【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

文字の大きさ
上 下
164 / 251
朝に香る

8

しおりを挟む


「いやいや、なんかすまんかったのぅ。本当に申し訳ない」

 お父さんは1人で大爆笑、お母さんはりょーくんのコーヒーだけ新しく淹れ替えてくれ、ようやく和やかなコーヒータイムがスタートした。

「はい、笠原くんにはアイスコーヒーね」
「すみませんお母さん、俺だけ新しいの淹れてもらってしまって」

 りょーくんは最初、かなり遠慮していたんだけど

「いいのいいの♪ コーヒーは私達にとっては命みたいなものだから、初めて私達のコーヒーを飲む人にはちゃんとベストなものを提供したいのよ。勿論、今日のカップに淹れたコーヒーは冷めても美味しいんだけどね」

 お母さんの温かな、それでいて芯のある言葉にりょーくんの表情は綻び、お母さんに「飲んで」と促されながらグラスに口をつけていた。

「そう言えば、お父さんも学生時代に『野獣』なんて渾名がついていたんだよねぇ……私、幼い頃にお父さんお母さんの馴れ初めを聞かされた時にそれを知ったんだけどすっかり忘れてたよ」

 私は大爆笑を続けるお父さんを指差してそう言うと、お母さんはすかさず

「パパの『野獣』はビーストの方よ。笠原くんのとはちょっと意味合いが違うかなぁ。
 それこそ朝香や笠原くんくらいの歳の頃のパパは筋肉ダルマみたいな感じでムッキムキでね、体重も今より10キロくらいあって見た目がめちゃくちゃヤバかったんだもの」

 と、当時のお父さんの様子を嬉しそうに語り出す。

「部活動やスポーツをやる暇無く、実家の手伝いばかりしとったんじゃがのぅ」
「まぁ、手伝う内容が力仕事系だから鍛えられちゃったのかもね♪」

 お父さんは後頭部をポリポリ掻きながら照れ笑いをし、お母さんは「当時のパパはめちゃくちゃかっこよかったんだ」と言いたそうな表情でニコニコしている。
 娘としては両親のそんな様子、「やれやれ」ってお手上げしちゃいたいもんなんだけど

「大学生時代のお父さん、とってもかっこよかったんですね! お母さんが好きになってしまうくらい♡」

 りょーくんがニコニコ微笑みながらストレートにそんな感想を漏らしちゃったものだから

「「いやいやそんなそんな~♡♡♡」」

 と、両親共にユニゾンと照れ笑いをしていた。

 両親の大学生時代だとか恋愛して今まラブラブな様子だとか、娘の立場からするとくすぐったくて堪らなくなるんだけど、りょーくんの言葉によって「私達とお父さんお母さんは大学生で知り合った点も付き合い始めたタイミングも共通してるんだ」という事に気付いてちょっと幸せな気分になる。
 

「パパの『野獣』は見た目による悪口で、私は最初から全く気にしてなかったのよ。笠原くんの『野獣くん』もやっぱり元カノさんの嫉妬からくる悪口だったんだろうけど、朝香はさほど気にしてなかったんじゃない?」

 チーズケーキを口に運びながら、お母さんが私にそう問うと、自然と

「確かに……周りの学生や友達の真澄は『野獣くん』の噂にビビッてたんだけど、私は全然気にしてなかったんだよね」

 と、お母さんの言う通りであると認める。

「本当に怖くなかったんだ? 俺の事」

 その件はりょーくんも不思議に感じていたみたい。

「とにかく大学1年の頃は『笠原亮輔さんの背中がかっこよくて授業も真面目に受けてて素敵』としか思ってなかったんだよね。寧ろ真澄達が言う『野獣くん』にピンと来なかったの。すっごくかっこいいし元々モテるんだろうなくらいにしか……」
「じゃあ、本当に気にしてなかったのか……それもそれで凄いなぁ」

 一度「野獣くん」の件で喧嘩っぽくなった事があったけど私は本当にりょーくんの見た目や中身と「野獣くん」の悪い噂が最初から頭の中で繋がってなかったんだろうなって結論に至った。

(イチャイチャラブラブしてる時は流石にりょーくんから野獣らしさを感じちゃってはいるんだけど……)

「もしかしたら、朝香は生まれた時からパパのビーストっぷりに目も脳も慣れちゃっていたのかもね。だからこそ笠原くんのエッチな意味での『野獣くん』にピンと来なかったというか」
「それはあるかもしれない……お父さんの『野獣』エピソードを数多く聞いてる訳じゃないんだけど」

 お母さんの言葉に私だけでなくりょーくんもうんうん頷いた反面———

「昔と今で時代が変わりゃあ『野獣』の意味合いもちごうてくるけぇね。
 そもそも儂は笠原くんの身長が急激に伸びようが金髪になってピアスを増やそうが『野獣』だの『ワル』だのと変なイメージは浮かばんかったんじゃけどのう」

「「????!!!」」

 ———お父さんのその発言に私達は目を見開かせる。

「えっ? お父さん! なんで彼が金髪でピアス嵌めてた事知ってるの?!」
「しかも俺の背が中学卒業して急に伸び始めた事まで……??」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...