【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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朝に香る

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「そうだ! 今からちょっと夜のドライブしない? この山の先に蛍が見れるスポットがあるのよ。私お酒飲んでないから連れてってあげる♪」

 お母さんはいきなりパンと手を叩いて私達に夜のドライブを提案する。

「蛍……ですか? 行きの車内で朝香さんとお母さんが話していた」

 「蛍」のワードでりょーくんはすぐにピンときてくれたみたいで

「そうなの! 今はもう7月入っちゃってて全国的なシーズンからはズレちゃってるんだけど、この山の山頂あたりは今まさに蛍シーズン真っ只中なんだよ!」

 私が補足説明を入れてあげる。

「でもお父さん寝たままなんですけど……いいんですか?」

 りょーくんは遠慮がちに、今もいびきをかいて眠っているお父さんを指差していたんだけど

「平気平気! パパは一度寝たら朝まで起きないから♪」

 お母さんはりょーくんを蛍スポットへ連れて行く気満々で

「行ってみようよりょーくん!」

 私も「せっかく蛍のシーズンに帰れたのだから」という気持ちになり、りょーくんの手を掴むなり玄関まで引っ張っていった。

「えっ……あーちゃんっ」
「行こう行こう! すっごく綺麗だから♪」




 そこからはお母さんと私とりょーくんの3人が車に乗り込み、お母さんの運転で暗い県道を駆け抜けていく。
 窓から空を見上げると星がたくさん輝いていた。


「それにしても亮輔くん、パパが言ってた見た目と全然違って爽やかな感じだったから最初駅で見かけた時にビックリしちゃったよ!」

 移動の最中、お母さんはりょーくんにそんな内容を急に言ってきたものだからりょーくんはかなり照れくさそうにしていた。

「ああ……半年くらい前までは金髪だったんすけど……なんていうか、イメチェンっていうか……」
「へー! イメチェンかぁ~金髪の亮輔くんもかっこよかったみたいだけど、今の黒髪も素敵で良いイメチェンになれてるって事ね♪」
「いや~………ははは」

 照れ臭いを通り越して俯き始めるりょーくんのリアクションを見ながら、私はつい彼の隣でクスクス笑ってしまう。

「朝香もイマドキの女の子っていう雰囲気にようやくなってくれたし、あなた達見ていると『良いお付き合いしているんだな』って分かるよ。だから夕紀ちゃんもこの前それを私達に報告したかったんじゃないかなって今では思うのよ」

 だけど、お母さんの話が夕紀さんとの電話によって私達の同棲バレが起こった件に触れていて

「お母さん、本当なら私の方からもっと早くに話しておかなきゃいけなかったのに。隠してた訳じゃなかったんだけど話しづらくてごめんなさい」

 クスクス笑いをしてる場合ではなくなり後部座席ではあるけれどお母さんに謝った。

「朝香が謝ることはないよ。私の時だってパパと結婚する前そんな感じだったもの。娘からの直接の言葉がなくても親は何となくわかるもんだよ」

 夕紀さんから同棲バレの電話がかかってきた時は背筋が凍る思いだった。
 でもお母さんは本気で怒っていた訳ではなかった。

「ありがとう……お母さん」

 改めて両親の懐の大きさ深さに感謝をする。



 30分くらい坂を上ったところで車が停車して、お母さんは私とりょーくんを車から降ろしてくれる。 

「足元気をつけてね2人とも」
「「はーい」」

 人気の蛍スポットなのは昔から変わらず、簡易的に作られた駐車場はもういっぱいになっていて、これから帰る家族連れの姿さえも見える。

「梅雨の中休みだからいないことはないと思うけどあまり期待はしないでね。私は車の中で待ってるから2人でいってきなよ」

 そしてお母さんは運転席から立つ事なく、車内で私達に向かって手をヒラヒラ振っちゃっている。
 どうやら私達2人きりの時間を作ろうと、お母さんだけ見に行かずに車内で待ってくれるようだ。

「りょーくん行こうっか」

 私はりょーくんの腕に抱きつき、クイクイ引っ張りながら川の方へと誘導する。

「お母さんも見に行かなくて良かったのかな?」

 りょーくんはまだお母さんが車内に残る事を気にしているようだったんだけど

「お父さんもお母さんもしょっちゅう見てるから大丈夫だよ。私も実家に居る時は毎日のように見に来てたし、この辺に住んでる人は当たり前の光景なの。夏の風物詩っていうのかなぁ蛍が居て観に行くのも当たり前ー、みたいな」 
「蛍が当たり前って感覚がすごい」
「だって田舎だもーん。ふふ♪」
「ふふっ」

 私の田舎発言にりょーくんの表情がほころぶ。

「あっ! 今の俺の笑いは『田舎』に笑ったんじゃないから。蛍を一度も観たことないからワクワクしてる意味での笑いっていうか、微笑みっていうか」
「そんな言い訳しなくても分かってるよぉ! ほらりょーくん! こっちこっち!」

 勿論私はりょーくんの笑いが嘲笑でない事くらい気付いていて、何より自分の地元で大好きなりょーくんを案内出来てる嬉しさの方が強い。
 夜のデートなんて滅多にしないから、真っ暗な道を歩くだけでも余計にドキドキしちゃってるし♡
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