【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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朝に香る

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「ただいまー」

 玄関扉を開けて大きめの声で呼び掛けてみたんだけど、そこにはお父さんどころかお母さんまでもが居ない。

「あれ? あーちゃんのお母さんは中にいらっしゃるんだよね?」

 確かに私達は車から降りてしばらく外の景色を眺めながら話をしていた……けど、両親が玄関先で痺れを切らすほど長時間会話していたわけでもなかった。

「多分……」

 現実、目の前には誰もおらず出迎えてくれているのはお母さんが並べて用意してくれたであろう2人分のスリッパのみ。

「取り敢えずリビングの中に入ろうか、りょーくん」
「うん……」

 私はりょーくんにスリッパを履いて中に入るよう促し、一緒に廊下を渡る。

(うーん……なんか嫌な予感がする)

「もしかしてあーちゃんのお父さんは、今回の事で俺にかなりお怒りなんじゃ……」
「…………」

 冷や汗をかくりょーくんを見上げながら私も背中に一筋の汗が流れ落ちる。

(こういう時、りょーくんを安心させて「そんな事ないよ」って言ってあげたいんだけど……でもなぁ)

 正直、私はお父さんがりょーくんに対して怒っているんじゃないかという予想とは別に、お母さんがお父さんにきつく言っておいたというを破っているんじゃないかという不安が拭えなくって……

「……あーちゃん?」

 顔の筋肉がつい強張こわばってりょーくんの不安や緊張をあおってしまう。

(もしを破っていたらと思うとりょーくんに申し訳が立たないっていうか)

 出来るならば約束を守っていてほしい……そう願いながら私達はリビングに足を踏み入れたんだけど

「ただいま……お父さん。久しぶり」

 私は顔をあげ、リビングの窓側に置いてあるロッキングチェアに腰掛けているお父さんに向かって声を掛けた。

「んあぁ?」

 窓の景色を見つめていたお父さんは、身長190㎝体重90キロオーバーの大柄な体をこちら側へと振り返りながら気怠けだるそうな声を出す。

「!!」
 
(やっぱり! 約束破ってんじゃん!!)

 私はその瞬間、自分の父親に対して怒りがフツフツと沸いてきて……

「あの! 初めまして朝香さんとお付き合いさせていただいてます」

 一方、りょーくんはというと一歩お父さんの方へ歩み寄り、頭を下げて挨拶する。
 すると椅子から立ち上がったお父さんがゆらりとこちらに一歩二歩と近寄りながら私達の方に赤ら顔を向けて

「ああ……遠いところからようきんさったのう」

 って、ドスのきいた低い声で返事をしたんだ。


「っ!!!!」

 りょーくんはお父さんの只ならない様子に息を呑んで半歩後退する。

 大柄な体型
 ドスのきいた低い声
 強面こわもての赤ら顔
 薄茶色のサングラス

 一度皐月さんのお葬式に顔を合わせているといってもそんなの出会いのカウントにはほぼ入らない。
 その4つの特徴ですら怖くて初対面の人を毎回ビビらせてきているのを私は知っているし、特に今のお父さんの目が座っていて血走っているのがサングラス越しからでもハッキリ確認出来た事でこっちもハッキリと感情を怒りに変換させる事が出来た。

(そりゃ怖いよねりょーくん! だって今日のお父さんったら……)

「えっと……あの、俺っ」

 お父さんの様子に腰が引けていたりょーくんは、瞼をギュッと固くつぶり意を決したように

「村川朝香さんとお付き合いをさせていただいております笠原亮輔と申します! ご報告が遅くなりまして大変申し訳ありません!!」

 大きな声でそう言い、もう一度頭を下げたんだ。

「俺は……いえ、私はかつて遠野皐月さんを死に追いやり遠野夕紀さんの幸せを奪った罪深い男です。恋愛感情を抱く資格はないものだと自覚していますが私は村川朝香さんに恋し愛するという自分の感情を抑えられませんでした!
 村川さんにとってはこんな人間をゆるす筈がないでしょう。ですが認めていただきたいのです。今の私にとって村川朝香さんは掛け替えの無い存在なんです!!
 お願いします!私と朝香さんとの交際を認めて下さい!!!!」

「りょーくん……」

 それはりょーくんの本質である、真面目で誠実な言葉や行動。

 お父さんの姿を一目見て怯んだ人とは思えないくらい、りょーくんの言動はかっこよくて素敵に見えた。

「嘘を言いなさんなよ、嘘を」

 なのにお父さんはりょーくんのかっこいい姿を「嘘」という短い言葉で一蹴いっしゅうする……私はもう我慢ならなかった。

「嘘とかそんな軽々しく私の大切な人を罵らないでよ!! この酔っ払いジジイ!!!!」
「なっ……」
「え? 酔っ払い??」

 私の言葉にお父さんは怯み、りょーくんは困惑している。

 そう……今日は私とりょーくんが来るっていうのに! まだ真っ昼間だっていうのに!お父さんってばお母さんのを破ってベロンベロンに酔っ払っちゃっているんだ。
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