【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

【番外編】それは、「口実」（亮輔side）

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　外へ出ると、意外にぞろぞろと人の流れがある。

「意外と花火大会見に行く人いるんだな」
「そうみたいだねー」

　今夜は花火大会。
　毎年この時期に打ち上げ花火が上がるのだが、5年間この地域に住んでいるというのに観に行くのは今回が初めてだった。

「あーちゃんよりも長くこの土地に住んでるのに知らなくてごめんね」

　もしこの場に矢野が居たら、俺の無知さにツッコミを入れるんだろう。

「気にしなくて良いよー♪ 私だって知らなかったんだもん。
　こんなに人いたら迷わずに行けそうだね♪」

　でもあーちゃんは絶対に無知な俺に対し小言を言わない。
　寧ろ優しく微笑んでくれるからとても癒される。

「確かに会場まで迷わず行けそうだけど、ちゃんと俺の腕に抱きついといてね。
　ちっちゃいあーちゃんが人波に揉まれて迷子になったら困るから♡」
「もちろん♡」

　会場までの距離はやや離れている……けど、あーちゃんと見つめ合い体をくっつけ合っていれば距離の遠さなんか全く苦に感じない。
　それに今夜の為に浴衣姿を披露してくれているあーちゃんはとても可愛かった。

（いや、今日は可愛いっていうよりも寧ろ……）

　俺は彼女の浴衣の後ろ衿えりと頸うなじの辺りに目線を向け

（うん……「可愛い」よりも「綺麗」だ）

　改めて彼女の美しさを実感しては口元を弛ゆるめる。

　あーちゃんを「綺麗」と思ったのは誕生日以来だろうか。
　勿論「今日の服装いいな」って思うことも「今日のメイクは好みだな」って思うこともあるけれど、どうしてもあーちゃんの内から出てくる「可愛い」に勝る言葉が出ない。

　基本的にあーちゃんは「綺麗な女性」というよりは「可愛い女の子」だ。同い年でも身長差が30㎝ある所為かどうしてもそう感じてしまう。
　だから今日みたいに「あーちゃん綺麗だな」と感じる日はとても貴重だし、浴衣を貸してくれた矢野に感謝しなくてはならない。