【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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嵐は過ぎて……

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「正確にはまだ住んでないの。忙しくて初恵さんのところに置いてるものを動かせていなくって。寝泊まりもまだ初恵さんに甘え中っていう情けない状況なのよ」
「でも凄いですよ!! 新居の準備が整ったらすぐにお引越しになるんですから」

 肩を落として自らをおとしめる言動をする夕紀さんだったけど、正直「新居探し」や「入居手続き」という夕紀さんの前向きな行動に拍手を送りたい気持ちでいた。

「……で、あの日亮輔くんと一緒に内見したのはね、部屋の様子だとか立地条件を彼にも確認してもらいたかったの。
 この店から1番遠い場所にある新築マンションの一室なんだけどね、皐月の霊園へ通うにはとっても好条件だったから」
「皐月さんの……霊園?」
「こっからだと遠回りになっちゃうんだけど、そこは霊園へ行く為の高速入り口が近くてね。駅にも近くていろんな方面へ出掛けやすそうだったし……それに、皐月の写真を飾ったり小さな仏壇を設置するのに良さそうな洋室もあってね。間取りを初めて目にした時に、私がこれから生活していくイメージがすぐに出来たっていうか」
「そうだったんですか……それでりょーくんも一緒に立ち会いを……」

 そして内見をりょーくんと一緒にした理由をそこでようやく理解する。

「俺もその部屋を見た時にね、『凄く良いな』って思ったんだ。
 リビングがとっても広い2LDKなんだけど、部屋の造りがとても良くて、1人で暮らしていくとしても寂しさを感じないっていうか。お姉さんが心地良く住んでいけそうって雰囲気がしたんだよ。
 きっとあの場所なら先生もお姉さんの事を温かく見守ってくれそうだなって感じたかなぁ」

 いつの間にか掃除を終え、エプロンを外したりょーくんがソファ席に戻ってきてくれた。
 私はサッと自分のお尻をスライド移動させてりょーくんの座る場所を空けておくと、りょーくんは申し訳なさそうに「ごめんね」と小声で謝り私の体に触れない距離を保って横並びで腰掛ける。

「そんなにいいお部屋なら、夕紀さんも即決しちゃいますよね……」

 私はまた夕紀さんの方に向き直りそう言うと、夕紀さんは人差し指をピッと天井に向けてニコッと微笑んだ。

「亮輔くんと内見して、そのマンションにほぼほぼ決めた形で上原さんとその時は解散したんだけどね、『そのマンションに決めよう』って決定付けたのはその直後だったのよ」
「直後?」

 ニコッと微笑んで「内見で即決しなかった」みたいな事実を夕紀さんは明かしたものだから、私はつい首をひねる。

「それが、あの夜酔っ払いながらフラフラ歩いてダーツバーの店から一旦出ようとしたあーちゃんを偶然見かける事に繋がったんだよ」

 私の首捻りをすぐに解消してくれたのはりょーくんで……

「内見が終わった後、上原さんから近くにある飲食店をオススメしてくれてね。亮輔くんと2人で食べに行ったの……加えて、『絶対に入ってはいけないバーがあるから気をつけて』って注意されて」

 夕紀さんが捕捉をする。

「絶対に入ってはいけないバーって……まさか!」

(それが、私があの夜お酒を飲んだりご飯を食べたりしていたダーツバーだったというの?!)

 夕紀さんの捕捉に私はハッと息を呑むとりょーくんは何度も頷き

「前にあーちゃんに少し話してた『タチの悪いダーツバー』が、あーちゃんが居たあのダーツバーだったんだよ」
 
 りょーくんのその言葉に私の背筋は凍った。


ーーー

『外観も内装もごく一般的なダーツバーなんだけどさ、そこの店と特別仲の良い客だけが使える鍵付きの個室があるんだとかないんだとか』

ーーー


 りょーくんが昔に上原さんから聞いていたという話と、私があの日の夜居たダーツバーの特徴がソックリだった事に私はようやく気付いたのだった。

「私ね、半信半疑だったの。オススメの飲食店の通りってガチャガチャした雰囲気だとか陰気なオーラを放っているとか、逆に閑散とした感じがあるとか……全然そんな感じがなかったの。ごく普通の若者に人気のオシャレエリアって感じで。
 それで、こっちはボディガードみたいな頼もしい男の子が居る状況だったから『どんな店なのかワザとチラ見してみよう』って気になっちゃって」
「そしたらさぁ、本当に偶然だったんだよ! あーちゃんがフラフラしながら店から出ようとしてて、俺くらいの身長のある陰気な店員があーちゃんを後ろから取り押さえているところが見えて!」
「私と亮輔くん、すぐにその店の別の従業員を問いただしたんだけどらちがあかなくって」
「ついさっきまで見えてたあーちゃんは完全に見失ったし、店長にも『ヤバいかも』って連絡入れつつ店員をしてしようとして」
「亮輔くんの行動はめちゃくちゃ強引だっだけどね。でも私も悠長な事言ってられなかったし、亮輔くんの強引なやり方のおかげで朝香ちゃんが居る部屋を突き止めて救出出来たとも言えるから」
 
 夕紀さんとりょーくんが交互に喋ってくれた内容に私は大きな感謝をした。
 
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