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【番外編】弟子の成人式と新年の誓い(夕紀side)
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しおりを挟む朝香ちゃんが成人式を迎えた翌日、「11月に撮った振袖写真を一緒に見よう」という事になった。
「今はスマホでも画像を見る事が出来るけど、こうしてプリントされたものを手にしてみるとより良く感じるわね♪」
20時前の「After The Rain」店内カウンターに私は立ち
「赤い着物がとっても良く似合ってますね。あーちゃん凄く可愛いし綺麗……」
「写真とはいえ、夕紀さんとりょーくんに見つめられると照れちゃうよぉ~」
カウンター席に朝香ちゃんと亮輔くんが横並びに座っている。
「いやいや、これは見つめちゃうヤツよ! 毎日眺めても飽きないヤツ!!」
「俺も夕紀さんの意見に同感です!」
私の店に妹と恋仲になりかけた笠原亮輔くんが来て、私と一緒になってニコニコ微笑み私も彼も同じ意見になって頷き合うだなんて……数ヶ月前誰が予想しただろうか?
「っていうか、成人式当日も振袖着れば良かったのに」
「勿論、スーツも素敵に似合ってたんだろうなって予想はつくんですけど確かにこの写真見たら『もったいない』って俺も思っちゃいますね」
「着物は写真で充分だよぉ。なんか着て動いて汚したら申し訳ないって思っちゃうし、スーツも着る機会がないから新鮮で良かったなぁって感じたんだよ昨日はっ!」
「そっか……朝香ちゃん、就活しないし卒業後はそのままココで働いてくれるんだもんね。スーツを着る機会って今後そんなにあるわけじゃないんだもんね」
「俺はこれから嫌という程着るようになるけど、確かにあーちゃんにとってはスーツも振袖と同じくらい貴重なのか……」
私も亮輔くんも同じように「成人式も振袖を着なかったなんてもったいない」と口々に言い、直後に表情をシュンとさせて「そっかスーツも振袖と同じくらい貴重な服装なのか」と納得し合う……少し照れ臭いけど、嫌じゃない。
「実際、スーツ姿の女の子も結構居たんですよ。中学の同級生とその後会って話したんですけど、3割くらいはスーツだったかなぁ」
私がこの場に居てこういう気持ちになれているのは間違いなく朝香ちゃんのおかげだ。
「振袖にしろスーツにしろ、式に参加してる事自体偉いわよ朝香ちゃんは。
私も亮輔くんも行かなかったんだもん」
「式に行かなかった事は後悔してはないんですが、あーちゃんの振袖写真を見てると色んな事考えちゃいますね……」
「それは私も同じよ『行かなくても良かった』って気持ちと『もし、無理矢理時間を作ってまで行けてたら』って気持ちのせめぎ合い」
「式に行ったから偉いって事でもないんじゃないですかね……私だって両親や夕紀さんからのプッシュがなければわざわざ広島に帰ろうなんて気持ちにならなかったんですから」
朝香ちゃんは優しい。成人式に行かなかった私と亮輔くんのフォローをちゃんと入れてくれている。
「でも、やっぱり朝香ちゃんはちゃんと式に出て良かったよ。ちょっと安心した」
そして、私達に「成人式すっごく良かった」「中学の同級生と久しぶりに会えて楽しかった」とは絶対に口にしない。
「そうですかね……」
そう言って照れ臭いするだけだ。
久しぶりの広島帰省だったんだから、楽しくなかった筈がない。
だけど、あまり良い中学校生活を歩めなかった私や亮輔くんに楽しい思い出話をしちゃいけないって朝香ちゃんは心のブレーキをかけてくれているんだ。
皐月が20歳の頃はどうだったのか知る事は出来なかったんだけど、実の妹よりも妹みたいな弟子の方が大人らしい振る舞いが出来ていると思うし、そんな朝香ちゃんを私は誇らしく思える。
「朝香ちゃんも成人かぁ……」
私は色んな想いをその短い言葉に込め、手にしていたアルバムをゆっくりと閉じた。
「夕紀……さん?」
私のその意味深な態度に、朝香ちゃんと亮輔くんはほぼ同時に眉を下げて心配するような目付きをしてくれている。
「いやいや、大した意味じゃないの。朝香ちゃんも亮輔くんも成人したんだから、私ももっと大人にならなきゃいけないなー……なんて思っちゃって」
20歳の若いカップルにまた気を遣わせてしまったと私はハッとして首を左右にブンブンと振った。
「夕紀……さん、あの……こんな事言うのあまり良くないかな……なんて思うんですけど」
私のブンブンに亮輔くんは神妙な顔付きになり、私の目をジッと見つめ始める。
「えっ? 何? 亮輔くん」
彼の顔付きがこの数ヶ月見てきたものとは明らかに違っていたので私が問い返すと
「この先、夕紀さんが新しいお家を見つけたいって思ったら、いつでも相談して下さいね」
「……」
「今はまだ……ここから離れたくないって思ってしまう夕紀さんの気持ちは理解出来ます。ですからあくまで『この先』……なんですけど」
私に更に気を遣って言葉を選ぶ彼の姿が目に入って……
私は「朝香ちゃんが成人の日を迎えたから」以上に目の前の一回り歳下の子を大きく感じ、対照的に自分の心の幼さを自覚させられる。
「うん……ありがとうね。家の相談は、亮輔くんと上原さんにするよ……必ず」
私は眩しく背の高い彼を直視出来ないまま、その件に関して彼らに甘える事を決めた。
他人に甘えるのは苦手なんだけれど、私だって理解してるんだ。「他人に甘えながらも前に進む事こそが成人のあるべき姿だ」って。
皐月が天国へ旅立ってからもうすぐ5年。
……「新しい住まいを探す」という目標を立てて、一歩でも二歩でも前進してやろうという気持ちがこの瞬間沸き起こったのだった。
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