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溶けて絡めて味わって
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「キヨさんに『包丁やキッチン鋏使えないからチーズフォンデュ用にパンをカットして下さい』って言ったらさ、ニコニコ顔でカットしてくれたんだ。凄く有難かったし嬉しかった」
「じゃあ、あのブロッコリーは初恵さんがカットして渡してくれたんだね!それなら時々してもらうから納得だよ~
それも清さんが初恵さんに頼んでくれたの?」
私達は再びキッチンに戻り、1番気になっていたまな板の上のブロッコリーを指差しながらりょーくんに訊くと
「流石にそれは俺が直接初恵さんに頼んだよ。ブロッコリー以外の野菜も色々あったから」
とりょーくんは恥ずかしそうに答え、ブロッコリーをボウルに移して収納扉を開いた。
「りょーくん……!」
その扉の裏側には包丁が収納されていて、このマンションに引っ越して3ヶ月りょーくんはその扉に一切触れていなかった。
「キヨさんも初恵さんも快く一口大にカットして俺に手渡してくれたんだけどさ……なんか『刃物触ったらヤバい事しちゃいそう』とかいう自分自身が情けなく感じちゃった」
なのにりょーくんは躊躇いもなくそこから三徳包丁を一本取り出してまな板の上に置き、私の顔をジッと見つめてくる。
「情けなくはないよ。刃物使わないようにしてるのはりょーくんの精神的なものが原因だし、今はもう包丁と鋏をりょーくんの見えない場所に隠さなくても良くなってるんだからりょーくん凄く頑張ってると思う」
「本当は今日、あーちゃんが帰ったらすぐに電車乗ってどこかへ外食しようと思ってたんだ。でも福引きでチーズフォンデュセットが当たって『あーちゃんにチーズフォンデュご馳走出来るかも』『あーちゃんと初めてのクリスマスをこの部屋でのんびり過ごすのも悪くないかも』って嬉しくなった……でも俺、こんな簡単な食材すら切れないし」
「大丈夫だよそんなの! りょーくんは包丁持てない事以上に素敵でかっこよくて、とってもとっても優しいんだもん!」
私も彼を見つめ返しながら言ったんだけど、りょーくんはふるふると首を左右に振る。
「もう20歳なんだし、俺ももっと成長しなきゃって思うんだ。
だから……俺、今からこのウインナーを半分に切っていくから、あーちゃん見守ってくれる?」
「えっ?」
私の言葉に首を振り「自分はやっぱり情けない」と嘆くのではなく、りょーくんは前向きな行動を取ろうとしたので私は目を見開かせる。
「ウインナーを切るだなんて小学生レベルだと思う……でも、少しずつでも包丁や鋏を正しい事に使っていきたいとも思ってるから」
「りょーくん……」
「だからあーちゃん……ちょっとそこで、俺の事を見てて」
りょーくんはそう言ってまな板の前に向き直り、包丁でウインナーを2等分し始めた。
りょーくんは元々器用だし、料理初心者がやるようなケアレスミスもなく順調にカット出来ていたんだけど、それでもりょーくんの表情は真剣だったし、私も「りょーくん頑張れ」って心の中で応援する。
「……出来た」
「りょーくんすごい!! ちゃんと上手にウインナー切れてるよ! しかも沢山!!」
「沢山ってあーちゃん大袈裟だよ。たった10本だし、半分に切っただけだしあーちゃんみたいに手際良くないし」
「それでも偉いよりょーくんは! かっこいいし素敵♡」
「褒め上手だなぁあーちゃんは」
オーバーではなく、素直な気持ちから出た言葉だし、実際包丁を頑張って使えたりょーくんはかっこよくて素敵だと私は思っている。
「じゃあ、食材茹でたりチーズフォンデュの準備やらないと」
「私も手伝う!」
「あーちゃん疲れてヘトヘトじゃない?」
「平気♪ 頑張ってるりょーくんに負けてられないもん!」
実際りょーくんの姿を見ていたら元気で前向きな気分になれたし、私はそう言い残して鞄やコートを自分の部屋へ置きに行った。
「じゃあ、あのブロッコリーは初恵さんがカットして渡してくれたんだね!それなら時々してもらうから納得だよ~
それも清さんが初恵さんに頼んでくれたの?」
私達は再びキッチンに戻り、1番気になっていたまな板の上のブロッコリーを指差しながらりょーくんに訊くと
「流石にそれは俺が直接初恵さんに頼んだよ。ブロッコリー以外の野菜も色々あったから」
とりょーくんは恥ずかしそうに答え、ブロッコリーをボウルに移して収納扉を開いた。
「りょーくん……!」
その扉の裏側には包丁が収納されていて、このマンションに引っ越して3ヶ月りょーくんはその扉に一切触れていなかった。
「キヨさんも初恵さんも快く一口大にカットして俺に手渡してくれたんだけどさ……なんか『刃物触ったらヤバい事しちゃいそう』とかいう自分自身が情けなく感じちゃった」
なのにりょーくんは躊躇いもなくそこから三徳包丁を一本取り出してまな板の上に置き、私の顔をジッと見つめてくる。
「情けなくはないよ。刃物使わないようにしてるのはりょーくんの精神的なものが原因だし、今はもう包丁と鋏をりょーくんの見えない場所に隠さなくても良くなってるんだからりょーくん凄く頑張ってると思う」
「本当は今日、あーちゃんが帰ったらすぐに電車乗ってどこかへ外食しようと思ってたんだ。でも福引きでチーズフォンデュセットが当たって『あーちゃんにチーズフォンデュご馳走出来るかも』『あーちゃんと初めてのクリスマスをこの部屋でのんびり過ごすのも悪くないかも』って嬉しくなった……でも俺、こんな簡単な食材すら切れないし」
「大丈夫だよそんなの! りょーくんは包丁持てない事以上に素敵でかっこよくて、とってもとっても優しいんだもん!」
私も彼を見つめ返しながら言ったんだけど、りょーくんはふるふると首を左右に振る。
「もう20歳なんだし、俺ももっと成長しなきゃって思うんだ。
だから……俺、今からこのウインナーを半分に切っていくから、あーちゃん見守ってくれる?」
「えっ?」
私の言葉に首を振り「自分はやっぱり情けない」と嘆くのではなく、りょーくんは前向きな行動を取ろうとしたので私は目を見開かせる。
「ウインナーを切るだなんて小学生レベルだと思う……でも、少しずつでも包丁や鋏を正しい事に使っていきたいとも思ってるから」
「りょーくん……」
「だからあーちゃん……ちょっとそこで、俺の事を見てて」
りょーくんはそう言ってまな板の前に向き直り、包丁でウインナーを2等分し始めた。
りょーくんは元々器用だし、料理初心者がやるようなケアレスミスもなく順調にカット出来ていたんだけど、それでもりょーくんの表情は真剣だったし、私も「りょーくん頑張れ」って心の中で応援する。
「……出来た」
「りょーくんすごい!! ちゃんと上手にウインナー切れてるよ! しかも沢山!!」
「沢山ってあーちゃん大袈裟だよ。たった10本だし、半分に切っただけだしあーちゃんみたいに手際良くないし」
「それでも偉いよりょーくんは! かっこいいし素敵♡」
「褒め上手だなぁあーちゃんは」
オーバーではなく、素直な気持ちから出た言葉だし、実際包丁を頑張って使えたりょーくんはかっこよくて素敵だと私は思っている。
「じゃあ、食材茹でたりチーズフォンデュの準備やらないと」
「私も手伝う!」
「あーちゃん疲れてヘトヘトじゃない?」
「平気♪ 頑張ってるりょーくんに負けてられないもん!」
実際りょーくんの姿を見ていたら元気で前向きな気分になれたし、私はそう言い残して鞄やコートを自分の部屋へ置きに行った。
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