129 / 251
彼の仮面
4
しおりを挟むイライラしてる上にりょーくんの事を嫌いになりかけている私ではあるんだけど、オムライスで全国放送のテレビ番組出演まで果たしてしまった喫茶店の娘として、昼食のオムライスもコーヒーも手を抜く真似なんて出来なかった。
「美味しい……」
「うん、美味しいね」
だけど、私達の空気は重い。
「コーヒーも美味しい……」
「ありがとう」
りょーくんと過ごしてきて、これほどまで食卓の雰囲気が冷めているのは初めてな事で、いつも通り美味しく出来上がったオムライスの味が逆に虚しく感じてしまう。
「りょーくん、ごめんね。お付き合い1周年の日を忘れちゃってて」
「ん……」
「私と1年付き合ってくれてありがとう」
「ん……」
オムライスやコーヒーの虚しさに追い討ちをかけるのが彼の返事の仕方だ。
私が1周年を忘れていた事にまだ苛立っているのか、「うん」すら言わず鼻音での返事しかしてくれない。
(口を開く事すらしてくれないんだ……)
りょーくんのその返事は、この1年の中で最も簡素で心もこもっていなくって……
(もしかして、今までのソフレさんや絵梨さんとお別れする時はこんな雰囲気だったのかなぁ……)
「まさかこのまま私ともお別れする雰囲気になるんじゃないか?」という不安が襲う。
(アパートの契約を切って今月から住民票もこのマンションに移したのに……)
りょーくんだって私の今の状況を知ってるんだから、まさか私をこの部屋から追い出すだなんて考えてないと思う……のに、今の私の頭の中はネガティブな内容で埋め尽くされていた。
「ちょっと出掛けてくる」
しばらく流れた沈黙を、りょーくんが先に破って
「え?」
ガタッと椅子から立ち上がった彼を私は見上げる。
「あーちゃんも出掛けたいから出掛けてきなよ」
「…………」
「追い出すって意味じゃないから」
「!!」
見上げた先に映った彼の表情と言葉に私は言いようのない怒りがフツフツと沸き起こって……!!
「夕紀さんのお手伝いしてくるっ!! 日曜日は昼過ぎから焙煎機をいつも回してるからっ!!」
私は強い口調でりょーくんに言い返し、りょーくんの手元に置かれた皿を回収し始めた。
「皿洗いくらい俺がするって」
「しなくていいっ!! りょーくんこそ早く出掛けていけばいいじゃないっ!!」
りょーくんの言葉を振り切り、私は更に強く言い返してそれらをキッチンに次々運んでいく。
(りょーくんったら酷い!! 「私を追い出そう」だとか酷い考えが過ぎったんだ!)
私のネガティブな考えと同じ発言を彼がした事にとにかく腹が立って仕方ない。
(口では「追い出すって意味じゃない」って言ったけど、それって逆に少しでもりょーくんにそんな考えが浮かんでたって意味に繋がるでしょ? じゃなきゃ「追い出す」なんて言葉が出るはずないんだもんっ!)
イライラしながらスポンジを握り食器用洗剤を含ませた私の姿をりょーくんはチラッと見て
「じゃあ、夜に迎えに行くよ。19時半でいい?」
りょーくんは19時半に珈琲店へ迎えに行くと宣言した。
「ん…」
「じゃあ……19時半に、また」
「ん…」
私はりょーくんに仕返ししてやろうと思って鼻音だけで返事してやったんだけど……
「うっ……」
虚しさが増すばかりで、りょーくんが玄関扉を開ける音を立てた直後に涙がポロポロと溢れてきた。
(凄く嫌だよこの雰囲気……)
りょーくんとのこの感じをどう打開出来るのか分からなさ過ぎて頭の中がパンク寸前になっていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。


密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる