【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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彼の仮面

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 だけど昨日までの大学でのりょーくんの態度を見ていたらそれも馬鹿らしく感じて目から涙がじわっと浮かぶ。

「操ってなんなの……女ばっかり我慢しろっていうの?」

 言葉の古臭さにも腹が立つし、それをなんとなくの雰囲気でしなきゃいけない自分にもムカつく。

(りゅーさんはお友達なのに。りゅーさんが私と性別が違うからって、なんで私がここまで我慢しなきゃいけないの?)

 それを思えば思うほど悲しい涙が頬を伝った。

「こんなの、浮気するしないの問題よりも心が痛いよ……」




ーーー

『アサちゃんの彼氏の本性はぶっきらぼうに喋る荒々しい性格の方で、アサちゃんとゆーきさんに見せてる顔は嘘の仮面を被っているんだ』
 
『嘘の仮面を被る理由は単純。嫌われたくないからさ。
 本性全開でアサちゃんゆーきさんに接したらドン引きするだろう? だから仮面を被って優しい顔を見せてる』
 
ーーー



 ふとその時、ここ数日私に向けているりょーくんの表情や言葉遣いが、りゅーさんのその言葉と重なった。

「嘘の仮面……確かにりょーくんの本性は初々しかった1年前とは違う……」




ーーー

『僕なら、言葉遣いを他人によって使い分けようなんて……思わんけぇ、ついアサちゃんの彼氏を悪く言うてしもうたんよ。別にアサちゃんと彼との関係を引き裂こうだとか、亀裂を入れようだとか、そういった考えはないけぇ』

『だって、アサちゃんこんなに可愛くて良い子なんじゃもん。可愛くて良い子のアサちゃんの側には、素敵で中身がイケメンなパートナーがおってほしい。アサちゃんの側におるのは僕じゃなくてもええんよ。アサちゃんは彼と同棲したいって思えるほどラブラブなんじゃし、2人の間にはちゃんと心も体も繋がってるって分かっとる。僕じゃきっとアサちゃんの彼氏には勝てんのも……ちゃんと分かっとるんよ』

ーーー



 りょーくんの醜さと反する、りゅーさんのかっこよくて素敵な言葉ばかりがリフレインして、私の悲しみを取り除いてくれているような気分に陥ってきて……



ーーー

『彼がアサちゃんを泣かせるような事をしてきたら、僕はいつでもアサちゃんを助けに行く。どこにいたって、すぐにアサちゃんのところまで飛んでって、僕の手で……腕で抱き締めてあげるよ』

ーーー



 りゅーさんのそのキラキラしたかっこよくて素敵な言葉で私の肩はピクンと震えて

「りゅーさん……「助けに行く」って言ってくれた……」


 私は藁を掴む思いで、りゅーさんの番号に電話を掛けた。


「もしもし りゅーさん?今日でも明日でもいいから……私をいいところへ連れて行って。
 そこで……私を、ギュッて……抱き締めてほしいの」


 電話の向こうのりゅーさんはとても嬉しそうで、早速今夜ダーツバーの予約を入れると言ってくれた。

 待ち合わせは18時30分
 駅はいつもとは別の路線の、あまり利用した事のない駅だった。

「りゅーさんの住んでるところに近い店って言ってたな……」

 前回とは違う店みたいだけど、それもなんだかワクワクする。

「オシャレ、した方がいいかな……」

 自分の部屋に入ってクローゼットを開けてみてみる。

 ……だけど

「どの服も、りょーくんとの思い出がチラつくなぁ……」

 クローゼットにかかっているオシャレ服や靴は全て、りょーくんとのデートに身に付けたものばかりで今夜りゅーさんと会う場所に相応ふさわしいとは思えなかった。

「じゃあもっと……りょーくんと会う前の、昔の服っ!!」

 そう思い立って探し出したのが

 生地の分厚いオーバーサイズのグレーパーカー
 白のロンT
 白のキャミソール
 厚手のストレートジーンズ
 黒の一分丈スパッツ
 上下ベージュのブラとショーツ

「……本当に、りょーくんと会う前の服ばかりだ」

 しばらく袖を通していなかった服や下着類。
 使い古されていて、イケメンさんとダーツバーへ行くには田舎っぽ過ぎる気もするんだけど

「メイクしたら田舎臭くは感じないよね?」

 この1年でつちかったメイク技術でそれらをカバー出来る自信が今の私にはあった。





 いつもとは違う格好をして
 りゅーさんを待つ場所も、いつもとは違う。
 けれど、待ち合わせ時間の18時30分は確かに私とりゅーさんを繋ぐもので……それだけでとてもキラキラと輝いているような感じがした。

「あれ? アサちゃん??」

 時間通り、駅前の噴水そばに立っていると後ろからりゅーさんの声がした。

「りゅーさんこんばんは♪」

 いつもはスーツ姿だから私服は全然違った雰囲気なんだろうと予想していたけれど、ネイビーのサマージャケットを羽織り中はモノトーンに仕上げたコーディネートは本当に「りゅーさんらしさ」を表現していた。

(りょーくんとはまた違った大人の雰囲気ですっごく素敵♪)

「本当にアサちゃんなんだ。いつものポニーテールも良いけど、今日のポニーテールは毛先を巻いてて可愛らしいね。アサちゃんはフレアスカートやチュールスカートがよく似合うっていつも思っていたけど、スポーティなカジュアルも似合うね♡」

 夜とはいえ、もう5月だから身に付けたのは白のロンTと黒のキャミソールとストレートジーンズ。靴はボロいのしかなかったから待ち合わせ前にオシャレかっこいいスニーカーを買った。
 使い古しの服や急いで揃えた靴の出立ちではあるんだけど、りゅーさんに予想以上に喜ばれて嬉しい。

「今日は急なお願いしてしまってごめんね」

 私は急な誘いを謝ると

「いいのいいの僕も暇だったからさ。っていうか、アサちゃん真面目過ぎだよ! 僕達はもう仲良しのお友達なんだから変な気は遣わないで」

 りゅーさんがにこやかな表情を浮かべたまま、私の手を優しく手に取る。

「それに、今日は僕にギュッとしてほしいんでしょ?」

 りゅーさんは私をスッと抱き寄せて、そう耳元で囁いて

「あ……」
「僕はアサちゃんの彼氏じゃないから、色気のない抱き締め方になってしまうけど、それでもいい?」

 「健全なハグをする」とりゅーさんは宣言しているのに、思わず甘い吐息を漏らしてしまった。

「アサちゃん可愛い♡」
「やぁん……」

 なんだかすっごく変な気分になって、頭の中がふわふわホワホワしていく。

「ここから歩いてすぐだけど、手繋がせて? お友達でも手を繋ぐ時だってあるでしょ?」
「……はい」

 お友達なのにりゅーさんがイケメン過ぎて、手を繋ぐだけでドキドキしてしまう。

「はいじゃなくて、うん。だよ」

 緊張が言葉に表れてしまい、りゅーさんに言い直されてしまった。

「……うん」

 頷きながら小さく「うん」と返事すると、りゅーさんは納得してくれたようで「こっちだよ」と手を引いて歩き始めた。

「せっかくだから広島弁も使っていこうか? その方がもっともっと仲良くなれそうじゃし♪」
「うん……そうじゃね♪」


 
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