【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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溶けて絡めて味わって

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 大学の授業や珈琲店の仕事で疲れてヘトヘトの私だったけど、大好きなりょーくんと2人でチーズフォンデュの準備をするのは楽しかった。

「チーズは白ワインで伸ばすんだね。チーズ料理だけどワイン料理って言っちゃっても良いのかも」
「牛乳でのばしても良いけど本格的なのは白ワインらしいよ。食べ進めていく時にチーズが固まりそうなら牛乳入れても良いみたい。あーちゃん疲れてるならアルコール少なめにしておこうか?」
「ううん、せっかくのクリスマスイブの夜だし、本格的な大人のチーズフォンデュやってみたい♪」
「じゃあ、白ワインたっぷり使うね」

 笑顔で会話しながらりょーくんは白ワインを専用鍋で温め始め、私が彼の指示するタイミングで数種類のチーズを少しずつ加えていく。

「楽しいね♪」
「うん、食べる前から楽しい♪」

 普段食べる事のない料理だからこそ、特別感があって楽しさ倍増だ。

「じゃあ、あーちゃん♡ メリークリスマス♡」
「メリークリスマス♡ りょーくん♡」

 準備が全部整ったところで、グラスに白ワインを注いで2人だけのクリスマスディナーが幕を開けた。

「ワイン美味しい!!」
「本当だ! 流石りょーくんが福引きで当てただけあるね!!」
「俺が凄いんじゃなくて商店街の皆さんが凄いんだよ。商店街の酒屋って昔ながらのイメージが強かったんだけど、ワインにも詳しい人でビックリした」
「ソムリエの資格は持ってないって言ってたけど、ワインも好きみたいだよ。酒屋の……えーっと、天野さん! ご主人は日本酒焼酎専門で昔ながらの人って感じのおじさんなんだけど」
「そうなんだ! 凄いなぁ~! あの商店街って若い人も多いよね? 田上さん達もお姉さんも、キヨさんの息子さんも」
「うーん……正確には『若い人も居る』かな? 30代は夕紀さんと田上さん奥さんの3人だけっぽい。それでも周辺の商店街にしては平均年齢若い方なのかもね」
「20歳のあーちゃんもいるし♡ 若い人達だらけだよ」
「私ももうそこに含めちゃっても良いのかなぁ……まだバイトの身だし」

 りょーくんにそう言って貰えるのは嬉しいけど照れ臭い。
 夕紀さんの店の店員さん……っていうよりは、まだまだ見習いのレベルだから。

「バイトってあーちゃん言ってるけど、あーちゃんは夕紀さんの良いパートナーになってると俺は思うし、今日会った商店街の皆さん口を揃えてあーちゃんの事を褒めててさ、『朝香ちゃんと仲良くね応援してるから』なんて口々に言われたんだよ」
「えー、清さん達そんな事りょーくんに言ったの?! なんか恥ずかしいなぁ……」

 そして、商店街の皆さん達から私とりょーくんとの仲を微笑ましく見守ってくれてると知ると余計に頬が熱くなる。

「しかも1人じゃなくて顔合わせた人全員だから俺も照れ臭かったんだけど……でも、本心を言えば嬉しかった。『俺の存在を認めてくれてるんだ』って実感出来たし」
「りょーくんは素敵で爽やかな人っていうのが商店街の皆さんに認知されてるって事だね」
「あーちゃんにそう言われちゃうと照れるなぁ……」

 りょーくんは本当に照れ臭そうな表情をしながら、専用のフォークにブロッコリーを突き刺してチーズを絡め口に運んだ。

「ふふ♡」

 りょーくんは私よりも前からこの土地で一人暮らしをしているんだけど、駅前の『フラワーショップ田上』くらいしか商店街の店を利用していなかったそうだ。
 家庭環境が複雑だったらしい彼が今日の数時間の内に「存在を認めてくれてる」と実感を持ったという事はとても大きな出来事であり発見だったんだと思う。

「ウインナーも美味しいよ。あーちゃん食べてみて」
「うん♪ りょーくんが頑張ってカットしたもん! いっぱい食べたい♪」

 だからこそ、今日のりょーくんはとても輝いて見えるしいつもより素敵に感じられた。

「どう? 美味しい?」
「うん♡ 美味しい♡」
「チーズフォンデュってこんなに美味しいんだね。食材もワインも美味しいからこそなんだろうけど」
 
 りょーくんはそう言いながらパンを一切れフォークに刺してチーズを絡め始めたから

「そうだねぇ♪ 時々やろうね、チーズフォンデュ。オイルフォンデュも美味しそうだけど♪」
「オイルフォンデュかぁ~。それも良いね♪」
「ネットでレシピ検索してみなくちゃだね♪」

  私もりょーくんに続いてパンをチーズフォンデュ鍋の中にディップしたんだけど……

「あっ!」
「あ!! いけない! パンを中に落としちゃった!」

 フォークを持ち上げる時、うっかりパンを鍋の中に落としてしまった。
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