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閉店時間前30分
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しおりを挟むその日以来、村山隆盛さんは午後19時前に毎回来店してくれた。
お店の中に入ったら、前日予約分のシングルオリジンを100g手渡して、また別の銘柄のコーヒーをお望みの抽出方法で試飲用カップに注ぐのが、私と村山隆盛さんとのルーティンになっている。
「閉店時間前って、普段からお客さん少ないでしょ? あのお客さんが、来るようになって以来、客の入りが良くなったのよねぇ」
「あっ……確かに! 必ずといっていいくらい試飲用にコーヒーを淹れるので、その香りに釣られてお客さんが入って来やすくなったのかもしれないです!」
「村山さんのイケメンっぷりに惹かれて来店してくれるお客様も居そうだもんね」
「ですね、試飲中に来て下さるお客様方の大半が女性ですし」
夕紀さんの指摘通り、時には数人のお客様をカウンターに一列に座らせてもらって試飲会状態になったりもする。
勿論、試飲だけしてもらっても構わないんだけど、私だけでなくイケメンの村山さんもコーヒーに詳しいから釣られて珈琲豆を購入して下さる方も多く、閑散としていた19時前後の売り上げが伸びていた。
「朝香ちゃんの営業力の賜物ね! 凄いじゃないっ♪」
「凄いのは夕紀さんの焙煎と村山さんですよ。私なんてまだまだ……」
私だって民間資格の勉強で珈琲の知識を持てる様になってきたけど、それでも村山さん夕紀さんには及ばない。
だけど、私の努力が売り上げに繋がり夕紀さんの美味しい珈琲をより多くの方に知ってもらえるのはとても嬉しかった。
「これなら私も焙煎に専念出来るし、安心よ♪ 今日の19時からの売り上げ、期待してるわね!」
夕紀さんはそう言ってまた焙煎室に入っていった。
「期待してほしいけど、ストレートに『期待してる』なんて言われちゃうとプレッシャーだなぁ」
焙煎室の方を見つめながら呟いていたら、ちょうど時刻が19時となり、村山さんが入店する。
「こんばんは、アサちゃん」
「こんばんは。今日もお仕事お疲れ様です村山さん」
村山さんは今日もイケメンフェイスで店の中に入り、ニコニコ顔で私の名を呼ぶ。
「予約してた豆、どうだった? マスター、 OKしてくれたかな?」
「昨日入荷したばかりの豆の焙煎ですよね♪ 勿論出来上がってますよ!
今日のお昼頃にマスターが焙煎してくれたので、飲み頃は4日後くらいがオススメです」
「これでようやく最初に買った豆が飲めるようになるよ。今夜から珈琲を飲むのが楽しみだ♪」
私は昨日村山さんからオーダーを受けていた豆を彼に手渡し、夕紀さんから提示された焙煎豆の価格をレジに打ち込む。
「でも、村山さんは一人暮らしでしょう? 毎日100g買ってくれてるけど大丈夫かな? お部屋は珈琲豆でいっぱいになっちゃいそう」
「平気だよ! 僕はコーヒーを飲むのが大好きだからね。朝飲んで、会社用にも作って持っていって、帰宅後にも飲むから。
っていうか、アサちゃんのキッチンこそ焙煎豆でいっぱいなんじゃない?」
「珈琲が大好きだからね、趣味と実益も兼ねて自分でも焙煎しちゃうし」
「本当に珈琲が大好きなんだねアサちゃんは」
「それを言うなら村山さんも珈琲大好きでしょ? 『飲み物の中で珈琲が一番好き』って昨日言ってたもの」
「酒を飲まないってわけじゃないよ。週末はお気に入りのダーツバーがあってさ、そこで飲むモヒートも好きなんだ♪」
村山さんは「就職を期に地元から出てきたばかり」と以前私に話してくれたけど、既にお気に入りの店を見つけて楽しんでいるみたいだ。
「そういえばアサちゃんってお酒飲めるの?」
「飲めるけど、あんまり強くはないかも。私の彼はお酒強いよー」
「じゃあさ、土曜日の夜一緒にダーツしようよ! 彼氏さんと3人でさぁ」
会話もいつの間にかくだけた感じになっていって、ついつい村山さんのテンションに引きづられて私までタメ口になってしまう。
村山さんはお客様だし年齢だって歳上なのに、私のタメ口を寧ろ喜んでいるようだった。
「えっ? 彼と3人で?」
村山さんは、私に彼氏がいて同棲している事も知っている。
「うん。同世代の人といっぱい喋りたいし、彼氏さんがどんな人かめちゃくちゃ興味があるから」
「ダーツかぁ~やった事がないから行ってみたい気持ちはある……かなぁ」
「土曜日の夜って言ったら明後日になっちゃうけど、是非是非彼氏さん誘ってみて。それでOKなら行こう! 勿論彼氏さんがNGならこの話は無しって事で。僕達2人で行くわけにはいかないからね」
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