130 / 251
彼の仮面
5
しおりを挟むその日の19時半。
「あっ、月が綺麗」
珈琲店の勝手口を先に開けた私は、建物の隙間から月明かりが差している事に気付いた。
「ホントだ」
「ついこの前まで月が朧に見えていたのに……初夏がやってくるのねぇ」
2人の声がすぐに追いかけ次々と私の背後から顔を出す。
「世間はゴールデンウィークの始まりですもんね」
2人というのは勿論、さっきまで焙煎室に居た夕紀さんともう1人……。
「りゅーさんは明日も休みでしょ? メーデーだっけ?」
「だから2日だけ仕事なのがしんどいよ。明日何しよう? 暇だなぁ」
りょーくんではなく、りゅーさんだ。
「あ……」
そしてちょうどよいタイミングでりょーくんが店の前まで迎えに来てくれたんだけど
「亮輔くんこんばんは」
「夕紀さんこんばんは。日曜日の夜なのに焙煎お疲れ様です」
夕紀さんの返事にはニコニコ顔で返したのに、私やりゅーさんの顔を見るなりまたムッとした顔付きになっていて腹立たしい。
「笠原くん、彼女のお迎えだなんて素敵でかっこいいね」
りゅーさんは純粋な気持ちでりょーくんを褒めているっていうのに
「当たり前の事ですから」
と、怖い目付きをしながらボソッと返事をしちゃってる。
「もうっ!」
私は、苦笑いをする夕紀さんとりゅーさんの大人的対応に申し訳ない気持ちになってしまい、りょーくんに怒りをぶつけながら彼の腕に抱きついて早く帰ろうとグイグイ引っ張った。
「夕紀さん、りゅーさん! 今日はお疲れ様でしたっ!!
夕紀さん、またいつもの時間に来ますからよろしくお願いしますっ!」
(恥ずかしい……すっごく恥ずかしいよ本当に!!)
りゅーさんは私に恋愛感情を向けていないっていうのにジェラ全開にしているりょーくんの姿を2人に晒すのがとにかく恥ずかしいと私は感じていて……。
「じゃあね朝香ちゃん!」
「アサちゃんおやすみなさい」
「あーちゃん、お疲れ」
2人が遠くに小さくなっていく事に機嫌を良くして表情を弛ませるりょーくんが心底嫌いになってしまい、彼の腕に抱きついていた自分の両腕を解放させた。
「りょーくん、ああいう態度とるの本当にやめてよね! 子どもみたいで恥ずかしい!!」
「なっ……」
彼の腕を払って先にスタスタ歩こうとする私にムカついたのか
「っ、んだよ! せっかく迎えに来てやったのに!!」
いつもより乱暴な言葉遣いをして私の肩をガッと強く掴んだ。
「『迎えに来てやった』って、イヤイヤ私を迎えに行ったみたいな言い方っ! すっごく嫌なんだけど!!」
私は振り返って彼の方をキッと睨み、肩を掴む大きな手をパシッと叩く
「なんだよその態度!」
街灯が一定距離に設置されている広い歩道だから、辺りには駅から私達と反対方向に進んでくる人の姿もチラホラあって、喧嘩口調になりつつある私達の方をチラ見してくる人もいた。
「ムカつく態度を取ってるのはりょーくんの方でしょ!! 夕紀さんにだけニコニコして、私とりゅーさんにはブスッとした顔をするんだもん」
「そりゃそんな顔にもなるだろ! 村山まで店に居るとか想定外だし!!」
「りゅーさんは焙煎機を動かすところの見学をしていただけっ! 日曜日だけど暇してるからって店に遊びに来てくれたのっ!」
「遊びって、客だろ村山は!」
「りゅーさんは夕紀さんとお友達になったんだもんっ! お友達ならお店でも遊びに来たって良くない?今日は営業日でもないんだしっ!」
「っ……」
周囲の目を気にする事なくマンションのエントランス前でつい言い合いになる私達。
「りゅーさんは純粋に珈琲が好きな人なの! 夕紀さんとりゅーさんは珈琲友達なのっ!! それに対してりょーくんは何で文句言うの?信じられないよ!!」
夕紀さんの名前を出した途端に言い合いの言葉を止めるりょーくんの情けなさにもガッカリするし、私の事をキッと睨んでくるのもムカついている。
「確かに私が手伝いにお店行った時点でりゅーさんが焙煎室に居たから私もビックリしたよ。焙煎機を回すところを弟子の私以外に見せようとする夕紀さんにもビックリだしまさかりゅーさんが居るなんて思ってなかったし」
「……」
「でもね、今日りゅーさんと焙煎室で作業したり一緒に見学してて楽しかった。りゅーさんが本当に珈琲が大好きなんだっていうのが実感出来たから」
睨み続けるりょーくんの前で、私は真剣に今日の出来事を話す。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる