【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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彼の仮面

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 イライラしてる上にりょーくんの事を嫌いになりかけている私ではあるんだけど、オムライスで全国放送のテレビ番組出演まで果たしてしまった喫茶店の娘として、昼食のオムライスもコーヒーも手を抜く真似なんて出来なかった。

「美味しい……」
「うん、美味しいね」

 だけど、私達の空気は重い。

「コーヒーも美味しい……」
「ありがとう」

 りょーくんと過ごしてきて、これほどまで食卓の雰囲気が冷めているのは初めてな事で、いつも通り美味しく出来上がったオムライスの味が逆に虚しく感じてしまう。


「りょーくん、ごめんね。お付き合い1周年の日を忘れちゃってて」
「ん……」
「私と1年付き合ってくれてありがとう」
「ん……」

 オムライスやコーヒーの虚しさに追い討ちをかけるのが彼の返事の仕方だ。

 私が1周年を忘れていた事にまだ苛立っているのか、「うん」すら言わず鼻音での返事しかしてくれない。

(口を開く事すらしてくれないんだ……)

 りょーくんのその返事は、この1年の中で最も簡素で心もこもっていなくって……

(もしかして、今までのソフレさんや絵梨さんとお別れする時はこんな雰囲気だったのかなぁ……)

 「まさかこのまま私ともお別れする雰囲気になるんじゃないか?」という不安が襲う。

(アパートの契約を切って今月から住民票もこのマンションに移したのに……)

 りょーくんだって私の今の状況を知ってるんだから、まさか私をこの部屋から追い出すだなんて考えてないと思う……のに、今の私の頭の中はネガティブな内容で埋め尽くされていた。




「ちょっと出掛けてくる」

 しばらく流れた沈黙を、りょーくんが先に破って

「え?」

 ガタッと椅子から立ち上がった彼を私は見上げる。

「あーちゃんも出掛けたいから出掛けてきなよ」
「…………」
って意味じゃないから」
「!!」

 見上げた先に映った彼の表情と言葉に私は言いようのない怒りがフツフツと沸き起こって……!!

「夕紀さんのお手伝いしてくるっ!! 日曜日は昼過ぎから焙煎機をいつも回してるからっ!!」

 私は強い口調でりょーくんに言い返し、りょーくんの手元に置かれた皿を回収し始めた。

「皿洗いくらい俺がするって」
「しなくていいっ!! りょーくんこそ早く出掛けていけばいいじゃないっ!!」

 りょーくんの言葉を振り切り、私は更に強く言い返してそれらをキッチンに次々運んでいく。

(りょーくんったら酷い!! 「私を追い出そう」だとか酷い考えがぎったんだ!)

 私のネガティブな考えと同じ発言を彼がした事にとにかく腹が立って仕方ない。

(口では「追い出すって意味じゃない」って言ったけど、それって逆に少しでもりょーくんにそんな考えが浮かんでたって意味に繋がるでしょ? じゃなきゃ「追い出す」なんて言葉が出るはずないんだもんっ!)

 イライラしながらスポンジを握り食器用洗剤を含ませた私の姿をりょーくんはチラッと見て

「じゃあ、夜に迎えに行くよ。19時半でいい?」

 りょーくんは19時半に珈琲店へ迎えに行くと宣言した。

「ん…」
「じゃあ……19時半に、また」
「ん…」

 私はりょーくんに仕返ししてやろうと思って鼻音だけで返事してやったんだけど……

「うっ……」

 虚しさが増すばかりで、りょーくんが玄関扉を開ける音を立てた直後に涙がポロポロとこぼれてきた。

(凄く嫌だよこの雰囲気……)

 
 りょーくんとのこの感じをどう打開出来るのか分からなさ過ぎて頭の中がパンク寸前になっていた。










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