【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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落ち葉降る

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 ランチでお腹いっぱいになったらいよいよ映画の上映時間。
 私が選んだのは正統派な純愛映画で所謂「胸キュン映画」ってヤツだ。ずっと前から観てみたかった映画今日で公開が終わってしまう。だからギリギリで観に来れて本当に良かったし、今からどんな胸キュンが展開されるのかと楽しみでたまらない。

「あーちゃんポップコーン要る?」
「コーラのLだけで良い!」

 りょーくんの呼び掛けに私はハッキリ伝えた。
 正直さっきのランチでお腹いっぱいだし、こういうのは飲み物だけにして映画の内容に集中したい。

「分かった。じゃあ、Lサイズのコーラ2つ買ってくるね」
「うん、お願いしますっ!」

 私はりょーくんにコーラ代を渡して視線を映画パンフレットへと向けた。

(すっごくワクワクするなぁ……しかも大好きなりょーくんと純愛映画観るなんて、子どもの頃に思い描居ていた夢そのものだよぉ)

 ワクワクが止まらなすぎてちょっと興奮してる私。

「あーちゃんお待たせ。席行こうか」
「うんっ!」

 Lサイズのコーラ2つをりょーくんに持たせて指定席に座ると、公開ラスト日だからか私達の列はまばらで左右共に3席以上空いている。

「空いてるからリラックスして観れそうだね」

 周囲を見渡して笑顔をこちらに向けるりょーくんに

「うんっ♪ まるでソファでりょーくんと2人きりで映画観れちゃう気分♪」

 と、ややオーバーに言い返す。

「あーちゃんすっごく嬉しそう」
「嬉しいよもちろんっ!」
 
 私が嬉しいだけでなく、りょーくんも同じく嬉しそうな表情になっている。
 映画のタイトルやあらすじを彼に伝えた時はそれ程興味湧いてないみたいな風だったけど、彼もやっぱり楽しみでいてくれてるみたいだ。

「隣、座ってきそうにないからコートは俺の隣に置いておくよ」
「ありがとう。誰か座ってきたら私の膝に掛けちゃって良いから」
「了解」

 本編が始まりそうなタイミングで彼と短い会話を交わし、コートを手渡した直後から私はストーリーに集中する。


 序盤からグイグイ引き込まれる展開で私の目線は真正面に釘付けだ。でもやっぱり、今日は2人で観に来てるんだから……と、りょーくんのリアクションも気にした。

 チラッとりょーくんの横顔を見ると、素敵な彼の横顔が視界に入りすぐに私と目を合わせて微笑んでくれる。

(静かに映画を観るりょーくんも素敵だなぁ)

 そんな彼のイケメンフェイスや微笑みにドキッとし、「りょーくんも映画を楽しんでるみたいで良かった」とホッとしてまたスクリーンに集中した。



(それにしても映画観賞って喉が渇くなぁ……)

 物語中盤で私のコーラは氷のみとなり、ストローを吸ってもスコスコ音を立てる状態となってしまった。

(ふうぅ……)

 私は空になったコーラを床に置き、脚は膝に組み、肘掛けを利用して頬杖をつく。
 つまり、りょーくんと並んでソファに座ってドラマを観る時のスタイルになってしまっていた。
 本当に……無意識に。


 
 ストーリーでは、両片思いの主人公と男性の指先が触れ合っている。
 そのタイミングで、私の脚の付け根を指先でトントンとノックされる感触がした。

「!!」

 スカートに視線を落とすとりょーくんの手がその中にスッポリと入り込んでいたら、ビックリした私は組んでいた脚をすぐに元へ戻した。

(いっ……今っ! りょーくんが付けた「おまじない」を指でタップしたよね?)

 それからすぐに彼の顔へと振り向くと、彼は目を細めて口角を上げていて……

 私の隙が一瞬出来たのを狙って彼の手が私の肩をクッと掴んで

「ちょっ! りょー……っ、ふむっ!!」

 私の声が漏れないようにキスで口を塞ぐのも彼は忘れない。

「っ」
「……んっ」

 突然やってきたりょーくんからのキスに戸惑っていた私も、その心地良さに負けちゃって全身の力がフニャリと抜ける。

(唇が触れてるだけなのに気持ちいい……)

「ん♪」

 私の反応に彼は嬉しくなったのか、もう一方の手がまた私の指に絡んできて恋人繋ぎをする。

(もしかして映画そっちのけで今からもっとエッチな事されちゃうのかな……)

 映画の内容は勿論気になるんだけど、スクリーンの光が少しだけ反射してるりょーくんの目付きや、唇や指の温もりにドキドキしてしまっている。
 ドキドキっていうか……ムラムラ、かな?

「俺とこうするのもいいけど、やっぱり映画に集中しなくちゃね♡」

 けれどもりょーくんはキスを解くなり私の顎に軽く触れてスクリーンへと向かせ映画の続きを観るよう促した。

「でも……」

 暗がりでしかも効果的な映画音楽が流れる中キスされて「おまじない」の部分をタップしてきたり熱い恋人繋ぎしてきたり……それからそれからこんなにセクシーで妖しげな目線まで彼は送ってきてるのに。
 それなのに「エッチな続き」はしないで「映画の続き」を観ろだなんて私のたかぶる気持ちはどうしたら良いんだろう?と自問自答する。

「ね、あーちゃん♡俺もちゃんと映画を楽しみたいんだ♪初めて女性と観に行く初体験でもあるんだから」
「は……つぅ?」

 りょーくんは目を細めて微笑み顔を作りながら私にそんな事を言ってきたから思わず私の口から変な声が漏れてしまった。

「うん」

 両手で口を覆い隠した私を確認したりょーくんは優しく頷き、また静かにスクリーンの方を向く。

(そっか……映画デートって、りょーくんにとっても初体験だったんだ……)

 私も彼と同じように正面へと向き直り、「初体験」の言葉を脳内で何度も繰り返し胸をキュンとさせる。

(りょーくんにも私と同じ初体験があるのって嬉しいな……)

 スカートの中に手を突っ込まれて「おまじない」の部分を触られた時にはエッチな行為の事ばかりが頭の中を埋め尽くしちゃったけど、なんだかんだいってちゃんとりょーくんと健全な映画鑑賞が出来ているしりょーくんだって元からそれを楽しみにしてくれていたんだというのが分かって嬉しかった。




 映画が終わり照明が明るくなったところでりょーくんが

「いくら俺しか居ないからって、無防備に『おまじない』を曝け出しちゃダメだよ」

 と優しくかつ妖しげな目付きで私を叱る。

「えっ? 私、あの時無防備にしてた?」

 そういえばコーラを飲み切ってスコスコ音を立てていた時自分の脚がどうなっていたかの記憶が全くない。

「めちゃくちゃしてた」
「ごめん……」
「まぁ、俺しか見てなかったし俺的にはラッキーだったから良いんだけどね」
「でもやっぱり外で無防備は良くないよね! 気を付ける!」

 今日はミニスカートを履いていたとはいえ、リラックスし過ぎて内股を晒すようじゃ『痴漢に気をつけてます』なんて言えない。
 りょーくんだったから良かったようなものの、これが全くの他人にされていたらと思うとゾッとする。

「じゃあ、移動しよっか」

 りょーくんに手を差し伸べられ私も一緒に立ち上がった時

「おまじない、しててくれてありがとう。ちゃんと緊張感持っておかなきゃって気持ちになれたから」

 りょーくんにそう御礼を言ったら

「俺も我慢出来なくなってごめんね、触るとかキスとか」

 りょーくんは照れ臭そうにそう呟き、その返答の仕方に私の方が余計に顔と耳を熱くする。

「ん……」
「でも、暗いところでのキス、ちょっと気持ち良かったかも」
「うん」
「周りの目もあるからあんまりしないようにするけど♡」
「うん……♡」

 映画館を後にしてしばらく歩いていても、お互いの顔の熱さがなかなか冷めない。
 私もりょーくんも健全な映画鑑賞をする気でいたし取り敢えずそれも成功した筈なのにドキドキが全然おさまらなかった。

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