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閉店時間前30分
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「岩瀬さんの好みとは、違うテイストの焙煎豆という事ですね」
「はい、上司って割と苦味のきいた重厚感あるようなコーヒーを好んで飲んでいる気がするんです。それも悪くはないのですが、軽やかな味や香りのコーヒーにも冒険してみたいなーなんて思ったんです」
(わぁ……この男性、年齢は私と変わりなさそうなのに観察眼が凄いなぁ)
確かに岩瀬さんはアフリカ地域の濃厚で重厚感あふれるコーヒーを好み、焙煎度も深煎り派だ。
岩瀬さんと何回くらいコーヒータイムを過ごしているのか分からないけれど、それをサラッと口に出来て、「重厚感」とか良い言葉のチョイスをしているのも好感を得た。
「では、今から試飲してみませんか?お客様に閉店時間までの30分程度お時間をいただく形になるのですが」
私は彼に2杯程度の試飲を勧めてみた。
2杯くらいなら30分も時間を要する事はないんだけど、せっかくならお客様の好みに合ったコーヒーをカウンセリングして見つけてあげたいと思った。
「時間はありますから大丈夫ですよ。そもそもここで30分程度ゆったりと過ごそうと考えていましたから。逆に試飲させてもらって良いんですか?タダって意味ですよね?」
「試飲ですから勿論お金はいただきません。カウンター席でお待ち下さいね。まずは当店オススメのマイルドコーヒーからお出ししてみますね」
「ありがとうございます」
カウンター席に腰掛ける男性の仕草も、今の表情も……何もかもがスマートで紳士的に感じられる。
(背は……うーん、りょーくんよりはだいぶ低いけど藤井くんよりは背が高そうだから170センチくらいかな?
体型は細身だけど、スーツは身体にピッタリフィットしていてとてもスタイリッシュに見えるなぁ。実は細マッチョなのかも?
ヘアスタイルは焦げ茶のショートマッシュで、やっぱりあの俳優さんにますます似ていてイケメンさんだなぁ……)
試飲用のカップ一杯分をドリップしている間、私は男性客をチラチラと観察しながら私の好きな俳優さんに当て嵌めてしまう。
(うーん……りょーくんと共通してる部分もあるけど、りょーくんよりもやっぱりあの俳優さんっぽい。なんだか有名人にコーヒーを提供している気分になっちゃってドキドキするなぁ)
もしこの場に夕紀さんが居たら「コーヒーに集中しなさい」と叱られてしまうかもしれない。今、焙煎に専念してもらってて良かったとも感じた。
「こちらは当店オススメのグアテマラコーヒーです。どうぞ、召し上がって下さい」
私は、夕紀さんが大切に扱っているグアテマラ産の珈琲豆をペーパードリップでゆっくりと落とし試飲用マグカップに注ぐと、カウンターに腰掛ける男性にそっと差し出した。
「試飲って、紙コップじゃなくてちゃんとコーヒーカップで出してくれるんですね! ビックリしました」
男性はそれだけでも目を丸くして喜び、カップを持ち上げて縁を鼻に近付け香りを嗅いでいる。
「場合によって……例えば、試飲会のような形で大勢のお客様に試飲してもらう時には紙コップで提供した方がこちらの負担が少ないのですが、当店のマスターはあくまで『ホットコーヒーは陶磁器に注いで楽しむ機会の多い飲み物』と捉えておりますので、なるべくコーヒーカップで試飲してもらうようにしてるんです。通常のカップよりは小さめのものを使わせていただくんですけどね」
「へぇ……小さめのカップにする理由って何かあるんですか?」
男性は私の話を真剣に聞き、興味深そうにまた質問してくれる。
「ケチりたいとか、そういう意味じゃないんですよ。お客様のお口や好みに合う銘柄やブレンドを探すのが目的の試飲で内臓に負担をかけたくないっていうのがマスターの考えなんです」
確かに時々「試飲用カップは何故小さめなのか」と質問するお客様も存在する。
私にとってこの質問はありがたいし受け答えした方がお客様の為になると信じて毎回このような応対をしていた。
試飲用カップは、夕紀さんがお客様の為を思ってお父さんの実家の工房にわざわざ特注して作ってもらっているのだから、娘の私としてもカップの小ささにケチを勝手につけられるのは悲しかったりするんだ。
「内臓?」
「コーヒーにはカフェインが含まれていますし、利尿作用もありますから」
「ああ、確かに」
「また、お腹いっぱいになって『結局どれが良いのか分からない』となってもいけませんし」
「なるほど、優しいマスターなんですね。良い店だなぁ」
男性はニコニコ顔でコーヒーを一口飲み、ゆっくりと息をついていた。
「はい、上司って割と苦味のきいた重厚感あるようなコーヒーを好んで飲んでいる気がするんです。それも悪くはないのですが、軽やかな味や香りのコーヒーにも冒険してみたいなーなんて思ったんです」
(わぁ……この男性、年齢は私と変わりなさそうなのに観察眼が凄いなぁ)
確かに岩瀬さんはアフリカ地域の濃厚で重厚感あふれるコーヒーを好み、焙煎度も深煎り派だ。
岩瀬さんと何回くらいコーヒータイムを過ごしているのか分からないけれど、それをサラッと口に出来て、「重厚感」とか良い言葉のチョイスをしているのも好感を得た。
「では、今から試飲してみませんか?お客様に閉店時間までの30分程度お時間をいただく形になるのですが」
私は彼に2杯程度の試飲を勧めてみた。
2杯くらいなら30分も時間を要する事はないんだけど、せっかくならお客様の好みに合ったコーヒーをカウンセリングして見つけてあげたいと思った。
「時間はありますから大丈夫ですよ。そもそもここで30分程度ゆったりと過ごそうと考えていましたから。逆に試飲させてもらって良いんですか?タダって意味ですよね?」
「試飲ですから勿論お金はいただきません。カウンター席でお待ち下さいね。まずは当店オススメのマイルドコーヒーからお出ししてみますね」
「ありがとうございます」
カウンター席に腰掛ける男性の仕草も、今の表情も……何もかもがスマートで紳士的に感じられる。
(背は……うーん、りょーくんよりはだいぶ低いけど藤井くんよりは背が高そうだから170センチくらいかな?
体型は細身だけど、スーツは身体にピッタリフィットしていてとてもスタイリッシュに見えるなぁ。実は細マッチョなのかも?
ヘアスタイルは焦げ茶のショートマッシュで、やっぱりあの俳優さんにますます似ていてイケメンさんだなぁ……)
試飲用のカップ一杯分をドリップしている間、私は男性客をチラチラと観察しながら私の好きな俳優さんに当て嵌めてしまう。
(うーん……りょーくんと共通してる部分もあるけど、りょーくんよりもやっぱりあの俳優さんっぽい。なんだか有名人にコーヒーを提供している気分になっちゃってドキドキするなぁ)
もしこの場に夕紀さんが居たら「コーヒーに集中しなさい」と叱られてしまうかもしれない。今、焙煎に専念してもらってて良かったとも感じた。
「こちらは当店オススメのグアテマラコーヒーです。どうぞ、召し上がって下さい」
私は、夕紀さんが大切に扱っているグアテマラ産の珈琲豆をペーパードリップでゆっくりと落とし試飲用マグカップに注ぐと、カウンターに腰掛ける男性にそっと差し出した。
「試飲って、紙コップじゃなくてちゃんとコーヒーカップで出してくれるんですね! ビックリしました」
男性はそれだけでも目を丸くして喜び、カップを持ち上げて縁を鼻に近付け香りを嗅いでいる。
「場合によって……例えば、試飲会のような形で大勢のお客様に試飲してもらう時には紙コップで提供した方がこちらの負担が少ないのですが、当店のマスターはあくまで『ホットコーヒーは陶磁器に注いで楽しむ機会の多い飲み物』と捉えておりますので、なるべくコーヒーカップで試飲してもらうようにしてるんです。通常のカップよりは小さめのものを使わせていただくんですけどね」
「へぇ……小さめのカップにする理由って何かあるんですか?」
男性は私の話を真剣に聞き、興味深そうにまた質問してくれる。
「ケチりたいとか、そういう意味じゃないんですよ。お客様のお口や好みに合う銘柄やブレンドを探すのが目的の試飲で内臓に負担をかけたくないっていうのがマスターの考えなんです」
確かに時々「試飲用カップは何故小さめなのか」と質問するお客様も存在する。
私にとってこの質問はありがたいし受け答えした方がお客様の為になると信じて毎回このような応対をしていた。
試飲用カップは、夕紀さんがお客様の為を思ってお父さんの実家の工房にわざわざ特注して作ってもらっているのだから、娘の私としてもカップの小ささにケチを勝手につけられるのは悲しかったりするんだ。
「内臓?」
「コーヒーにはカフェインが含まれていますし、利尿作用もありますから」
「ああ、確かに」
「また、お腹いっぱいになって『結局どれが良いのか分からない』となってもいけませんし」
「なるほど、優しいマスターなんですね。良い店だなぁ」
男性はニコニコ顔でコーヒーを一口飲み、ゆっくりと息をついていた。
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