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【番外編】彼のおトモダチ
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上原さんの言葉に違和感を感じながら私も玄関に入ると、男性は上原さんの方を向かずに
「風呂入っていい?」
と訊いていて
「お嬢さんがいらっしゃるんだよ。駄目に決まってるだろう」
と上原さんが注意している。
「チッ」
男性は機嫌悪そうに舌打ちをし、それからリビングとは別の部屋へとズカズカ入っていった。
「…………」
(呆気に取られる……っていうのかな。なんなんだろうこの人。上原さんとどういう関係??)
その場に立ち尽くし無言でボーっと見るしか出来ないでいる私に上原さんは
「朝香ちゃんは気にしないでいいよ。ほら、いつものようにリビングへどうぞ♪」
とにこやかな笑みを浮かべて私を紳士的にエスコートする。
「えっ……とぉ」
(気にしないで。って……出来るはずがないよ!!!
あの人誰?! 上原さんは「ヨウスケ」って言ってたけど、親しい人? お風呂入りたがってたし舌打ちしてたし! 私、完全に邪魔じゃない???)
促されるまま、一応はリビングに入ったんだけど
「あの! 私、お邪魔なようなので帰ります!!」
やはり居辛い状況に耐えきれなくなり、カウンターに珈琲豆を置いた途端くるりと180度ターンして帰ろうとした。
「朝香ちゃん待って!!」
けれど上原さんに止められる。
「ヨウスケはいつもあんな感じだから。朝香ちゃんは本当に気にしないで」
上原さんは眉を下げて困っているような表情を私に向けている。
「気にしないでって言われましても……」
困り顔は流石従兄弟同士とあってりょーくんによく似ている。
けど、あんな舌打ちとか聞いてしまったら上原さんに困られても私の方が逆に困るんだ。
「大丈夫だから。朝香ちゃんとの約束の方が先だったし……だから座って」
上原さんに肩に両手をポンと置かれ、結局は椅子に座るように言われてしまう。
「でも」
(迷惑な気がするし……いや、「気がする」じゃなくて完全に迷惑がられている。上原さんじゃなくてあのキラキラ系イケメンさんに)
確かに毎回珈琲豆を届ける日は上原さんとメッセージアプリ内で相談して決めるから曜日や時間帯はまちまちだ。
1年間上原さんと珈琲豆のやり取りをしているけれど「恋人」とは明らかに違うような男性がこの部屋を出入りしているだなんて私は知る由もなかった。
(でもそれは私が悪いとかどうとか、そういうのじゃなくて……ただただ偶然遭遇しなかっただけであって……)
「亮輔は就活セミナーがあって帰りも遅いんだろう? 朝香ちゃんそう連絡してくれたよね?」
「そうですけど……」
私の考えとは真逆で、上原さんは今私がここで去ったらとても悲しいとでもいうような声と表情をしていた。
「亮輔の帰りが遅いならさ、朝香ちゃんとこれから一緒にご飯食べたいなって思ったんだよ。俺、ビーフシチューを作ったから」
「えっ? ビーフシチュー?」
上原さんがキッチンの方を指差してようやく美味しそうな料理の匂いに気付く。
「だからお願い。座って、ねっ!」
上原さんはカウンターテーブルに置かれているいつもの椅子を引いて、私を半ば強制的に座らせた。
「本当に……いいんですか?」
椅子に座り、キッチンへと回った上原さんに私がそう言うと
「家主が『座れ』って言ってんだから座りなよ! ブス!!」
と、廊下側から怖い声が迫ってきた。
「きゃあ!!」
気が付いたら隣の椅子にあの男性……ヨウスケさんが腰掛けようとしていてまたビックリ!!
「お嬢さんに『ブス』はないだろうヨウスケ!!」
上原さんはピシャリと即座に叱り、私の側まで来ていたヨウスケさんをカウンター越しから小突く。
「ブスだからブスって言ったんだよ、この非常識!!」
「ヨウスケっ!!!!」
ゴンッ!!
尚も私に向かってそう言い放つヨウスケさんに上原さんから二発目のパンチが彼の頭にヒットした。
「ってぇ……」
ヨウスケさんは痛そうに頭を押さえていて
「朝香ちゃん本当にごめんね。すぐ用意するから」
上原さんは私に優しくそう声をかけた後でヨウスケさんをキッと睨み、深皿を用意し出した。
「は……はいぃ」
ブスって言われるのは仕方がないと思う。
彼らからしてみれば私なんてチビだしブスだしヨウスケさんに『非常識』と言われたのも、さっきの行動から間違いではないし。
「あ~~~腹減ったぁ! 俊哉がビーフシチュー作るって言うから昼あんまり食わなかったんだぞ俺ぇ!!」
ヨウスケさんが私の並びに座り、上原さんをそう言って急かすんだけど
「自分の好物であろうがなかろうが、食事は3食キチンと取らないといけないよ」
上原さんは配膳のペースを早める事なく、落ち着いた口調で言い返す。すると
「普段はコンビニ飯や外食ばかりの癖によく言うよ」
とヨウスケさんが不貞腐れ
「あー、あんた知ってると思うけど俊哉は基本自炊しないから。飯はだいたい俺が買ってここまで持ってくるんだよ」
いきなりそのキラキラフェイスを私に向き直りそう話し掛けてきた。
「そう……なんですか」
普段はヨウスケさんが上原さんの食事を買って用意するという内容から、お2人の仲の良さを感じ取る。
(確かに上原さんが料理してるところを見るのは初めてだなぁ。
コンビニの店長さんを去年辞めたとはいえ管理のお仕事を毎日慌ただしくされてるんだしお友達関係のヨウスケさんがご飯を調達して持ってきてあげているというのも納得!)
「俊哉が唯一作れるのがアレ。普段料理に縁がないとは思えないくらい美味いんだよ」
ヨウスケさんがキッチンを指差しながらにこやかな笑み向けてきたので私の気持ちもようやく和んできた。
「風呂入っていい?」
と訊いていて
「お嬢さんがいらっしゃるんだよ。駄目に決まってるだろう」
と上原さんが注意している。
「チッ」
男性は機嫌悪そうに舌打ちをし、それからリビングとは別の部屋へとズカズカ入っていった。
「…………」
(呆気に取られる……っていうのかな。なんなんだろうこの人。上原さんとどういう関係??)
その場に立ち尽くし無言でボーっと見るしか出来ないでいる私に上原さんは
「朝香ちゃんは気にしないでいいよ。ほら、いつものようにリビングへどうぞ♪」
とにこやかな笑みを浮かべて私を紳士的にエスコートする。
「えっ……とぉ」
(気にしないで。って……出来るはずがないよ!!!
あの人誰?! 上原さんは「ヨウスケ」って言ってたけど、親しい人? お風呂入りたがってたし舌打ちしてたし! 私、完全に邪魔じゃない???)
促されるまま、一応はリビングに入ったんだけど
「あの! 私、お邪魔なようなので帰ります!!」
やはり居辛い状況に耐えきれなくなり、カウンターに珈琲豆を置いた途端くるりと180度ターンして帰ろうとした。
「朝香ちゃん待って!!」
けれど上原さんに止められる。
「ヨウスケはいつもあんな感じだから。朝香ちゃんは本当に気にしないで」
上原さんは眉を下げて困っているような表情を私に向けている。
「気にしないでって言われましても……」
困り顔は流石従兄弟同士とあってりょーくんによく似ている。
けど、あんな舌打ちとか聞いてしまったら上原さんに困られても私の方が逆に困るんだ。
「大丈夫だから。朝香ちゃんとの約束の方が先だったし……だから座って」
上原さんに肩に両手をポンと置かれ、結局は椅子に座るように言われてしまう。
「でも」
(迷惑な気がするし……いや、「気がする」じゃなくて完全に迷惑がられている。上原さんじゃなくてあのキラキラ系イケメンさんに)
確かに毎回珈琲豆を届ける日は上原さんとメッセージアプリ内で相談して決めるから曜日や時間帯はまちまちだ。
1年間上原さんと珈琲豆のやり取りをしているけれど「恋人」とは明らかに違うような男性がこの部屋を出入りしているだなんて私は知る由もなかった。
(でもそれは私が悪いとかどうとか、そういうのじゃなくて……ただただ偶然遭遇しなかっただけであって……)
「亮輔は就活セミナーがあって帰りも遅いんだろう? 朝香ちゃんそう連絡してくれたよね?」
「そうですけど……」
私の考えとは真逆で、上原さんは今私がここで去ったらとても悲しいとでもいうような声と表情をしていた。
「亮輔の帰りが遅いならさ、朝香ちゃんとこれから一緒にご飯食べたいなって思ったんだよ。俺、ビーフシチューを作ったから」
「えっ? ビーフシチュー?」
上原さんがキッチンの方を指差してようやく美味しそうな料理の匂いに気付く。
「だからお願い。座って、ねっ!」
上原さんはカウンターテーブルに置かれているいつもの椅子を引いて、私を半ば強制的に座らせた。
「本当に……いいんですか?」
椅子に座り、キッチンへと回った上原さんに私がそう言うと
「家主が『座れ』って言ってんだから座りなよ! ブス!!」
と、廊下側から怖い声が迫ってきた。
「きゃあ!!」
気が付いたら隣の椅子にあの男性……ヨウスケさんが腰掛けようとしていてまたビックリ!!
「お嬢さんに『ブス』はないだろうヨウスケ!!」
上原さんはピシャリと即座に叱り、私の側まで来ていたヨウスケさんをカウンター越しから小突く。
「ブスだからブスって言ったんだよ、この非常識!!」
「ヨウスケっ!!!!」
ゴンッ!!
尚も私に向かってそう言い放つヨウスケさんに上原さんから二発目のパンチが彼の頭にヒットした。
「ってぇ……」
ヨウスケさんは痛そうに頭を押さえていて
「朝香ちゃん本当にごめんね。すぐ用意するから」
上原さんは私に優しくそう声をかけた後でヨウスケさんをキッと睨み、深皿を用意し出した。
「は……はいぃ」
ブスって言われるのは仕方がないと思う。
彼らからしてみれば私なんてチビだしブスだしヨウスケさんに『非常識』と言われたのも、さっきの行動から間違いではないし。
「あ~~~腹減ったぁ! 俊哉がビーフシチュー作るって言うから昼あんまり食わなかったんだぞ俺ぇ!!」
ヨウスケさんが私の並びに座り、上原さんをそう言って急かすんだけど
「自分の好物であろうがなかろうが、食事は3食キチンと取らないといけないよ」
上原さんは配膳のペースを早める事なく、落ち着いた口調で言い返す。すると
「普段はコンビニ飯や外食ばかりの癖によく言うよ」
とヨウスケさんが不貞腐れ
「あー、あんた知ってると思うけど俊哉は基本自炊しないから。飯はだいたい俺が買ってここまで持ってくるんだよ」
いきなりそのキラキラフェイスを私に向き直りそう話し掛けてきた。
「そう……なんですか」
普段はヨウスケさんが上原さんの食事を買って用意するという内容から、お2人の仲の良さを感じ取る。
(確かに上原さんが料理してるところを見るのは初めてだなぁ。
コンビニの店長さんを去年辞めたとはいえ管理のお仕事を毎日慌ただしくされてるんだしお友達関係のヨウスケさんがご飯を調達して持ってきてあげているというのも納得!)
「俊哉が唯一作れるのがアレ。普段料理に縁がないとは思えないくらい美味いんだよ」
ヨウスケさんがキッチンを指差しながらにこやかな笑み向けてきたので私の気持ちもようやく和んできた。
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