【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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【番外編】ネコの彼女

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 新しい年が明け、冬の寒さは一層厳しくなってきた。
 
「りょーくん、早く起きようよ。朝ご飯一緒に食べれなくなっちゃう」

 この冬休みはりょーくんと初めてこの部屋でクリスマスを迎えたり、真澄達とカウントダウンイベントへ出掛けたり、近所の神社へ夕紀さんと初詣に行ったり……珈琲店で朝から晩までバイトしつつも充実した日々を過ごせていた。
 それももう今日で終わり。明日からは大学の授業が始まって、週末は成人式参加の為に広島帰省が控えていて私ばかりが慌ただしくなる。

「んー……布団から出たくない」

 反面、りょーくんは「お部屋でのんびり過ごす」冬休みだったんじゃないかと私は感じる。
 資格講座が一通り終わった反動で「体を休めたい」「のんびりしたい」と言っていて、一応家庭教師のアルバイトはしているけれど受け持つ生徒数は2名で週2回 一回90分しか指導時間がない。
 それまでコンビニバイトで忙しくしていた日々とは真逆の生活をりょーくんは10日程続けている。

 だから……なのか、筋肉質で体温が私よりも高くて寒さには強そうな彼が、なんという事か羽毛布団大好き男子になってしまったんだ。

 今朝も私が先に起きて、エアコンのスイッチを入れながら朝ご飯の支度をしてギリギリまで寝かせてあげて、こうしてご飯前に呼び掛けしてるっていうのにりょーくんはふわふわモコモコの羽毛布団をバサッと頭まですっぽり覆って蓑虫みのむしスタイルになっていて、呆れちゃうんだけど内心「可愛いな」とも思ってしまっていた。

(……まぁ、こうなったのもコンビニバイト頑張りすぎていたり資格講座や試験勉強頑張りすぎていた所為だもんね。
 私はこれから夕紀さんと一緒に仕事しなくちゃいけないんだけど、眠いならこのまま蓑虫さんで居させてあげようかなぁ)

「じゃあ、私だけ先にご飯食べて出かけちゃうね。りょーくんの分はテーブルに置いておくから、お腹空いたら食べてね」

 私は蓑虫さんのふわふわとした外側をポンポンとてのひらで優しく叩きながら呼び掛けると、突然ガバッと外側のみのが開封されて

「朝ご飯1人で食べるの寂しいからやっぱり起きる!!」

 と言いながらりょーくんが跳ね起きて私の唇にチュウッとキスをしてきた。


「んふうぅん……」

 朝っぱらとは思えないくらいの、りょーくんからの熱烈ハグや濃厚キス。

 「朝ご飯を1人で食べるのは寂しい」と甘えん坊なセリフを言った彼の口はとっても攻撃的で扇情的だ。
 せっかく仕事モードになった私の脳が一気に昨夜の熱い夜に引き戻されて立つ力も抜けてしまう。

「っちゅうっ……あーちゃんおはよ♡」
「りょーくんったら……もう♡」

 パジャマ姿で黒髪はあちらこちらへと寝癖がついているりょーくんの朝の挨拶につい返答出来ず、口を尖らせて彼を見つめると

「えへ♡」

 私の今の状態を彼は察したみたいで意地悪な笑みを浮かべていた。

(んもうっ!! りょーくんってば意地悪っ!! こんなハグやキスされちゃったら仕事する気持ちが削がれちゃうし、りょーくんも私のソレを分かっててやっちゃうんだからっ)

 お付き合いも9ヶ月目に入り、まして一緒に暮らしちゃってるんだから、互いの気持ちや頭の中が丸見え状態になってしまっているのは嬉しいと感じつつもやっぱり恥ずかしかった。



 
「「いただきます」」

 エアコンを22度に設定したリビングはほんわかと暖かく、朝の光も相まって心地良い朝食時間だ。2人同時に手と声を合わせ、トーストやスクランブルエッグに舌鼓をを打つ。

「そういえばさ、最近アレ着てないよね」

 そんな食事の最中、思い出したようにりょーくんが私にいきなり私を指差しながらそう言ってきた。

「アレって何?」

 りょーくんは普段から私に話しかける時にアレとかソレとか指示語で言うものだから、毎回私が聞き返す羽目になっていた。

「引っ越す前によく着てた、黒ネコの可愛い部屋着の事だよ。冬に入った途端に全然来てくれなくなったよね?」
「部屋着って……ああ、梅雨前に買ってた黒ネコパーカーの事?」
「うん、そう。なんで着てくれないのかなーって疑問に思ってて」

 そして彼の言うが、初めて彼と喧嘩して仲直りした夜に身に付けていた黒ネコを模したパーカーやショートパンツの事だと知り、少し気が抜ける。

「だってアレ、夏用だもん」

 確かに引越しする前、アパート暮らししてた頃はは良く着ていたけど、このマンションに引っ越して以降ほとんど袖を通さなかった理由を私は簡単に返答し、サラダを口に含むと

「え? 長袖のパーカーだったのに夏用なのアレ??!」

 りょーくんはオーバーリアクションをとって驚いていた。

 
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