【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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春は嵐

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「あーちゃんは、その村山って人とダーツしたりお酒飲んでみたりしたいんだ?」

 朝食をあらかた食べ終えたりょーくんは、私を上目遣いで見つめながらそんな質問を投げかける。

「個人的に村山さんと一対一で喋りたいっていうよりは、ダーツに興味はあるの。単純に。
 20歳なんだから一度もやった事ないものでも積極的に挑戦してみたいなぁって」
「……」
「私、自分がお酒強いのか弱いのかっていまいち良く理解出来てないから、村山さんと一対一で行くのは怖いの。迷惑かけちゃうかもしれないし、そもそもりょーくん抜きで夜遊びっていうの、凄く悪い気がするから」
「ふぅん」
「だから……だからね! りょーくんとの3人なら楽しく過ごせる気がするの!! りょーくんなら私がほろ酔いになった段階でちゃんとお酒ストップしてくれるし、大好きなりょーくんと一緒なら夜遊びっぽい事も少し安心っていうか」
「そっか……まぁ、あーちゃんがそこまで俺を必要としてくれるならちゃんと守るし、頃合いの良いところで引き上げてあーちゃんと安全にここまで帰ろう」

 私のプレゼンは下手くそだっていう自覚はあるものの熱意や気持ちは伝わったみたいで、次第にりょーくんの表情が和やかになっていく。

「それじゃあ……」
「うん、行こうか。ダーツバー」

 彼の表情がいつものニコニコ笑顔になったところで、私はとっても嬉しくなった。

「やったあ!! じゃあ、今日村山さんがお店に来た時、OKの返事しても良い?」
「いいよ。俺もその村山っていう人がどんな人なのか会って喋ってみたいし」

 りょーくんもりょーくんで村山さんに興味を持ってくれたみたいで余計に嬉しい。

「良かったぁ。村山さん、きっと喜ぶよ! 私も明日の夜が楽しみになってきちゃった♪」

 私はホッとして朝食をモグモグ食べ始めると、りょーくんが笑顔のままで

「その代わり、今日村山って人が来たらダーツバーの店名をしっかり聞いておいてね」

 と、まるでOKする為の条件をつけるような口ぶりで私に言ってきた。

「ダーツバーの店名?」
「そう。最寄り駅とか店名を全く知らない状態で行くよりは安心だし、結構前の話なんだけど店長から『タチの悪いダーツバーの噂』を聞いた事があってさぁ」
「タチの……悪い?」
「うん、外観も内装もごく一般的なダーツバーなんだけどさ、そこの店と特別仲の良い客だけが使える鍵付きの個室があるんだとかないんだとか」
「そんな話を……上原さんがしていたの?」

 りょーくんから「タチの悪いダーツバー」という言葉が飛び出した瞬間、私はムッとした表情を作ってしまう。

「うん、当時は俺も未成年だったしダーツバーなんて縁がないものだと思ってたから真剣に話聞いてなかったんだけど」
「なんかあやふや過ぎるなぁ、その話ぃ」

 そしてちょっとイライラもしている。

「結構前に聞いた話だから俺自体記憶もあやふやで……ごめん」

 村山さんはこの春、広島からこっちに引っ越してきたばかりの新人さんだ。
 「お気に入りのダーツバーが出来た」と私に話してくれたけど、そのダーツバーがタチの悪い店かどうかまではしっかり把握してないんじゃないか?と私は思った。

「りょーくんのその話があやふやなのがめちゃくちゃ気になるところではあるけど、上原さんってここ周辺のマンションやアパートを幾つか管理してるし、沢山の不動屋さんとよく情報交換してるみたいだもんね。本当にタチ悪い店っていうのがあるのかもね」

 顔の広い上原さんの言う内容だから、私がイラッときてしまってもりょーくんの記憶があやふやであっても無視までは出来ない。
 実際どこかにそういうお店の存在を上原さんが聞き付けた訳だから当時未成年のりょーくんにも話をしたんだろうし。


「分かった。村山さんにちゃんとお店の名前や最寄りの駅名を聞いておくね!りょーくんの返事を聞いてからすぐに村山さんに返事したいから、メールの返信がすぐ出来る状態にしておいてね。多分メール送るのは19時半過ぎになると思う」

 そうなると村山さんには閉店時間後も店の周辺で待機してもらう形になってしまうんだけど、彼や夕紀さんに事情を話せば理解を貰えるかもしれない。

「分かった。あーちゃんからメール来たら即返信するよ。俺もそれまでに怪しい店の件をもう少し詳しく聞いておくから」
「よろしくね……じゃあ、出掛ける準備しよっか」
「うん」

 私の呼び掛けにりょーくんは立ち上がり、テキパキと身なりを整えて始める。

「私も今日は仕事に大学にと忙しくするけど、1日頑張ろうっと!!」

 勿論私も気合いを入れてテキパキ準備を始めた。


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