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朝に香る
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しおりを挟む「いやいや、なんかすまんかったのぅ。本当に申し訳ない」
お父さんは1人で大爆笑、お母さんはりょーくんのコーヒーだけ新しく淹れ替えてくれ、ようやく和やかなコーヒータイムがスタートした。
「はい、笠原くんにはアイスコーヒーね」
「すみませんお母さん、俺だけ新しいの淹れてもらってしまって」
りょーくんは最初、かなり遠慮していたんだけど
「いいのいいの♪ コーヒーは私達にとっては命みたいなものだから、初めて私達のコーヒーを飲む人にはちゃんとベストなものを提供したいのよ。勿論、今日のカップに淹れたコーヒーは冷めても美味しいんだけどね」
お母さんの温かな、それでいて芯のある言葉にりょーくんの表情は綻び、お母さんに「飲んで」と促されながらグラスに口をつけていた。
「そう言えば、お父さんも学生時代に『野獣』なんて渾名がついていたんだよねぇ……私、幼い頃にお父さんお母さんの馴れ初めを聞かされた時にそれを知ったんだけどすっかり忘れてたよ」
私は大爆笑を続けるお父さんを指差してそう言うと、お母さんはすかさず
「パパの『野獣』はビーストの方よ。笠原くんのとはちょっと意味合いが違うかなぁ。
それこそ朝香や笠原くんくらいの歳の頃のパパは筋肉ダルマみたいな感じでムッキムキでね、体重も今より10キロくらいあって見た目がめちゃくちゃヤバかったんだもの」
と、当時のお父さんの様子を嬉しそうに語り出す。
「部活動やスポーツをやる暇無く、実家の手伝いばかりしとったんじゃがのぅ」
「まぁ、手伝う内容が力仕事系だから鍛えられちゃったのかもね♪」
お父さんは後頭部をポリポリ掻きながら照れ笑いをし、お母さんは「当時のパパはめちゃくちゃかっこよかったんだ」と言いたそうな表情でニコニコしている。
娘としては両親のそんな様子、「やれやれ」ってお手上げしちゃいたいもんなんだけど
「大学生時代のお父さん、とってもかっこよかったんですね! お母さんが好きになってしまうくらい♡」
りょーくんがニコニコ微笑みながらストレートにそんな感想を漏らしちゃったものだから
「「いやいやそんなそんな~♡♡♡」」
と、両親共にユニゾンと照れ笑いをしていた。
両親の大学生時代だとか恋愛して今まラブラブな様子だとか、娘の立場からするとくすぐったくて堪らなくなるんだけど、りょーくんの言葉によって「私達とお父さんお母さんは大学生で知り合った点も付き合い始めたタイミングも共通してるんだ」という事に気付いてちょっと幸せな気分になる。
「パパの『野獣』は見た目による悪口で、私は最初から全く気にしてなかったのよ。笠原くんの『野獣くん』もやっぱり元カノさんの嫉妬からくる悪口だったんだろうけど、朝香はさほど気にしてなかったんじゃない?」
チーズケーキを口に運びながら、お母さんが私にそう問うと、自然と
「確かに……周りの学生や友達の真澄は『野獣くん』の噂にビビッてたんだけど、私は全然気にしてなかったんだよね」
と、お母さんの言う通りであると認める。
「本当に怖くなかったんだ? 俺の事」
その件はりょーくんも不思議に感じていたみたい。
「とにかく大学1年の頃は『笠原亮輔さんの背中がかっこよくて授業も真面目に受けてて素敵』としか思ってなかったんだよね。寧ろ真澄達が言う『野獣くん』にピンと来なかったの。すっごくかっこいいし元々モテるんだろうなくらいにしか……」
「じゃあ、本当に気にしてなかったのか……それもそれで凄いなぁ」
一度「野獣くん」の件で喧嘩っぽくなった事があったけど私は本当にりょーくんの見た目や中身と「野獣くん」の悪い噂が最初から頭の中で繋がってなかったんだろうなって結論に至った。
(イチャイチャラブラブしてる時は流石にりょーくんから野獣らしさを感じちゃってはいるんだけど……)
「もしかしたら、朝香は生まれた時からパパのビーストっぷりに目も脳も慣れちゃっていたのかもね。だからこそ笠原くんのエッチな意味での『野獣くん』にピンと来なかったというか」
「それはあるかもしれない……お父さんの『野獣』エピソードを数多く聞いてる訳じゃないんだけど」
お母さんの言葉に私だけでなくりょーくんもうんうん頷いた反面———
「昔と今で時代が変わりゃあ『野獣』の意味合いも違うてくるけぇね。
そもそも儂は笠原くんの身長が急激に伸びようが金髪になってピアスを増やそうが『野獣』だの『ワル』だのと変なイメージは浮かばんかったんじゃけどのう」
「「????!!!」」
———お父さんのその発言に私達は目を見開かせる。
「えっ? お父さん! なんで彼が金髪でピアス嵌めてた事知ってるの?!」
「しかも俺の背が中学卒業して急に伸び始めた事まで……??」
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