【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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【番外編】彼のおトモダチ

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「ちょっとは落ち着いたか?」

 私は一体何度目のご迷惑をかけてしまったんだろうか?

「何回も大声あげてしまってすみませんでした」

 カウンターテーブルのところからソファへと促される代わりに彼はキッチンで何かを準備しだした。

「まぁ、俺も変なこと言って悪かったよ。片付けしたらホントに外でタバコ吸うつもりだったし」
「あっ!! でしたらお構いなく……と言いますか」
「お前、俺が爆弾発言したみたいなリアクション取ってた割にそれで良かったのか?俺の事気になったままタバコ臭い部屋に独りぼっちになるんだぞ? 色んな意味でザワザワしねぇ?」
「確かにこの状況下で1人にされるのはよく……ない、ですけど。彼に貴方の事を訊きたくても訊きにくいですし」

(だって……彼———川崎陽介かわさきようすけさんは、ただの「上原さんのお友達」じゃなかったんだもの。
 そんなの、めちゃくちゃ気になっちゃうじゃない……)

「悪いな。ここの家、酒はジンしか置いてないもんだから」

 しばらくして、陽介さんが何か飲み物を持ってやってきた。

「ジンフィズ、飲める?」

 私の目の前にグラスが置かれ、そんな事を言われて思わず彼の顔を見る。

「え? ジンフィズって、カクテルの??!」

(陽介さん、まさか私にチャチャッとキッチンで作ってくれたの?!)

「俺だけ酒飲むのはどうかと思っただけだからな」

 私のびっくり顔で彼は察したのか、ラグの上に胡座あぐらをかいて補足説明してくれた。

 よく見ると彼の手には氷の入った別のグラスが握られている。

「ありがとうございます」

(ジンフィズ……飲んだことはないけれどレモンのいい香りが立っていてとても美味しそう♪)

 お言葉に甘えて一口飲むと思ったよりも口当たりが良くて、ジンを飲み慣れない私の為に作ってくれた彼の優しさを一際ひときわ感じた。


「亮輔は元気してんの?」

 陽介さんは手にしてたグラスの氷を回しながら私にそう訊いてきた。

「はい、おかげさまで。ピアスを全部外して、もうすぐ1年になります」
「1年……あー、もうそんなになるかぁ」

 彼は目線を天井に向け、グラスに口を付ける。

「ピアッシングとかコンビニとか、一時期亮輔と関わってたけど『おかげさま』なんて言われる程の事はしてないよ」
「でもっ……陽介さんも上原さんと同じく高校時代のりょーくんを支えて下さってたんですよね?」
「たまたま今の店とコンビニバイトを掛け持ちしてた時期にアイツの諸々の事に巻き込まれてたってだけだし。成り行きってヤツ」

(っていうか私、一度陽介さんとコンビニで会ってるんじゃん!なんで今まで忘れてたんだろう??!)

 そして今私はちょっと恥ずかしくなっていた。何故ならちょうど1年前に私はコンビニ制服姿の川崎陽介さんと会って話した事があったのだから……。

(陽介さんは突然深夜に客として訪れた私の事を覚えてなくても、私は忘れちゃいけないヤツだった……ぶっきらぼうな言い方をした従業員さんを嗜めてくれてフォローしてくれたんだから)

 川崎陽介さんは、上原さんの同級生の方と一緒にボディピアスの専門店を営んでいるそうだ。そして上原さんのコンビニにも要望があればヘルプでシフトに入っていたみたい。
 りょーくんが中学生の時、自分で無理矢理耳に穴を開けたら酷く化膿したらしい。それをコンビニバイト中に陽介さんが気が付いたのがそもそもの始まり……と陽介さんは言う。

「その時化膿した耳は綺麗に治ったんだけど、俊哉がそれ以来異様に亮輔の耳を気にしてさ『バイト代弾むから出来る限り監視してくれ』って言われて、俊哉の目が離れた時でも変な気起こさないように見張ってたんだよ。
 俺は亮輔にとってウザい先輩だったんじゃねーかなぁ」

 ……つまり、りょーくんが上原さんのコンビニでバイトしてた時もピアスの穴をたくさん増やしていた時も、陽介さんが相当手助けてしていたっていう事になる。

「当時の亮輔は昔の俺に似てたっていうのもあるんだけどさ、俊哉からお願いされて成り行きで関わってたって感じ……」
「それでもりょーくんは……彼は! 陽介さんにすごく救われたと思います!」

 私はりょーくんから直接陽介さんの話を聞いた事はなかったけれど、コンビニのバイトを辞める時やピアスを全部外すと言った時のりょーくんの様子をおもんぱかりながら私は発言した。

 陽介さんは私の顔をまじまじと見つめ

「でも最終的に救ったのはお前じゃねーの?」

 と言う。

「えっ」
「えーっとなんだっけ……ソフレだっけか? なんかあんまり良くねーような事やってたりさ、あんまり気のねぇ女と付き合ってたりしてただろ亮輔。
 そういうのも、無駄に開けるピアスも……どっちも食い止めたのはお前だろ?」
「それは……」

 陽介さんから改めてその内容を確認され、私は言葉に詰まった。

(確かにそれらを食い止めたのは私かもしれない。でも……私じゃなくても時間が解決した可能性もあっただろうし)

 陽介さんはグラスに残っていたものを全部飲み干して

「少なくとも俊哉はお前に感謝してるよ『俺らにしてやれない事をしてくれる』って、今でも。
 ついこの前も言ってたぞ『一緒に住んでくれてるだけでも有難い』ってな」

 そう、上原さんの思いを私に伝えてくれた。

(そう……なんだぁ……今でも、上原さんは私に感謝を……)

 上原さんからも時折『一緒に住んでくれてありがとう』とは言われてたけど正直実感が湧かなかった。
 それはりょーくんも私も「一緒に居たい」って気持ちがあったのが根底にあったからで……。
 上原さんから今の部屋をプレゼントされなくたって、お隣同士でいた以前のアパートでりょーくんとの時間を過ごしていたはずだから。

「一応、俺からも言っとくよ。ありがとうな。笠原亮輔の心を癒してくれて」

 飲み干したグラスをテーブルに置き、陽介さんは私に頭を下げる。

「陽介さん……」
「こんな事、アルコールが入ってないと言えないけどな」

 と、一言付け加えて。




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