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彼の仮面
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しおりを挟むガチャッ
「!!」
(開かない?!)
私がトイレに出る前までは自由に開け閉め出来ていた扉が、鍵がかかっているかのように開かなくなっていて驚く。
「ああ、ロックしてもらったよ。さっきアサちゃんを迎えに行ったヤツに鍵かけてもらったんだ」
「鍵??!」
「本当はダメらしいんだけどね、さっきアイツがアサちゃんの肩や腰を触りながら連れてくるのを見たらイラッとしちゃって、つい合図しちゃった♪」
私が振り向くと、りゅーさんはニコニコした表情で淡々と答えてくる。
「合図……」
「気付かなかったかな? 僕、他人を睨むなんて滅多にしないからね。それが合図になってるの『邪魔すんなよ』って意味で。その為の金もアイツに今日握らせてんの」
句点でプツプツと区切るように、尚且つ淡々とニコニコ顔のままで私に説明するりゅーさんの姿は、仮面を被った魔物のように感じられた。
りゅーさんがいつか私に言った「りょーくんは嘘の仮面を被っている」の発言よりも、今の発言はとても冷めていて……なのにドロっとねっとりと執着されているような感覚もあって。
とにかくりゅーさんそのものが私にとって何よりも怖い存在になっている。
「やだ……鍵開けて。私をここから出して」
私は涙を流しながら目の前の怖いものに向かって懇願した。
「ダメだよ、アサちゃんは今冷静になれてない。ソファに座って酔いを醒さなくちゃ」
けれども私の意思は聞き入れられず、私は強制的にソファへ座らされた。
「酔いが醒めるツボを押してあげようか? 本心としてはジーンズにつつまれた脚や膝を撫でてあげたいんだけど我慢してあげる」
その声は落ち着いていて、私を拘束しようとはしない……けどもうそれすらも恐ろしくて
「いや……やだぁ! お願いだから私をここから出して!! 私に触らないで!!」
私は出来る限り大きく、金切声に近い声を出して抵抗した。
「やだなぁ怖がらないでよアサちゃ」
ドンッ!!
ニコニコ顔の仮面が更に近付こうとしたその時、個室の外側から大きな音が鳴った。
「えっ」
ドン!!ドンドンドンドンッ!!!!
それは、扉を叩く大きな大きな音で
「あーちゃん!! そこに居るの??」
聞き慣れた声が、音の直後に聞こえてきた。
「りょー……くん……?」
(えっ?どうしてこんな場所にりょーくんが?!)
驚き過ぎて全身が硬直する。
やがて、バンッと部屋の扉が開いて
「あーちゃん!!!」
りょーくんが部屋の中に入ってきた。
「!!!!」
「朝香ちゃん!!」
「朝香さん!!」
次いで何故か夕紀さんと上原さんが入ってきて私は更に困惑する。
「……え、ゆーきさん?」
私の目の前の人も意外な登場人物に困惑していた様子だったんだけど
「てめぇこの野郎!! どういうつもりだ??!!!」
すぐにりょーくんの怒声によって思考が強制的に止められる。
「どういうつもりって」
りょーくんは見た事も無い形相で仮面を被り続ける人に掴みかかり羽交い締めにして
「俺の大切な人に何をした? 正直に言えよ犯罪者!!」
とても低い声で掴んだ相手に問い掛ける。
「りょーくん」
「朝香ちゃんは離れよう」
私はりょーくんに手を伸ばそうとしたけれど、夕紀さんと上原さんによって優しく抱き寄せられ部屋の隅に移動させられる。
「夕紀さん……上原さん」
「朝香ちゃん、痛いところはない? 怪我はしていない?」
気が付いたら上原さんはスマホを手にして部屋からサッと出て行ってしまい、代わりに夕紀さんが私に優しく声を掛けてくれていた。
「痛いところも……多分、怪我も……ないです」
私が小さくそう答えると夕紀さんは涙を浮かべながらギュッと私の上半身を抱き締め
「良かった……本当に良かった……」
夕紀さんは安堵の声を漏らしていて、痛みも怪我も無かった事に私も安堵したと共に……
「てめえふざけてんのか!! あーちゃんに近付いて友達になるフリが出来りゃすぐに個室で襲うのか!!」
怒りに満ちているりょーくんの声を夕紀さんの腕に包まれながら受け取っていた。
「あーちゃんはお前をずっと信用してたんだよ! てめえの言葉全てを純粋に信じて、同郷で珈琲に詳しい友達が出来たって俺に嬉しそうに話してくれたんだよ! てめえのくだらねえ欲望の為にそんなあーちゃん泣かせてそんなに楽しいのかよ!!」
りょーくんの声は怒りに満ちていたけれど、私と喧嘩していたなんて信じられないくらい私の事を思い遣る言葉ばかりをその人に向かってぶつけていた。
「信用するも何も僕は嘘ついてないんだけどなぁ」
なのにその人には何も響かないらしくヘラヘラ笑っているようにも感じられ、すぐにりょーくんの拳の音が鳴る。
「……」
私はりょーくんの声にも、拳の音にも……一言も自分なりの言葉を掛ける事が出来なくて
りょーくんの拳の音が2発、3発と聞こえる毎に
「朝香ちゃん本当にごめんなさい」
夕紀さんからの謝罪の言葉を重ねて聞かされる状況となっていた。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
しばらくすると、りょーくんの大きな吐息と夕紀さんの温もりだけしか感じられなくなっていて
りょーくんに殴られたその人とは別の意味で、私も気を失ってしまったのだそうだ。
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