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朝に香る
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しおりを挟む「今はピークの時間帯じゃないから少ないかもしれないよ?」
りょーくんは蛍を生で見た事がないと言っていた。だけど逆に「自然が多い田舎」という期待感ばかりが高まってハードルが上がり過ぎても困ると感じてしまう。
「蛍って夜の間ずっと飛んでるんじゃないんだね。ピーク時間なんてあるんだ?」
「うん。一番多いのは晴れてる夜の20時から21時くらい」
「そんなに短い時間なのかぁ……知らないことだらけだなぁ」
知らない事だらけなのは当然だと思う。私だって都会に全然慣れていないんだし。
「ここだよ」
私は歩く足をピタリと止めた。
辺りは真っ暗。虫の声が時々するくらいでひっそりとしている。
さっきまで鑑賞していた人達がすぐそばを素通りしていく中、私達は手を繋いでしばらくその場に立っていた。
「いた!」
黄緑色の小さな光が遠くの方でゆっくり点滅しているのを先に見つけたのはりょーくんだった。
初めて見る光景だったともあって嬉しそうな歓声をあげる彼の様子に私も笑みがこぼれる。
「りょーくん、あっちにもいるよ」
私が斜め左上を指差すと
「そこにもいるね」
りょーくんも負けじと別方向を指差して蛍探しゲームが開催される。
両親や夕紀さんと見た数年前に比べたら今日は少なめだ……けど、常時10匹は見えていたからそれなりに楽しむ事が出来た。
「そろそろ駐車場に戻ろうか」
スマホで時刻確認をして、彼の方を見上げると
「うん。素敵なものをいっぱい見せてくれてありがとう」
人工的な白色に反射された彼の顔はとびきりのイケメン笑顔になっていた。
「あれ? 戻ってくるの早かったね」
車に戻るとお母さんが意外そうな声を出したから
「お母さんを長々待たせちゃいけないもの」
私が言い返すと
「え~……せっかくなんだからもっと2人の甘い時間を過ごせば良いのにぃ。キスしちゃうとか」
という母親の発言とは思えない内容に私の体は一気に熱くなった。
「ほっ……! 蛍!! あまり居なかったし!! りょーくんを退屈させてはいけないし!! ……ねっ? りょーくんっ!!!!」
恥ずかし過ぎるなかお母さんに反論(?)し、りょーくんに同意を求めようとすると、彼は私に向かって熱い眼差しを送っていて、繋いでいる手もギュッと強く握ってくる。
(えっ?)
その反応に何かしら意味があるのかと肩をピクンと震わせていたら、彼はすぐに運転席の方を向いて
「朝香さんが『今日は少なめだよ』なんて言ってましたけど、俺とっても感動しましたよ! 夜道を運転して連れてきて下さりありがとうございます」
そう、真面目に誠実にお母さんへお礼の言葉を述べていた。
バックミラーに映っているお母さんの目はとても嬉しそうで
「都会の若いイケメンさんに喜んでもらえて私は幸せよ♡」
と微笑みを返していた。
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