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春は嵐
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「そう、アサちゃんの彼氏の本性はぶっきらぼうに喋る荒々しい性格の方で、アサちゃんとゆーきさんに見せてる顔は嘘の仮面を被っているんだ」
「…………」
「嘘の仮面を被る理由は単純。嫌われたくないからさ。
本性全開でアサちゃんゆーきさんに接したらドン引きするだろう?だから仮面を被って優しい顔を見せてる」
「仮面……優しい顔……」
本当に、今まで違和感なくりょーくんとずっと楽しく彼氏彼女の関係を続けていたのに、りゅーさんのその言葉が引き金となって私の心に嵐が吹き荒れるような感覚に陥る。
「もしかしてアサちゃん、今までにも彼と過ごしてきて本性の一面を目の当たりにした事があるんじゃないかな? 彼の怖い……本性の顔を」
「それは……」
そしてまたりゅーさんの言葉通り、私は彼のとても怖い一面を目の当たりにした経験を思い出す。
ーーー
『泣いてるって……マジか、萎えるわー』
『だーから謝んなっつってんじゃん! 余計に萎えんだよ、そーゆーのっ!!』
ーーー
あれは、初めてりょーくんと行った水族館デートの後の事だった。
りょーくんはそう言いながら私を乱暴に扱い、2度目のキスをしてきた。
情熱的なキスだったけれど、反面彼の口から出た言葉は氷のように冷たくて私は思わず泣いてしまったんだ。
あれは、彼の色んな感情が渦巻いて「いずれ私に嫌われてしまうならいっその事嫌われるような行動をとって離れてしまおう」という意図があった……みたいな事だったんだけど。心からの言葉ではなかったと……あの時はそう言っていたけれど。
(でも……)
本当に優しい人だったのなら「萎える」だなんて下品で冷たい表現使わないんじゃないかな……なんて、今はそう考えてしまっている。
(実際、「萎える」なんて言葉を聞いたのはあれ一回きりだし)
りょーくんだって当時も今も、その言葉が適切でないと理解はしているんだと思う。
「本性がぶっきらぼうで荒々しい方だから……だからこそ、友達や親戚には本性を出せるって事になる……のかな?」
(「萎える」もだけど……「雌猫」って言い放ったのも怖かったなぁ……)
想像すらしてないならそんな言葉出てこない。
あの一回きりだったからこそ、「萎える」も「雌猫」も「私に向かって言葉に出したのはあれきりだけど普段から心の中でそれをよく使ってるんじゃないか」という考えに行きついてしまった。
「僕の意見でアサちゃんの心を掻き乱して混乱させてしまったのならごめんね」
りゅーさんはそう言ってフォークを皿に置き、私の手を両手で温かくやわらかく包んでくれた。
「僕なら言葉遣いを他人によって使い分けようなんて思わんけぇ、ついアサちゃんの彼氏を悪く言うてしもうたんよ。別にアサちゃんと彼との関係を引き裂こうだとか、亀裂を入れようだとか、そういった考えはないけぇ」
「りゅーさん……」
途端に私の目から涙が滲む。
「だって、アサちゃんこんなに可愛くて良い子なんじゃもん。可愛くて良い子のアサちゃんの側には、素敵で中身がイケメンなパートナーがおってほしい。アサちゃんの側におるのは僕じゃなくてもええんよ。アサちゃんは彼と同棲したいって思えるほどラブラブなんじゃし、2人の間にはちゃんと心も体も繋がってるって分かっとる。僕じゃきっとアサちゃんの彼氏には勝てんのも……ちゃんと分かっとるんよ」
心に嵐が吹き荒れている私にとっては、りゅーさんの掌も掛けてくれる言葉も温か過ぎて
「そんな……過大評価しすぎだよぅ」
頬が熱くて別のドキドキが高鳴ってくる。
「じゃけど、彼氏にはアサちゃんに見せるのとは違う本性があるのだとしたら……その時は僕、ちょっと『男』を見せるかもしれない」
「えっ?」
私を真っ直ぐに見つめるりゅーさんの眼差しはとってもキラキラとしていて……透明感があって。
「彼がアサちゃんを泣かせるような事をしてきたら、僕はいつでもアサちゃんを助けに行く。どこにいたって、すぐにアサちゃんのところまで飛んでって、僕の手で……腕で抱き締めてあげるよ」
この時ばかりはりゅーさんを……りょーくんよりも素敵でかっこいいって思った。
「…………」
「嘘の仮面を被る理由は単純。嫌われたくないからさ。
本性全開でアサちゃんゆーきさんに接したらドン引きするだろう?だから仮面を被って優しい顔を見せてる」
「仮面……優しい顔……」
本当に、今まで違和感なくりょーくんとずっと楽しく彼氏彼女の関係を続けていたのに、りゅーさんのその言葉が引き金となって私の心に嵐が吹き荒れるような感覚に陥る。
「もしかしてアサちゃん、今までにも彼と過ごしてきて本性の一面を目の当たりにした事があるんじゃないかな? 彼の怖い……本性の顔を」
「それは……」
そしてまたりゅーさんの言葉通り、私は彼のとても怖い一面を目の当たりにした経験を思い出す。
ーーー
『泣いてるって……マジか、萎えるわー』
『だーから謝んなっつってんじゃん! 余計に萎えんだよ、そーゆーのっ!!』
ーーー
あれは、初めてりょーくんと行った水族館デートの後の事だった。
りょーくんはそう言いながら私を乱暴に扱い、2度目のキスをしてきた。
情熱的なキスだったけれど、反面彼の口から出た言葉は氷のように冷たくて私は思わず泣いてしまったんだ。
あれは、彼の色んな感情が渦巻いて「いずれ私に嫌われてしまうならいっその事嫌われるような行動をとって離れてしまおう」という意図があった……みたいな事だったんだけど。心からの言葉ではなかったと……あの時はそう言っていたけれど。
(でも……)
本当に優しい人だったのなら「萎える」だなんて下品で冷たい表現使わないんじゃないかな……なんて、今はそう考えてしまっている。
(実際、「萎える」なんて言葉を聞いたのはあれ一回きりだし)
りょーくんだって当時も今も、その言葉が適切でないと理解はしているんだと思う。
「本性がぶっきらぼうで荒々しい方だから……だからこそ、友達や親戚には本性を出せるって事になる……のかな?」
(「萎える」もだけど……「雌猫」って言い放ったのも怖かったなぁ……)
想像すらしてないならそんな言葉出てこない。
あの一回きりだったからこそ、「萎える」も「雌猫」も「私に向かって言葉に出したのはあれきりだけど普段から心の中でそれをよく使ってるんじゃないか」という考えに行きついてしまった。
「僕の意見でアサちゃんの心を掻き乱して混乱させてしまったのならごめんね」
りゅーさんはそう言ってフォークを皿に置き、私の手を両手で温かくやわらかく包んでくれた。
「僕なら言葉遣いを他人によって使い分けようなんて思わんけぇ、ついアサちゃんの彼氏を悪く言うてしもうたんよ。別にアサちゃんと彼との関係を引き裂こうだとか、亀裂を入れようだとか、そういった考えはないけぇ」
「りゅーさん……」
途端に私の目から涙が滲む。
「だって、アサちゃんこんなに可愛くて良い子なんじゃもん。可愛くて良い子のアサちゃんの側には、素敵で中身がイケメンなパートナーがおってほしい。アサちゃんの側におるのは僕じゃなくてもええんよ。アサちゃんは彼と同棲したいって思えるほどラブラブなんじゃし、2人の間にはちゃんと心も体も繋がってるって分かっとる。僕じゃきっとアサちゃんの彼氏には勝てんのも……ちゃんと分かっとるんよ」
心に嵐が吹き荒れている私にとっては、りゅーさんの掌も掛けてくれる言葉も温か過ぎて
「そんな……過大評価しすぎだよぅ」
頬が熱くて別のドキドキが高鳴ってくる。
「じゃけど、彼氏にはアサちゃんに見せるのとは違う本性があるのだとしたら……その時は僕、ちょっと『男』を見せるかもしれない」
「えっ?」
私を真っ直ぐに見つめるりゅーさんの眼差しはとってもキラキラとしていて……透明感があって。
「彼がアサちゃんを泣かせるような事をしてきたら、僕はいつでもアサちゃんを助けに行く。どこにいたって、すぐにアサちゃんのところまで飛んでって、僕の手で……腕で抱き締めてあげるよ」
この時ばかりはりゅーさんを……りょーくんよりも素敵でかっこいいって思った。
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