【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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彼の仮面

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 その日の19時半。

「あっ、月が綺麗」

 珈琲店の勝手口を先に開けた私は、建物の隙間から月明かりが差している事に気付いた。

「ホントだ」
「ついこの前まで月がおぼろに見えていたのに……初夏がやってくるのねぇ」

 2人の声がすぐに追いかけ次々と私の背後から顔を出す。

「世間はゴールデンウィークの始まりですもんね」

 2人というのは勿論、さっきまで焙煎室に居た夕紀さんともう1人……。

「りゅーさんは明日も休みでしょ? メーデーだっけ?」
「だから2日だけ仕事なのがしんどいよ。明日何しよう? 暇だなぁ」

 りょーくんではなく、りゅーさんだ。


「あ……」

 そしてちょうどよいタイミングでりょーくんが店の前まで迎えに来てくれたんだけど

「亮輔くんこんばんは」
「夕紀さんこんばんは。日曜日の夜なのに焙煎お疲れ様です」

 夕紀さんの返事にはニコニコ顔で返したのに、私やりゅーさんの顔を見るなりまたムッとした顔付きになっていて腹立たしい。

「笠原くん、彼女のお迎えだなんて素敵でかっこいいね」

 りゅーさんは純粋な気持ちでりょーくんを褒めているっていうのに

「当たり前の事ですから」

 と、怖い目付きをしながらボソッと返事をしちゃってる。

「もうっ!」

 私は、苦笑いをする夕紀さんとりゅーさんの大人的対応に申し訳ない気持ちになってしまい、りょーくんに怒りをぶつけながら彼の腕に抱きついて早く帰ろうとグイグイ引っ張った。

「夕紀さん、りゅーさん! 今日はお疲れ様でしたっ!!
 夕紀さん、またいつもの時間に来ますからよろしくお願いしますっ!」
 
(恥ずかしい……すっごく恥ずかしいよ本当に!!)

 りゅーさんは私に恋愛感情を向けていないっていうのにジェラ全開にしているりょーくんの姿を2人に晒すのがとにかく恥ずかしいと私は感じていて……。

「じゃあね朝香ちゃん!」
「アサちゃんおやすみなさい」



「あーちゃん、お疲れ」

 2人が遠くに小さくなっていく事に機嫌を良くして表情を弛ませるりょーくんが心底嫌いになってしまい、彼の腕に抱きついていた自分の両腕を解放させた。
 

「りょーくん、ああいう態度とるの本当にやめてよね! 子どもみたいで恥ずかしい!!」
「なっ……」

 彼の腕を払って先にスタスタ歩こうとする私にムカついたのか

「っ、んだよ! せっかく迎えに来てやったのに!!」

 いつもより乱暴な言葉遣いをして私の肩をガッと強く掴んだ。

「『迎えに来てやった』って、イヤイヤ私を迎えに行ったみたいな言い方っ! すっごく嫌なんだけど!!」

 私は振り返って彼の方をキッと睨み、肩を掴む大きな手をパシッと叩く

「なんだよその態度!」

 街灯が一定距離に設置されている広い歩道だから、辺りには駅から私達と反対方向に進んでくる人の姿もチラホラあって、喧嘩口調になりつつある私達の方をチラ見してくる人もいた。

「ムカつく態度を取ってるのはりょーくんの方でしょ!! 夕紀さんにだけニコニコして、私とりゅーさんにはブスッとした顔をするんだもん」
「そりゃそんな顔にもなるだろ! 村山まで店に居るとか想定外だし!!」
「りゅーさんは焙煎機を動かすところの見学をしていただけっ! 日曜日だけど暇してるからって店に遊びに来てくれたのっ!」
「遊びって、客だろ村山は!」
「りゅーさんは夕紀さんとお友達になったんだもんっ! お友達ならお店でも遊びに来たって良くない?今日は営業日でもないんだしっ!」
「っ……」

 周囲の目を気にする事なくマンションのエントランス前でつい言い合いになる私達。

「りゅーさんは純粋に珈琲が好きな人なの! 夕紀さんとりゅーさんは珈琲友達なのっ!! それに対してりょーくんは何で文句言うの?信じられないよ!!」

 夕紀さんの名前を出した途端に言い合いの言葉を止めるりょーくんの情けなさにもガッカリするし、私の事をキッと睨んでくるのもムカついている。

「確かに私が手伝いにお店行った時点でりゅーさんが焙煎室に居たから私もビックリしたよ。焙煎機を回すところを弟子の私以外に見せようとする夕紀さんにもビックリだしまさかりゅーさんが居るなんて思ってなかったし」
「……」
「でもね、今日りゅーさんと焙煎室で作業したり一緒に見学してて楽しかった。りゅーさんが本当に珈琲が大好きなんだっていうのが実感出来たから」

 睨み続けるりょーくんの前で、私は真剣に今日の出来事を話す。
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