて、足をちゃぷんと浸ける程度の「入りたい」なんだよぉ~! りょーくんには分からないかなぁそういう気持ちっ)
「ほらあーちゃん、もうすぐ駅に着くよ」
海が見えて興奮したのは一瞬。
すぐに駅に到着し、りょーくんに手を掴まれる。
「あっ私の荷物……!」
すぐに荷物を持って出なきゃ!と足元を見たら既にモノはなくて
「俺が持つよ」
2人分のカバンを、りょーくんは片手でひょいっと持ち上げる。
「えっ? 自分の荷物くらいは持つのにぃ」
列車から降りた後も私は手ぶらのまま。
りょーくんの方を見上げてそう言ってみたんだけど
「今日の主役はあーちゃんでしょ? あーちゃんは楽していいんだよ♪」
と、言って彼は優しく微笑んだ。
「主役……そっかぁ」
「主役」の言葉に思わずニヤける私。
「そうだよ♪ 今日と明日はあーちゃんのお誕生日プレゼントと思っていいんだからね。
少し遅れちゃったけど、俺からのプレゼント旅行♡」
……そう。今日は少し遅れた私の誕生日旅行なんだ。
ずっと前からりょーくん1人で計画してくれてたらしく、今日も明日もプランはりょーくん任せというドキドキワクワクな一泊旅行となっている。
温泉旅行に行く事を知ったのはつい2週間前。「誕生日当日から日にちずれるけど」って言われてビックリした。
去年がすごく凝ったことをしてくれて嬉しかったのに、今年は旅行だなんて更に輪をかけて嬉しい♪
「私がもっと時間に余裕があれば平日とか土日使って行けたのかもしれないけど」
あいにくお店は日祝休みだから普通の大学生のように時間を使えず、りょーくんに申し訳なく思う。
「逆に日祝休みだったからこそ、この旅行の計画が立てやすかったんだ。俺のコンビニバイトみたいに勤務時間も休みも不規則だったらこうはいかなかったからね」
申し訳ない気持ちを、すぐにりょーくんはイケメン笑顔で優しく包んでくれたんだけど
「そう……?」
「でもうっかりこの休みが金土日の三連休だと勘違いしちゃってお姉さんに『土曜日あーちゃんにお休みを下さい!』ってお彼岸前に土下座する事になっちゃっだんだけどね……」
「えっ? そうなの??!」
今回、夕紀さんからあっさり土曜日休みの許可をもらえた事の種明かしをされて私は冷や汗をかいた。
(りょーくんが夕紀さんに直談判してくれたのはすごく嬉しいけど、なんか夕紀さんに悪い事しちゃった気もする……)
りょーくんは後頭部を触りながら申し訳なさそうに頷く。
「だからこの旅行ではさ、あーちゃんを楽しませる事は勿論なんだけど、お姉さんの優しさをきちんと噛み締めながらの大事な思い出にしたいなって俺思ってて」
「あ……」
彼の正直な態度や言葉選びで私はハッとした。
(そっか……誕生日旅行出来る事を申し訳ないって思っちゃったら、りょーくんにも夕紀さんにも失礼になっちゃうんだ)
一杯のコーヒーが大勢の人達の愛情によって作られるのと同じで、私達が今ここに居るのも夕紀さん含め様々な人達の力によるものだ。
「ありがたい事だもんねっ! りょーくん!!」
私は彼の目をまっすぐに見つめながら微笑んでみると
「うん♪ そうだよね!」
彼も私と同じように微笑み返してくれた。
「それにっ! 夕紀さんには『スペシャルなお土産を渡す』って約束したの。
なんたって今日は夕紀さんのお誕生日でもあるんだし」
「あーちゃんもお姉さんに言ったんだ? 実は俺も似たような事をお姉さんに言ってさぁ」
「そうだったんだ! じゃあ一緒だね♪」
「うん♪ あーちゃんと一緒♪」
そして今日11月3日は夕紀さんの33歳のお誕生日でもある。
りょーくんとの旅行も勿論楽しむけど、日頃からお世話になっている夕紀さんに喜ばれそうなお土産選びもしようと心に決めた。
「そういえばあーちゃんお腹空いた? この辺りでお昼食べていこうよ」
駅前の商店街を抜けたところでりょーくんがそんな事を言う。
「え? 荷物はまず泊まるところに預けるんじゃなくて?」
(ご飯も食べたいし観光もしたいけど、りょーくんは荷物邪魔じゃないのかな……?)
今日宿泊予約をしているなら、チェックイン前に荷物を預けたら良いんじゃないかと私は思ったし、夕紀さんにもそうアドバイスを受けていた。
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