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【番外編】余る、袖(亮輔side)
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しおりを挟む今日は一限からずっと矢野と藤井カップルとの授業だ。
「あー……二限終わったぁ……しんど」
あーちゃんは二限に来るけど科目が違うから昼休みにしか会えない。同棲してるのにこれは少し寂しい。
二限が終わり、スマホを覗くとあーちゃんから連絡が入っていた。
「あーちゃんも授業終わったみたい。カフェテリアの席取っといてくれるってよ」
俺がスマホ画面を見ながら矢野にそう言うと
「あ~助かるー! ここの教室、カフェテリアから一番遠いもんねぇ!」
と、俺以上に嬉しそうな声を出していた。
(そっか……矢野、あーちゃんと学内で会うのが何気に久しぶりなのか)
彼氏よりも親友の方が再会に喜ぶという状況に俺はハッとする。
それほど俺ら就活生と実質的な就職内定者あーちゃんとの間には授業コマ数の隔たりがあるのだ。
(メールではしょっちゅうやり取りしてるらしいけど、やはり直接会って話したいもんだよなぁ……)
親友同士なんだから、別に矢野が俺らのマンションへ泊まりに来て楽しんでもらったっていい。けれども厳格な……というかごく常識的な矢野の両親は一人娘のお嬢さんの外泊を頻繁には許しておらず「ちゃんとした理由」がないと基本的に無理となる。
藤井みたいな自由奔放な一人暮らし男とはハードルの高さがそもそも違うのだから矢野はあーちゃんと会いたくてたまらないのだろう。
「矢野は急げよ、カフェテリア。俺と藤井はゆっくり歩いて追いかけるから先に2人で昼メシ食っとけば?」
だから俺はそう言って矢野に笑いかけてやった。
と、同時に
「お前は2人の話に首突っ込むんじゃねえぞ」
と藤井の腕を引っ張って耳打ちするのも怠らない。
「えー? なんでだよー! 俺もますみんと朝香ちゃんと話したい」
それでも食い下がるからさらにその腕をグイッと引っ張り
「空気読めよこの野郎。ガールズトークしたいんだよ矢野は!」
と、追い討ちをかけてやるとシュンとしやがった。
「えっ? 何? トモが何かした?」
一旦は駆け出も、俺らの空気を察した矢野がすぐにこっちを振り向いたのだけれど
「気にすんな。早くあーちゃんのとこ行ってあげて」
と、先に行かせるよう手で合図してあげると
「じゃ、後で笠原くんも来てよね! 絶対!」
やはり矢野は嬉しそうな顔をしてそう言い残し、パタパタと走り出した。
「あーあ、ますみん行っちゃった……」
俺に掴まれながらポツリと呟く藤井。
「女同士話す時間くらい分けてやれよ」
こうやって頭を小突かないとマジで気が付かないようだ。
(俺と違ってコイツは常に矢野のそばにくっついてられるから、逆にそう言う事に気が付かないんだろうなぁ……もう少し察する力付けないと矢野にそのうち嫌われるぞ?)
矢野と同等の親友である藤井に対して、そんな心配をかけてしまう。
「あー、そうそう。この間の事なんだけどさぁ」
カフェテリアまで後10メートルという地点で、藤井は思い出したかのように俺に向かって話し始めた。
「彼シャツ、やってみたんだよ。俺とますみんって身長差あんまりないからちゃんと萌え袖になるかなーとか思ってたんだけど、案外イケるもんだね♪」
「ん?」
(コイツ、なんて言った?今。
枯れたシャツ? 燃えた袖? ……何語を喋ってるんだ一体)
あーちゃんよりも過ごす時間の方が長くなりつつある親友の口から発せられたというのに、ちっとも理解が進まない。
「えっ? 萌え袖よ? 萌え袖」
空気読めない男とはいえ、怪訝な顔で俺に見られている事には気が付いているんだろう。藤井は何とも不思議そうに首を傾げていた。
「いや、首を傾げたいのは俺の方なんだけど。袖が燃えるとか訳のわかんねー事言って」
本当に意味が分からずそう言った途端、藤井は「えええ?!」とデカイ声をあげる。
「馬鹿か! でけぇよ声が!」
即座に藤井の頭を引っ叩く俺。
案の定周囲の視線が全て俺らの方へと向けられた。
(ああ……周りの目線がこっちに集中してきて痛い)
「いてっ……! ってかさぁ、知らない方がおかしくない? 彼シャツだよ? 彼シャツ!!」
叩かれた頭をさすりながら小声で「知って当然」のようにそう言うんだが
「だからなんなんだよ、その枯れたシャツって」
知らないものは知らないのだからどうしようもない。
「えー、マジかよ。笠原と朝香ちゃん、めっちゃ身長差あるんだからとっくにやってるもんだと思ってた」
「…………身長差に関係あるのか? 枯れシャツって」
(確かに俺とあーちゃんとは30㎝の身長差あるけど)
すると藤井はもどかしそうに頭を掻き
「もうすぐますみん達と合流するから手短に説明するけど、要は朝香ちゃんに笠原のロンTとかワイシャツとか着てもらうんだよ。それを『彼氏のシャツ』って意味で『彼シャツ』って言うの!」
と、噛み砕いて枯れシャツ……もとい彼シャツの説明をしてくれた。
「ふぅん…………で、それのどこがいいんだ? サイズ合わなさすぎだろ?」
俺の反応に藤井は「全く話にならない」と呆れた表情になり
「詳しくはスマホで検索してみたら? 絶対笠原が気に入るネタだと思うからっ!」
と言い捨てて、あーちゃん達のテーブルへと急いで行ってしまった。
「彼シャツ……ねぇ」
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