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【番外編】彼のおトモダチ
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しおりを挟む月曜日の朝。
この日は午後からの授業だったので、開店前の支度を夕紀さんとしていた。
「随分とお疲れみたいね、朝香ちゃん」
着替える時に腰を押さえていたのを夕紀さんに見つかったらしい。
「それは……ちょっと、何といいますか……」
疲れの理由を口にするのが恥ずかしくてもにょもにょしている私に
「大丈夫よ! 『亮輔くんとラブラブ』って事でしょ? わかるわかるっ!!」
夕紀さんはそう言いながら私にうんうん頷いている。
(同棲カップルが日曜日をのんびり過ごしたんだもん。お見通し……ですよねぇ)
「朝香ちゃんは亮輔くんと相変わらずラブラブだし、せめて目の保養になるイケメンが近くに居てくれたらいいのに。
そしたら妄想して楽しめるんだけどなぁ~」
「えっ?妄想??」
何年も夕紀さんと接してきたけど、そんな発言初めて耳にしたのでビックリした。
「それって、上原さんみたいな感じのハンサムさんって事ですか?」
一昨日珈琲豆を持って行った時の事を思い出してそう尋ねてみる。
夕紀さんは私の言葉に「うーん」と唸って
「上原さん? ……まぁ、そうねぇ……でも上原さんって恋人がいるんでしょう? 相手が見えちゃうと妄想にならないのよ。なんか萎えちゃうっていうか」
と、ハッキリと首を左右に振った。
(女性の影が見えちゃうと妄想にならない……かぁ。なるほど)
「そういえばこの前、上原さんのご友人とお話する機会があったんですけど、彼もイケメンでしたよ」
フリーなのかはわからないけれど、この前陽介さんに会った話をしてみた。
「へぇ~どんな感じの人?」
夕紀さんがノッてきた。
「すごくお洒落でカッコいいんですよ。
アクセサリーを扱うお仕事してる方で、この近辺もほぼ毎朝通るみたいですよ」
陽介さんが毎朝上原さんに持って行く食事は、以前は上原さんのコンビニの商品を買ってあげてたんだけど最近は『タカパン』さんにほぼ毎日買いに来ているらしい。
「えっ!? 嘘!! 『タカパン』のお客さんにお洒落イケメンが居るの??!!」
(ヤバい!夕紀さん興奮気味だ!!)
「そう……だと思いますけど」
「へー! どんな人なんだろ! 私も会えるかなぁ?」
「朝って言ってましたけど何時にここ通るか聞いてないんで……どうなんでしょうね?」
「何時か分からないけど、確実に朝の時間帯ここを通り過ぎるんでしょ? 見掛けてみたいもんだわ~♪」
夕紀さんの異様なテンションに面食らい「朝からこの話題出すべきじゃなかったかな?」……と、軽く後悔する。
「お店の観葉植物にお水あげてきますね!」
どうすればいいが分からなくなった私は夕紀さんにそう言い残し店内から外へ出て行く事にした。
今は9時30分。
店のシャッターはまだ上げないけど、店の前を掃き掃除したりジョウロで観葉植物に水をあげたりする時間帯だ。
月曜日と土曜日は私が担当してる業務だけど、それまでは全日夕紀さんが一人でやっていた。
(夕紀さんが見た事ないって表情してたから、こんな時間に陽介さんが通る事はないんだろうなぁ……タカパンさんみたいに開店時間が早ければ会えたかもだけどっ)
背伸びしながらハンギングプランターに霧吹きをかけていると
「チビだなぁ」
と、男性の声が背後から聴こえてきた。
「陽介さん?!」
まさかと思ってた彼の存在に声が大きくなる。
「相変わらず声がデカい女だなぁ」
片耳に指を突っ込んで顔をしかめたと思ったら、私の手から霧吹きを取り上げる。
「え」
「こうしときゃいいのか?」
陽介さんは霧吹きをハンギングプランターの中に差し入れてシュッシュッと吹き掛けてくれた。
「ありがとうございます」
「次からは踏み台持って作業しろよ、チビ」
霧吹きを返され、自分の至らなさにちょっと恥ずかしくなってしまった。
「すみません……」
「俺は店主じゃないから謝られても」
「それもそうですよね」
「フフッ」
苦笑いする私を見て、陽介さんは鼻で笑った。
「じゃあな。また会うかどうか分かんないけど」
彼はまた歩き出し、離れて行く。
「あ、はい。また……」
彼の背後に手を振ると
「あ、そうだ」
何かを思い出したようでその場に立ち止まり、またこっちへと振り向いて……
「珈琲豆、新しいのも持ってきてただろ? あれ、美味かったよ」
突然私が手掛けたブレンド豆を褒めてくれた。
「ありがとうございます! 新しい豆って、いつものグアテマラじゃない方ですよね? あれは私が作ったブレンド豆なんです」
「へぇ~なんか、甘い香りっていうのか? いつも飲むやつよりも好みだったよ」
「言いたかったのはそれだけ」と、付け加えて陽介さんは去っていった。
「……褒められちゃった」
確かにあのブレンドは上原さんの好きなグアテマラより甘さを重視していて、「コーヒー好きかは分からないけど上原さんの恋人さんにどうかなぁ」と持って行ったつもりだったんだ。
(そっか……今朝、陽介さんも飲んでくれたんだぁ)
しかも私の作ったブレンドの方が好みだったって褒めてくれてかなり嬉しい。
「よしっ! シャッターを開けなくっちゃ!」
(午前中仕事したらすぐに大学も行かなきゃだけど俄然やる気出てきたぞ!!)
私が意気揚々とガラガラとシャッターを上にあげて、さっき言葉を交わした人の事をニコニコ顔で夕紀さんに報告したのだった。
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