【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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【番外編】彼のおトモダチ

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「それにしても俊哉、なかなか帰って来ねぇなぁ」

 陽介さんはそう言いながら時計の方に顔を向けたので私も一緒になって時間を確かめる。

「えっ!? もうこんな時間??」

 上原さんが「すぐ戻る」って言ってたからお言葉に甘えてしまったけど、そろそろ帰っておかないとヤバいかもしれない。

「そろそろりょーくんが帰って来ちゃうかも!」

 焦る私に陽介さんは「なるほど」と言いたげな表情で

「ああそっか、月一でここに来てる事を亮輔は知らないんだったな」

 と軽く頷いた。

「陽介さんはその事情もご存知なんですね」

 と私が言うと

「亮輔がジェラなの知ってるし、何より俊哉とはなんで」

 と、「友達」を強調しながら席を立つ。

(トモ……ダチ、かぁ。強調されると意味深な印象を受けるというか何というか……)

「俊哉には俺から言っとくから帰ってやんな。こんな時間になってもお前が帰ってないと知ったらジェラ男の亮輔は怒り狂うんじゃねぇの?」
「怒り狂いはしないと思いますけど」
「いやいや、するよ亮輔は。相手が俺や俊哉であっても。
 まして亮輔、お前が他の男に取られやしないかとヤキモキしてたしさー。んな事するわけねぇっつうのに」

 陽介さんは軽く伸びをし、廊下の方へとスタスタ歩き出す。

「お前は取り敢えず帰り支度だけして玄関で待ってな。渡したいもの、今から取ってくるよ」

 リビングに残された私にそう言い残し、陽介さんは一旦別の部屋に入っていって…………。



「俊哉がお前を引き留めた理由はなんだよ。本当は今夜、お前にを渡すつもりでいたんだ」

 玄関先で待つ私の前に、彼は小さな紙袋を持って再び現れた。

「これって……?」

 紙袋は小ぶりだけれど、いかにもアクセサリーが入ってそうなお洒落なもので……

「うちの店の商品」

 私の目の高さに紙袋を掲げる。

「商品って、まさかピアス?」
「まさか! ボディピアス以外にも装飾品を扱ってんだようちの店。
 ハタチそこそこの女が着けそうなアクセサリー買ってこいって俊哉が言うから」
「……そう、なんですか?」

 以前りょーくんが着けていたチタンピアスでない事を知りホッとしたのも束の間で

「誕生日、近いんだろう?」

 と続けて言われた言葉に私は本日何度目か分からないくらいのビックリをする。

「えっ??! この紙袋の中身、私への誕生日プレゼントなんですか??!!!」

 また大声が出そうになって咄嗟に口を押さえる私に

「フフッ、そこまで驚く事かよ」

 と陽介さんは鼻で笑っている。

「驚きますよ! 上原さんには誕生日プレゼントを頂かなくていいくらい毎回良くしていただいてますからっ」
「適当に見繕っただけだから受け取れ受け取れ。
 俊哉もさぁ、一応は気遣いしてんだよ。俊哉が誕プレ選ぼうとしたらドン引きレベルの高級品になるから……だからプレゼント選び役として俺に白羽の矢が当たったわけだ」
「……」
「俺は俊哉と違って若年層相手にしてっから。だから一応その辺のハタチくらいの女が好みそうなデザインに理解があるって事だな」
「……」
「でもまぁ女の好みっつっても個人差あるからな。気に入らなかったら俊哉に文句言っといて。もっと好みのものに交換してやるから」

 陽介さんの言葉に私は首を思いきり横に振った。

「交換だなんてそんなそんな! ありがとうございます!!」

 ついついボーッとしながら陽介さんの言葉をスルーしそうになったけれど「気に入らないなら」のくだりでハッと正気に返る。

(センス良さそうなキラキライケメンさんに選んでもらったものだもん!中身を確認しなくたって素敵なアクセサリーに違いないよぉ!!)

「フフッ、失礼な女かと思ってたけどただ変なだけだな」

 陽介さんはまた私を鼻で笑い……

「じゃあな。また会うかどうか分かんないけど」

 と、私を見送ってくれた。

「ありがとうございます! 上原さんにもよろしく伝えて下さいね」

 頭を下げる私に、陽介さんは明るく「おう」と頷く。

「では、お邪魔しました」

 軽く微笑む陽介さんの表情を見ながら扉を閉めて、急いで階下へ向かっていった。
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