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朝に香る
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しおりを挟むりょーくんの衝撃発言にお父さんは涙ぐみ、そこからはお母さんの手によって流れるように夕食のおかずが運ばれ、あれよあれよといううちに2時間以上が過ぎてしまって……。
「お父さん寝ちゃったね」
食事の途中でお父さんの酔いが回ったのか、大の字になってりょーくんの横で眠ってしまった。
「昼から飲んでたんだから当たり前だよ!! もうっ!!」
私もお母さんもやれやれといった感じで呆れているんだけど
「お父さんってこんなに日本酒大好きだったんだね。知ってたら土産に持ってきたのに」
自分の横で大いびきを掻いて醜態を晒す大男に向かって尚も優しい言葉をりょーくんはかけていた。
「ダメだよぉ! さっきだってりょーくんに絡んでたりこうして迷惑かけたりするんだもん! 最悪だよ!!」
私がちゃんと言い返しても
「別に俺は迷惑とは思わなかったよ? お酌するのは初めてだったし緊張したけど、結構楽しかったし」
まるで聖人か神かというような言葉で彼は微笑んでいる。
「亮輔くんは本当に良い子ね」
お母さんは夕食の間に「笠原くん」から「亮輔くん」と呼び方を変え、ニコニコ顔でりょーくんの事を褒めていて
「いや、ですが最初お父さんに『お付き合いを認めて下さい』ってお願いしたのに1時間もしない内に『結婚させて下さい』ってお願いに変えてしまったのは流石に良くなかったですよね? 常識的に」
「そんな事ないない♪ パパも私も大歓迎よ♡
亮輔くんが我が娘をそれだけ大事に思ってくれてるって知れただけでも嬉しいし、亮輔くんが立派に育ってくれてるってこの目で成長を感じられた事自体幸せなんだから」
りょーくんがお父さんに「お付き合い」から「結婚の約束」へと発言内容を変えた事について全く動じていない。
(私とりょーくんとの仲を認めてくれてるっていう事は嬉しいんだけど……)
私としては「結婚」に驚かなかったお父さんお母さんの反応に驚いている。
「うちのパパね、亮輔くんを見に行ってた時……変な方向へ気持ちが向いちゃってて結構大変だったのよねー」
「え!? 大変って??」
「うちのパパ、見た目はあんな感じだけどハートは熱いっていうか……お節介なところあってね。夕紀ちゃんや皐月ちゃんみたいな感じで、亮輔君を見に行ってきては『広島連れてきてワシの息子にしてあげたい』とか言い出して止めるの大変だったのよ」
お母さんの口から出た今の発言が衝撃的過ぎて
「えっ……『ワシの息子』って」
「ええっ? りょーくんと私、きょうだいになるかもしれなかったって事?!!」
頭の中が真っ白になり、互いの顔を無意識に見つめ合う。
「夕紀ちゃんはともかく亮輔くんはご家族もご親戚もいらっしゃるのに肩入れし過ぎてたっていうのかな。単なる心配のつもりで亮輔くんの様子をちょくちょく見に行くって話だったのに、広島に帰ってきたら感情が高まったみたいで」
「まさかお父さんが私がりょーくんをこっちに連れてくる気だったの!?」
「夕紀ちゃんのケースのまんまよね、結構その気満々だったのよ。もちろん当時は夕紀ちゃんがこの家で寝泊まりしていたし、夕紀ちゃんのメンタルを鑑みても無理な話だからって私が必死で止めたんだけどねー」
「そうだったんですか……お父さんはそこまで俺の事を気にかけてくれていたんですね」
りょーくんはお母さんからの話を聞き、眠っているお父さんの姿へ顔を向けながらしみじみとそう言う。
「……まぁ、上原さんは亮輔くんを本当の意味で見守るつもりでいただろうから、パパが何か言ったとしてもそれは実現しなかったと思うの。
結果、亮輔くんは上原さんや周りの人達の力添えがあって立派に成長出来たんだから、パパの暴走を私がしっかり止めておいて良かったって思うわ」
夕紀さんは昔から我が家と縁が深い。
だからこそお父さんお母さんは夕紀さんのお父さん達が交通事故で亡くなってしまった時も皐月さんの時もかなり心を傷めた。
夕紀さんの修行が終わって東京でお店を開くようになっても、お父さんお母さんは夕紀さんの事を娘のように想い続けている。
お母さんの「ワシの息子に」の話は凄く驚いたものの、その発想に至る気持ちはよく理解出来た。
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