【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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落ち葉降る

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 彼のデートプラン通り、午前11時前にマンションを出て電車に乗り出発。


「ねぇりょーくん、変じゃないかな?私」
「全然変じゃないよ♡ 可愛い♡」
「……やっぱり、このコーディネートにはロングブーツの方が正しいんじゃないかな?」
「ショートブーツもすっごく良いと思うよ♪」
「脚太く見えない?」
「全然っ! すっごく綺麗な脚してるから自信持っていいんだよあーちゃん」


 日曜日のこの時間帯は、私達みたいなデート目的のカップルが同じ車内に数組居て、私はどうしてもカップルの女の子と私とを見比べてしまう。

 彼に問う「変じゃないかな?」は、自分のファッションに自信が無い所為もあるんだけど、りょーくんが素敵でかっこよすぎる所為も含まれている。
 金髪のりょーくんもかっこよかったけど、黒髪のりょーくんは今まで以上にかっこよくて素敵で爽やかさを身に纏っている感じ。
 いくら私が可愛い格好してても彼に可愛らしくヘアアレンジしてもらっても敵わない。だから彼に「自信持って」と言われても素直に「それなら自信持とう!」ってなれないんだ。

 私だって可愛さや大人っぽさをいっぱいいっぱい身に付けたい!!
 りょーくんにもっともっと私の外見も褒められたい!!
 彼から映画と紅葉観賞を誘われたのは自分を更に一歩成長するのに充分なきっかけなんだと私は思う事にした……現にこのミニスカート、買ったは良いものの履くきっかけが掴めなかったのだから。

「あっ、そうだ。昨日完成したクリスマスオーナメント、お店の閉店時間に合わせて俺が持って行った方が良いかな?」
「へ?」

 意識を高めている最中、りょーくんから急にそんな話題を持ちかけられて私の気が抜ける。

「ほら、あーちゃんが夕方持って行っても締め作業終わらせた後じゃないと飾り付け出来ないでしょ? 俺はお姉……じゃなかった、より背が高いから飾り付けの手伝いも同時にしてあげられるし」
「あ……確かに」

 彼の話に私の脳内がようやく追いついた。
 実は2週間前、りょーくんは夕紀さんに直接会いに行って所謂「和解」を果たしたのだった。

「実は、昨日夕紀さんにりょーくんの作った飾りの画像を全部見せたらすっごく喜んでいて『全部欲しい!天井に飾り付けもしたいからもっと立派な三脚用意する』って言ってたの。背の高いりょーくんが飾り付けやってくれるならもっともっと喜ぶんじゃないかなぁ」

 私は、昨夜の夕紀さんの表情を思い起こしながらりょーくんに伝えると

「良かったぁ~お姉……夕紀さんに喜んでもらえて」

 と、ホッとした表情で喜んでくれた。

「りょーくん、さっきからの『お姉……夕紀さん』って言い返してるのって、何?」

 彼のホッとした様子には私も心が和んだんだけど、今度はそんな小さな疑問が生まれる。

「あぁ、指摘されちゃったんだよ。『今度からは夕紀って呼びなさい』って。ついつい『お姉さん』って呼んじゃうから」
「お姉さん呼びじゃあ、ダメなのかな?」
「やっぱりダメなんじゃないかな?実の妹である先生は空の上だし」
「ふぅん……」

(多分夕紀さんはりょーくんにお姉さん呼びされたくないんじゃなくて、単に照れ臭いだけなんじゃないかなぁ……りょーくんはそう受け取ってないみたいだけど)

 りょーくんと夕紀さん。
 お互い顔を合わせられるようになって少しずつ交流を持てるようになるのは私としても嬉しいけど、まだまだ私も橋渡し役をかって出ないといけないみたいだ。

「あーちゃんが広島帰る時期に、俺が勝手に夕紀さんに会いに行って自分のケジメ付けにいったけどさ……」

 りょーくんは私を見つめながら、より静かなトーンで私に話す。

「うん……」

 正直、りょーくんのその行動にはビックリした。てっきり私が間に入って2人の対面を行うとばかり思っていたから。

「でも人としてまだまだで、俺はあーちゃんに甘えながらでないと行動出来ないんだよ。『この前のはうまくいったかもしれないけど、この先俺の態度で夕紀さんが嫌な思いしたらどうしよう』とか、『次に会う時はどんな会話すれば良いんだろう』とかウジウジしてばっかりで。
 あーちゃんはもしかしたら俺の事を『手先が器用で何でも出来て夕紀さんの事に関しても1人でこなしてしまった男』って思うかもしれない。でも、本当はこれでもめちゃくちゃ緊張しながらやってるんだよ」
「りょーくん……」

 彼の話にハッとする。
 昨日完全したクリスマスオーナメントを目にした時も、出掛け前に私のヘアアレンジをしてくれた時も私は彼を「凄い! 完璧!」と褒め過ぎてしまったかもしれない。
 実際りょーくんは手先が器用で、何でもこなせてしまうっていう印象を持っているし、さっき自分で考えてた「りょーくんと夕紀さんの橋渡し」も軽いイメージを思い浮かべていた。

「20歳になったっていうのに俺はまだ未熟でさ、今でもあーちゃんに頼りっぱなしなんだよ。多分これから先もそんな感じになっちゃうかも」

 彼が眉を下げて申し訳なさそうな表情を作るのを目にした私は、うんうんとオーバーに頷いてみせた。

「私にいっぱいいっぱい甘えていいからねっ! 私に出来る事があったら何でもりょーくんの役に立ちたいもの。
 りょーくんがこれからも心地良く生活出来るように、日常の事でも夕紀さんの事でもちゃんとサポートするよ。だから遠慮なく私に甘えてきてね!」
「ありがとう、あーちゃん」

 頷き直後に言った私に、彼の表情がほころんで嬉しくなる。

「今日のデート中にも甘えていいよ! ランチ奢ってあげる!」
「奢るのはまだ平気だよ。まだバイト辞めたばかりで給料はまだ入ってくるんだし」
「遠慮しないで甘えてよりょーくん。りょーくんの食べたいもの食べに行こう!」
「そこは遠慮なく甘えようかなぁ」
「ふふ♪」

 電車の中でも、歩き途中でも彼とそうやって微笑み合いながらランチする場所を探し始めた。

(かっこよくて素敵なりょーくんに甘えられて、支えてあげて……。
 うん、私の出来る事は思ったより沢山ありそうだなっ!)

 りょーくんは大人っぽくてかっこよくて手が器用でなんでもこなせるイメージがあるけど、よく考えたら私と同じ20歳なんだ。
 彼の気持ちを思い遣りながら私の出来る事は沢山あるのだと感じてすぐに前向きな気持ちに自分を鼓舞する。

「ここのランチ、デザートが美味しそうだよ! りょーくん好みって感じ!」
「ほんとだ! これ食べてみたい♪」
「じゃあ決まりね♪」

 スマホ画面を彼に向けたら、彼も乗り気になってくれて嬉しい。
 小さな事かもしれないけど、そういうささやかで小さな嬉しさや喜びをこれからも彼と積み上げていこうと思った。




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