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本当に欲しいもの
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しおりを挟む結局お昼ご飯は作れず食べられず……
夕方から私はオムライスと唐揚げの準備をして、1年前のデジャヴみたいな料理の数々を仕上げていく。
「あーちゃん、ケーキと赤ワイン買ってきたよ♪」
朝からあんなにたっぷり愛しあったのにりょーくんは元気だ。
お昼寝時間も私と同じだった癖に回復力が違うみたい。
「予約はケーキしかしてなかったのに、赤ワインは希望のをちゃんと買えたの?」
私が腰をスリスリさすりながら返事をすると
「勿論♪ あーちゃんお金出してくれてありがとう♡」
痛みや疲れを感じている私を労わるように、優しい頭撫でだけに留めながら「ありがとう」を言ってくれた。
「お金出すのは普通だよぉ」
「普通じゃないよ♡ あーちゃん優しくて大好き♡」
「なんかそれ、私が貢いでるみたい……」
「俺がヒモ?」
「そうそう」
「養ってくれてるのは確かかも♪」
「貯金はりょーくんの方があってバイトの必要がないってのが実情だけどねー♪」
腰はだるいし疲れも残ってるけど、唐揚げを揚げながらの冗談の言い合いは出来る。
なんだかんだでこういう時間を過ごすのは、去年とちょっと違うなぁなんて事を私は思った。
「おおおおおお!! すげー!!!!!」
夕食時になっておかずの数々をダイニングテーブルに並べていくと、りょーくんは感嘆とした声をあげていた。
「リアクションがオーバーだよぉ」
「オーバーなんかじゃないって!! 素直な俺の気持ちっ!!」
りょーくんの「すげー」なんてリアクション、めちゃくちゃ久しぶりに聞いたかもしれない。私と夕紀さんには言葉遣いそのものが優しいから、さっきのリアクション自体ほぼ初めてなんじゃないかって感じすらしてしまう。
一応りょーくんのリクエスト通りにオムライスと唐揚げを作り、あとは人参とパプリカとハムを星型にくりぬいた可愛らしいポテトサラダも用意してみた。
私にしてみれば特別でもなんでもないようなクオリティなんだけど、りょーくんにとっては大きなリアクションをしてしまうくらいに嬉しかったようだ。
「これ、本当に食べていいの? 唐揚げもいっぱい、オムライスなんて特大!!」
確かに去年よりは唐揚げの量を増やしてオムライスも一回り大きくして私の作るオムライスの最大値を更新した。
「勿論だよ。だってりょーくんがお誕生日の日に欲したお料理だから」
「あーちゃん大好き♡」
とはいえ、私の予想を上回るオーバーリアクションをとる彼の様子にちょっとビックリして
「んぐぅ……ん♡」
久しぶりの野獣くんっぽい熱烈ハグやキスにドキドキして腰が砕け
「あっ! あーちゃん腰痛いのに強くし過ぎた! ごめんっ」
この時点で体がトロトロに溶けてしまいそうになり、りょーくんを今からお祝い出来るのか心配になってくる。
「あーちゃんは椅子にちゃんと座って。約束通りメガネケース持ってくるから!」
「ん……」
心も体もふにゃふにゃな時点でりょーくんの眼鏡姿お披露目会がスタートするとは思わなかった。
(素の顔がイケメンさんなんだもん、眼鏡姿のりょーくんも絶対にイケメンで素敵って予想は既についてるんだけど)
この3週間、眼鏡姿を焦らされていた私は頭の中でりょーくんのお顔に色んな形のメガネフレームを合成するイメージを描いていた。
(りょーくんならきっとどんなフレームでも似合うはず。まして真澄が見立てたものなら尚更……)
だから、自分の部屋に戻ろうと小走りするりょーくんの背中や……
まるで子どもがとっておきの宝物を見せにこようとメガネケースを両手で覆い隠しながらリビングに戻ってくる表情を、椅子に腰掛けながらボーっと大人しく眺めて居た私なんだけど
「じゃあ、約束通り、掛けてみるね」
座る私の目線に合わせるよう膝立ちした彼が目の前で繰り広げる眼鏡の装着はとってもセクシーで、なんか直視しちゃいけないような気持ちになって
「どう……かな、俺の、眼鏡」
至近距離で私を見つめる黒縁スクエアフレームを装着したりょーくんのやや緊張した表情は
「うん……」
息を呑むほどかっこよくて、私がお誕生日プレゼントを受け取っているような気分にさえなった。
「変かな?」
「ううん、凄くいい……」
「本当に? あーちゃんに好かれる男になれてる?」
大好きな彼がただ眼鏡を掛けているだけなのに、私はドキドキが高まって緊張し
「嫌いになるわけなんてないよ……」
私の手を取る彼の指先も微弱に揺れていて、私と同じかそれ以上に彼も緊張しているんだと気付かされた。
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