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落ち葉降る
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しおりを挟む2人でテクテク大通りをあてもなく歩いていたら、空がすっかりオレンジ色になっている事に気付く。
「ね、りょーくん……今から紅葉スポットへ行くんだよね?」
私は彼を見上げながら訊くと、彼はふるふると首を左右に振って
「まだ顔や耳が赤くてエロ可愛いあーちゃんを今から電車に乗せられないよ。危険過ぎる」
と、予定していた筈の電車移動を取りやめた。
微笑み顔ではあるし私に向ける言葉はとても優しいんだけど言葉一つ一つに重みがある。
「それは……確かに」
今、お尻はコートですっぽり覆われたけど、出来ればこれ以上遠く離れた場所には移動したくない。
電車の移動中はりょーくんがいつも以上に私を守ってくれるんだろうなって思うけど、今日はあまり無理な移動をしない方がお互いの為にも良いような気がする。
「俺が映画館の中であんな事したのが悪いんだけど」
「ううんっ!! 私の顔も耳も赤いままなのが悪いのっ!! しっかりしてなかったのも良くないしっ!」
私はりょーくん以上にブンブン首を左右に振って「自分の方が悪い」と主張したら、りょーくんは可笑しそうにクスクス笑った。
「お詫びといったらなんだけど、あーちゃんにちょっとしたもの見せてあげるよ」
「ちょっとしたものって、何?」
「もう、このすぐ近くのところだよ」
りょーくんは笑顔でそう私に提案すると、私の腕を自分の腕に絡めるよう指示する。
(ちょっとしたものってなんだろう?)
ここから離れて居ないとはいえ、何処へ連れて行ってくれるのかワクワクしながら私は自分の腕を彼に絡め、また一緒に歩き始めた。
「わあ……すごい………!!」
少し歩いて角を曲がると、青いLEDライトで飾られたイルミネーションの木々が立ち並んでいるのが目に入る。
「ここの通り、イルミネーションが有名なんだよ。しかも点灯は夕方からで、真っ暗な空で見るよりも今日みたいな夕焼け空の方が綺麗に映えるんだ」
「本当だ……オレンジとブルーのコントラストっていうのかな? すっごく素敵!」
「少しこのまま歩いてみようか」
「うん!」
腕組みから恋人繋ぎに手を組み替えて、寒色の小さな光がキラキラと輝くのを歩きながらりょーくんと観た。
「綺麗だね……」
「うん、綺麗……」
外の空気は冷たくて、ありきたりな感想を漏らす度に口から白い息がふわりと浮かぶ。
「ねっ♪」
「うんっ♪」
それだけで物凄く幸せな気分に包まれた。
「あーちゃんと付き合って……この季節まで一緒に居られたら2人でイルミネーション観たいっていうのがちょっとした夢だったんだ」
ほわほわとした気分になる中、隣に立つりょーくんがそんな事を言い出す。
「えっ?」
「実はずっと不安だったんだ。今までちゃんとしたお付き合いが出来てなかった所為もあったんだけど、俺って3ヶ月以上同じ人と一緒に居なかったから」
「りょーくん……」
その時、上原さんから「歴代の女の子達から誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントももらっていない」という内容の話を聞かされた事を思い出す。
「あーちゃんは良い子だし一緒に居て幸せな気持ちになれるし、長く付き合っていけるって確信出来てはいても何が起きるかは分からないから。
あーちゃんのお誕生日にリングをプレゼント出来てもやっぱり不安な瞬間もあったりして」
「……」
「秋になったら映画観に行ったり紅葉観に行ったりしようって、冬になったらクリスマスっぽい事しようって、常に目標立てながらあーちゃんとの毎日を過ごしてて」
りょーくんがそう話しながら私の手をキュッと強く握ってきたから、私の心もキュッと締め付けられる。
「ごめんねりょーくん、私が電車乗れないような状態になっちゃって。りょーくん、紅葉観に行く計画ちゃんと立てていたのに」
私の謝りにりょーくんは首を振って「謝らないで」とばかり眉を下げる。
「いいんだよあーちゃん。赤いモミジの紅葉かこのブルーのイルミネーションか、観に行くのをどっちにしようか迷っていて、ここも候補の内ではあったからね」
眉を下げたりょーくんの言葉はとても温かく優しい。
「そうだったの?」
「どっちか迷ったけど、この時期の夕方にこれが観られて本当に良かったって思っているよ。それに『あーちゃんと共有出来るなら何でも楽しい』って気付けたし、このイルミネーション観たらもっと凄いイルミネーションもあーちゃんとこれからもっともっと観たくなっちゃった」
そう言葉にするりょーくんの瞳は、一層キラキラと美しく輝いていて
「あのねあーちゃん、冬の間はいろんな場所でイルミネーションしてるんだよ。大きなクリスマスツリーもあるし」
そこには不安が一切見られない、希望に満ち溢れた彼の姿があって一層嬉しくなった。
「そうなんだぁ~♪ 行ってみたいなぁ。広島もイルミネーションやってるところがあるんだけど、家から遠くて車に乗ってサーッて通り過ぎて観るだけしかしてないからそういうのいっぱい観たい♪」
「そうだね、クリスマスシーズンはこれからだからいっぱい観に行こうねあーちゃん」
「うん!」
大きな通りをゆっくり時間をかけて歩いて往復したら空の色が藍色に変化していた。
「ブーツでしばらく歩いたけど、あーちゃんは足痛くなってない?」
りょーくんは腕時計で時間を確認し、私を気遣う声を掛けてくれる。
「疲れたけどまだ足は痛くなってないよ」
多少の疲れはあるけど、イルミネーションもりょーくんも……キラキラしているものをずーっと沢山観れた私の気分はとても心地良い。
「じゃあ元気なうちにご飯食べに行こうか! 予約してる店がこの近くだから」
「うん!」
最高の気分のまま、りょーくんオススメの美味しいものを今から食べられるなんて今日は最高のデートだと思う。
ちょうどお腹も空いてきたところだし、りょーくんと楽しくディナーする期待感がより高まった。
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