162 / 251
朝に香る
6
しおりを挟む
「ただいまー」
玄関扉を開けて大きめの声で呼び掛けてみたんだけど、そこにはお父さんどころかお母さんまでもが居ない。
「あれ? あーちゃんのお母さんは中にいらっしゃるんだよね?」
確かに私達は車から降りてしばらく外の景色を眺めながら話をしていた……けど、両親が玄関先で痺れを切らすほど長時間会話していたわけでもなかった。
「多分……」
現実、目の前には誰もおらず出迎えてくれているのはお母さんが並べて用意してくれたであろう2人分のスリッパのみ。
「取り敢えずリビングの中に入ろうか、りょーくん」
「うん……」
私はりょーくんにスリッパを履いて中に入るよう促し、一緒に廊下を渡る。
(うーん……なんか嫌な予感がする)
「もしかしてあーちゃんのお父さんは、今回の事で俺にかなりお怒りなんじゃ……」
「…………」
冷や汗をかくりょーくんを見上げながら私も背中に一筋の汗が流れ落ちる。
(こういう時、りょーくんを安心させて「そんな事ないよ」って言ってあげたいんだけど……でもなぁ)
正直、私はお父さんがりょーくんに対して怒っているんじゃないかという予想とは別に、お母さんがお父さんにきつく言っておいたというあの約束を破っているんじゃないかという不安が拭えなくって……
「……あーちゃん?」
顔の筋肉がつい強張ってりょーくんの不安や緊張を煽ってしまう。
(もしあの約束を破っていたらと思うとりょーくんに申し訳が立たないっていうか)
出来るならば約束を守っていてほしい……そう願いながら私達はリビングに足を踏み入れたんだけど
「ただいま……お父さん。久しぶり」
私は顔をあげ、リビングの窓側に置いてあるロッキングチェアに腰掛けているお父さんに向かって声を掛けた。
「んあぁ?」
窓の景色を見つめていたお父さんは、身長190㎝体重90キロオーバーの大柄な体をこちら側へと振り返りながら気怠そうな声を出す。
「!!」
(やっぱり! 約束破ってんじゃん!!)
私はその瞬間、自分の父親に対して怒りがフツフツと沸いてきて……
「あの! 初めまして朝香さんとお付き合いさせていただいてます」
一方、りょーくんはというと一歩お父さんの方へ歩み寄り、頭を下げて挨拶する。
すると椅子から立ち上がったお父さんがゆらりとこちらに一歩二歩と近寄りながら私達の方に赤ら顔を向けて
「ああ……遠いところからようきんさったのう」
って、ドスのきいた低い声で返事をしたんだ。
「っ!!!!」
りょーくんはお父さんの只ならない様子に息を呑んで半歩後退する。
大柄な体型
ドスのきいた低い声
強面の赤ら顔
薄茶色のサングラス
一度皐月さんのお葬式に顔を合わせているといってもそんなの出会いのカウントにはほぼ入らない。
その4つの特徴ですら怖くて初対面の人を毎回ビビらせてきているのを私は知っているし、特に今のお父さんの目が座っていて血走っているのがサングラス越しからでもハッキリ確認出来た事でこっちもハッキリと感情を怒りに変換させる事が出来た。
(そりゃ怖いよねりょーくん! だって今日のお父さんったら……)
「えっと……あの、俺っ」
お父さんの様子に腰が引けていたりょーくんは、瞼をギュッと固く瞑り意を決したように
「村川朝香さんとお付き合いをさせていただいております笠原亮輔と申します! ご報告が遅くなりまして大変申し訳ありません!!」
大きな声でそう言い、もう一度頭を下げたんだ。
「俺は……いえ、私はかつて遠野皐月さんを死に追いやり遠野夕紀さんの幸せを奪った罪深い男です。恋愛感情を抱く資格はないものだと自覚していますが私は村川朝香さんに恋し愛するという自分の感情を抑えられませんでした!
村川さんにとってはこんな人間を赦す筈がないでしょう。ですが認めていただきたいのです。今の私にとって村川朝香さんは掛け替えの無い存在なんです!!
お願いします!私と朝香さんとの交際を認めて下さい!!!!」
「りょーくん……」
それはりょーくんの本質である、真面目で誠実な言葉や行動。
お父さんの姿を一目見て怯んだ人とは思えないくらい、りょーくんの言動はかっこよくて素敵に見えた。
「嘘を言いなさんなよ、嘘を」
なのにお父さんはりょーくんのかっこいい姿を「嘘」という短い言葉で一蹴する……私はもう我慢ならなかった。
「嘘とかそんな軽々しく私の大切な人を罵らないでよ!! この酔っ払いジジイ!!!!」
「なっ……」
「え? 酔っ払い??」
私の言葉にお父さんは怯み、りょーくんは困惑している。
そう……今日は私とりょーくんが来るっていうのに! まだ真っ昼間だっていうのに!お父さんってばお母さんの約束を破ってベロンベロンに酔っ払っちゃっているんだ。
玄関扉を開けて大きめの声で呼び掛けてみたんだけど、そこにはお父さんどころかお母さんまでもが居ない。
「あれ? あーちゃんのお母さんは中にいらっしゃるんだよね?」
確かに私達は車から降りてしばらく外の景色を眺めながら話をしていた……けど、両親が玄関先で痺れを切らすほど長時間会話していたわけでもなかった。
「多分……」
現実、目の前には誰もおらず出迎えてくれているのはお母さんが並べて用意してくれたであろう2人分のスリッパのみ。
「取り敢えずリビングの中に入ろうか、りょーくん」
「うん……」
私はりょーくんにスリッパを履いて中に入るよう促し、一緒に廊下を渡る。
(うーん……なんか嫌な予感がする)
「もしかしてあーちゃんのお父さんは、今回の事で俺にかなりお怒りなんじゃ……」
「…………」
冷や汗をかくりょーくんを見上げながら私も背中に一筋の汗が流れ落ちる。
(こういう時、りょーくんを安心させて「そんな事ないよ」って言ってあげたいんだけど……でもなぁ)
正直、私はお父さんがりょーくんに対して怒っているんじゃないかという予想とは別に、お母さんがお父さんにきつく言っておいたというあの約束を破っているんじゃないかという不安が拭えなくって……
「……あーちゃん?」
顔の筋肉がつい強張ってりょーくんの不安や緊張を煽ってしまう。
(もしあの約束を破っていたらと思うとりょーくんに申し訳が立たないっていうか)
出来るならば約束を守っていてほしい……そう願いながら私達はリビングに足を踏み入れたんだけど
「ただいま……お父さん。久しぶり」
私は顔をあげ、リビングの窓側に置いてあるロッキングチェアに腰掛けているお父さんに向かって声を掛けた。
「んあぁ?」
窓の景色を見つめていたお父さんは、身長190㎝体重90キロオーバーの大柄な体をこちら側へと振り返りながら気怠そうな声を出す。
「!!」
(やっぱり! 約束破ってんじゃん!!)
私はその瞬間、自分の父親に対して怒りがフツフツと沸いてきて……
「あの! 初めまして朝香さんとお付き合いさせていただいてます」
一方、りょーくんはというと一歩お父さんの方へ歩み寄り、頭を下げて挨拶する。
すると椅子から立ち上がったお父さんがゆらりとこちらに一歩二歩と近寄りながら私達の方に赤ら顔を向けて
「ああ……遠いところからようきんさったのう」
って、ドスのきいた低い声で返事をしたんだ。
「っ!!!!」
りょーくんはお父さんの只ならない様子に息を呑んで半歩後退する。
大柄な体型
ドスのきいた低い声
強面の赤ら顔
薄茶色のサングラス
一度皐月さんのお葬式に顔を合わせているといってもそんなの出会いのカウントにはほぼ入らない。
その4つの特徴ですら怖くて初対面の人を毎回ビビらせてきているのを私は知っているし、特に今のお父さんの目が座っていて血走っているのがサングラス越しからでもハッキリ確認出来た事でこっちもハッキリと感情を怒りに変換させる事が出来た。
(そりゃ怖いよねりょーくん! だって今日のお父さんったら……)
「えっと……あの、俺っ」
お父さんの様子に腰が引けていたりょーくんは、瞼をギュッと固く瞑り意を決したように
「村川朝香さんとお付き合いをさせていただいております笠原亮輔と申します! ご報告が遅くなりまして大変申し訳ありません!!」
大きな声でそう言い、もう一度頭を下げたんだ。
「俺は……いえ、私はかつて遠野皐月さんを死に追いやり遠野夕紀さんの幸せを奪った罪深い男です。恋愛感情を抱く資格はないものだと自覚していますが私は村川朝香さんに恋し愛するという自分の感情を抑えられませんでした!
村川さんにとってはこんな人間を赦す筈がないでしょう。ですが認めていただきたいのです。今の私にとって村川朝香さんは掛け替えの無い存在なんです!!
お願いします!私と朝香さんとの交際を認めて下さい!!!!」
「りょーくん……」
それはりょーくんの本質である、真面目で誠実な言葉や行動。
お父さんの姿を一目見て怯んだ人とは思えないくらい、りょーくんの言動はかっこよくて素敵に見えた。
「嘘を言いなさんなよ、嘘を」
なのにお父さんはりょーくんのかっこいい姿を「嘘」という短い言葉で一蹴する……私はもう我慢ならなかった。
「嘘とかそんな軽々しく私の大切な人を罵らないでよ!! この酔っ払いジジイ!!!!」
「なっ……」
「え? 酔っ払い??」
私の言葉にお父さんは怯み、りょーくんは困惑している。
そう……今日は私とりょーくんが来るっていうのに! まだ真っ昼間だっていうのに!お父さんってばお母さんの約束を破ってベロンベロンに酔っ払っちゃっているんだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。


密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる