【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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朝に香る

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「そうなのよ! 『今日は朝香と笠原くんが来る大事な日なんだから絶対にお酒を飲まないで』ってきつく言っておいたのに、私が朝香達を迎えに行ってる最中に日本酒あけたのよ? 信じられないでしょ?! 恥ずかしいったらありゃしないわよっ!!」

 するとキッチンの方からお母さんの声と足音がパタパタ聞こえてきて、私達とお父さんとの間に話って入ってくるなりテーブルにチーズケーキやコーヒーカップを並べ始めた。

「なんじゃ! 今日は元々店休日なんじゃけぇ別に昼から呑んでも良かろうが!!」
「今日がただの店休日なら私だって何も言わないわよ!!
 『パパはただでさえ野獣みたいな恐い顔してるんだから絶対にお酒飲まないで』って約束したでしょ? その事を私は怒ってるの!」
「じゃ……じゃけど、ママがおらん間手持ち無沙汰じゃろうが! わしだって心の準備ってものをせにゃならんし」
「だーかーらー! 『お酒以外の事で心の準備しなさい』って言ったじゃないっ!」

 そこからはお母さんがお父さんにビシバシ口撃をしかける。

「酒以外って急に言われてものう」

 大柄なお父さんに比べお母さんは私とほぼ同じ小柄な体型なんだけど、約束を破った負い目もあって今はお母さんの方が優勢な状況だ。

「お酒もだけど笠原くんが怖がるから広島弁はなるべく抑えてって言ったじゃない!!」
「おっ……お前もいちいちうるさいのう。こんなん呑まんにゃおれんじゃろう」
「じゃけぇ『その顔のその声でしゃべるけぇ恐い』って言いよるんよ! ウチは!!!!」

 そしてとうとう飛び出たお母さんの語気の強い広島弁。

 私は困惑しまくっているりょーくんを椅子に座らせ「大丈夫だから」「こうなった時はお母さんの方が強いから」と宥めてあげる。

「仕方無かろうが!! 儂に標準語しゃべれゆうんが無理なんじゃいや!」

 それでもお父さんが言い訳を繰り出すものだから私もムカムカきちゃって

「じゃあせめて素面しらふで私達待ってくれててもいいじゃない! お父さん最低!!」

 私もお母さんに応戦してお父さんを責めた。

「さっ……最低って朝香お前」
「ほうよ! パパは最低な父親よ! 笠原くんがどんな思いで何時間もかけてここまで来てくれたか想像が出来とらんってウチは言うとるんよ!! パパは『心優しい野獣』じゃなかったん? 純朴な若い男の子を酔った勢いでいびるなんて『最恐さいきょうの野蛮な野獣』って言われても仕方がないわいね!! 学生時代にその悪口言われて悔しがっていたパパはどこへ行ったんよ?」
「まっ、ママ……」
「しかも笠原くんのあの言葉ちゃんと聞いた? パパの不甲斐なさと笠原くんの誠実さでハンドドリップの手が震えまくったわ!!」

 お母さんも、その背後にいる私も腕組みをして睨みつけている。
 睨まれた側のお父さんはすっかり萎縮してしまい、お母さんや私達に頭を軽く下げて

「すまんかった……」

 と、とうとう謝ったんだ。


(ふぅ……やれやれ)

 無事に野獣を攻略出来たところで私も着席し、りょーくんの方を向くと

「や、野獣? え? そう呼ばれてたの……ですか?」

 ……と、彼は目を丸くしてかつてのお父さんの渾名に驚いている。

「「えっ???!」」

 りょーくんのボソッと漏らした言葉に異様な食い付きをお母さんもお父さんもして、りょーくんの方へと一斉に視線を送る。

「なんじゃと?! 笠原くんまで『野獣』って渾名がついとるんか??」
「っていうかなんで??! こんなに素敵なイケメンなのに!!!!」

 思った以上に両親の興味が高くって……

「あっ……えっと…………それは、ですね……」

 テーブルに並べられたチーズケーキやコーヒーに「いただきます」を言う代わりに、りょーくんは顔を真っ赤にしながら「元カノ絵梨さんにある事ない事広められた野獣の噂話」を現彼女の実家でお披露目するという恥辱的罰ゲームをこうむ

 その直後、お父さんの豪快な笑い声がしばらく家の中に響き渡ったのだった……。






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