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春は嵐
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しおりを挟む「ふぅん……昨日までの話だとめちゃくちゃラブラブって感じだったのに、アサちゃんが広島弁だした事でジェラシー剥き出しにして怒ってきたのか……なんか申し訳ない気持ちになるなぁ」
「いいのいいのっ! りゅーさんはそんな事思わなくて。
私の彼がジェラ男なだけなんだからっ!! 自分とは別の男性にちょこっと広島弁使っただけで怒るなんて最低だよ!」
次の日の土曜日。
りゅーさんは「暇だから」を理由にお昼前に来店してくれ、雨上がりブレンドをカウンターで楽しんでくれた。
そしたら夕紀さんが気を回してくれ、私に早めのランチタイムを与えて……今は珈琲店近くのイタリア料理店のカフェテラスでりゅーさんとパスタランチを食べている。
「方言ってさ、同郷の人がその場に居ないと出ないもんなんだよね。関東で暮らし始めると脳が『方言じゃなくて標準語喋ろう』って命令してくるのかも」
「そうそうっ! その気持ち私も分かるっ!! だから彼に何度も『広島弁喋って』ってリクエストされても出せなかったっていうか」
「喋れって急に言われても出ないよね」
「そう!!」
「……んで、今も周囲の目があるから何となく出せないし。今時地方の言葉を喋る人もこの辺にいっぱい居て良いんだと思うんだけど、無意識に『方言喋ったら色んな人からの視線を集めちゃうんじゃないか』って考えちゃう」
「りゅーさんの言う通りだよ! やっぱり同じ広島人だから私の気持ち分かってくれるんだね♪ 嬉しいな」
感情的に昨夜の一件をダダダッと愚痴っぽく話した私を、りゅーさんは温かな微笑みでずっと聞いていてくれて、私がりょーくんに方言を今まで出せなかった理由を冷静に分析してくれたから私の心はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「そもそも方言だってその地域の共通語だよ。コミュニティの一つだ。都会の人の笑いネタにされるものじゃない」
「あー、確かにそういう部分あるのかも。『方言を喋る私の姿はきっと可愛いんだろうな』なーんて甘い言葉言ってたけど、裏を返せば『いつもと違う私を奇異的に感じて楽しみたい』って意味だもんね」
「馬鹿にされた気持ちに多少なるよね。都会の人はそこまで思ってなくてもさ」
「うん」
「……あと、コーヒー好きにとっては淹れたばかりのホットコーヒーを冷めるまで放置するのも嫌だな。会話に集中してて飲めないって状況でもなかったんでしょ? アサちゃんは飲み飲み喋ってたんだから」
「そうだよ。コーヒーカップ持って、私の話を聞きながら眉間に皺寄せてた。それもあって余計にムカついちゃってさぁ」
「それにしてもアサちゃんの彼氏さん、『飲みゃいいんだろうが』みたいな乱暴な言葉を使うんだね。個人的にそれは嫌だなぁ」
りゅーさんはフォークにパスタを巻き付けながら、りょーくんの口から飛び出した乱暴な言葉遣いについて咎める。
「でもね、普段は優しい言葉遣いなんだよ。どっちかっていうとりゅーさんっぽいかも。私と夕紀さんにはぶっきらぼうな言葉遣いはしないんだ」
一応、私はりょーくんの彼女だからそこはちゃんとフォローしてあげようと思ってそう言ったんだけど
「『私と夕紀さんには』……って、他の人にはぶっきらぼうな言い方で喋るんだ? アサちゃんの彼氏」
りゅーさんは何故かそこが気になったみたい。
「うん、使い分けっていうのかなぁ。私と夕紀さんには優しい言葉遣いなんだけど、彼のご親戚だとか、私との共通の友達にはめちゃくちゃぶっきらぼう。私がちょっと引いちゃうレベルかも」
りょーくんと付き合ってそろそろ1年。
彼の言葉遣いについて私は全く違和感なく接してきた。
だからりゅーさんに改めてそこを突っ込まれたから私もこの1年を振り返ってみて「そう言われれば私や夕紀さんには優しい言葉遣いなのに藤井くんにはドン引きレベルで言葉遣いが荒いなぁ」くらいのイメージをたった今持ったわけなんだけど……。
「ちょっとそれ、彼の人間性に問題あるんじゃない?」
「えっ……」
りゅーさんから真面目なトーンで指摘され、私はドキリとする。
「荒々しい言葉遣いをする人間は元々好きじゃないんだけど、身近な人間関係の中で言葉遣いの使い分けをする人間はもっと嫌いだよ。
まるで、アサちゃんやゆーきさんに見せてる優しい顔が嘘みたいに感じる」
「優しい顔が……嘘……?」
そして、ドキリと同時に自分の背中が段々冷えていくのも感じていく。
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