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おとぎばなしの魔法にかけられて
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しおりを挟む「ここ入るよー♪」
「えっ?」
真澄に連れられて入ったのは上品なファッションでまとめられたセレクトショップ。
真澄は店員さんに「取り置きしてもらったのを取りにきました」と言って私は試着室に入れられる。
「えっ? なに???!」
何が起きているのか分からない私に真澄は紙袋を渡して「すぐに着替えてね」と言う。
「え? いきなり着替えるの?」
紙袋を開けて私は更にビックリした。
「私……これを今から着るの……?」
着替え終わってアコーディオンカーテンを開けると、真澄とショップ店員さんが同時に明るい顔になった。
「ちょうど朝香が流行りのブーツ履いてて良かったぁ~! ニットワンピースを着た感じで他のアイテム考えようと思ったけどこのワンピースとショルダーバッグだけで大丈夫そう♪」
「お客様、凄くお似合いですよ♡」
「でも……私のキャラに合ってるのかな? このニットワンピ」
真澄から渡された服は白くてタイトなニットワンピースで、丈はミニ。しかも肩やデコルテが大胆に見えてしまっている。
子どもっぽい顔や色すら飾られていないヘアスタイルには正直合っていない。
「大丈夫大丈夫♪ じゃ、次行こう!」
それからまた真澄に手をグイグイ引っ張られた。
「次はここねー♪」
真澄にトンっと背中を押されて、自動ドアが開く。
「ここって……! 私が? 今から??」
次のお店は私が一度も立ち寄った事のないようなオシャレで洗練された内装のヘアサロンだ。
またまた驚く私を無視して真澄は私の荷物を全部回収し、ヘアサロンのスタイリストに話をしている。
「じゃ、いってらっしゃい♪」
真澄はそう言うと待合室に腰掛け、雑誌を読み始めた。
私はされるがままシャンプーをされ、担当についてくれたスタイリストさんにハサミを入れられる。
「お任せということでしたが、確か飲食店で勤務されてるんですよね?」
「はい……」
「では簡単なヘアアレンジが出来るくらいの長さに留めておきますね」
「あっ……はい」
美容院って、入ったら一方的に話しかけられるイメージがあって元々苦手だったんだけど、このスタイリストさんは余計な話をすることもなくサクサクと作業が進んでいく。
「ではメイクを始めますね」
「えっ? メイク??」
ヘアカットやセットだけでなくメイク込みなのもビックリだ。
全てが終わって鏡を当てられると……
「うそ……」
長く伸ばしっぱなしだった私の髪は綺麗に整えられ、毛先はゆるやかにふんわりと巻かれていてとても女性らしい。
いつものナチュラルメイクとは打って変わって、ヘアスタイルや服装に合わせたフェミニンな雰囲気のメイクに仕上げられていて目にはつけ睫毛まで付いている。
頭のてっぺんから足のつま先まで、全くの別人が鏡に映し出されていた。
「お似合いですよ。20歳のお誕生日おめでとうございます」
スタイリストさんはそう私に声をかけ、待合室にいた真澄を呼んだ。
「わー! すごいすごい!! すごく綺麗だよ!」
ニットワンピースの時よりも更に喜ぶ真澄に、私は初めて「これが真澄からの誕生日プレゼントだったのか」と察した。
「真澄……こんな素敵なプレゼントを、本当にありがとう」
真澄の手をとって感謝の気持ちを伝えると真澄は笑顔で首を横に振って
「驚くのはまだまだ先だよ♪ 亮輔くんの待つマンションまで帰ろう!」
私にそう言い、駅まで一緒に歩き始めた。
(驚くのはまだまだって……一体どういう事??!)
マンションに着く頃には陽はもう沈みかかっていて、夕暮れの茜色が藍色の空とをグラデーションのように色を繋いでいる。
「中でトモと亮輔くんが待ってるからね」
エントランスを抜けるなり真澄がそう言ってエレベーターの階を押す。
「でも今日はりょーくん夜まで用事があるって言ってたのに」
「そういうのはいいから。……もしもしトモ? こっちはエレベーターの中。亮輔くんの準備もオッケー? 良かった~……はいはい了解♪」
真澄は藤井くんと電話をしたみたい。
通話を切ってエレベーターを降りると私達はりょーくんと住む部屋の扉の前に立ち、私に「開けて」と促した。
ゆっくりと扉を開けると、頬にジャック・オー・ランタンやコウモリのペイントを施した藤井くんがすぐに出迎えてくれる。
「ハッピーハロウィン!! あーんどハッピーバースデー!!」
明るく声をあげる藤井くんに真澄はすごく冷静に「大荷物なんだから早く持ってよ!」と怒っている。
藤井くんは嬉しそうに真澄から私が着てきた服やショルダーバッグの入った紙袋を一気に抱えて、奥にいるりょーくんに声をかけた。
「笠原ー! プリンセスのお出ましだよー♪」
(ちょっとちょっと藤井くん! プリンセスって大袈裟っ!!)
変な表現に顔が熱くなっていると、奥から黒髪の背の高い男性が近付いて来る。
「「え………………………」」
私も黒髪の男性も全く同じタイミングで驚きの声をあげた。
「あーちゃん……すごく綺麗……」
黒髪のイケメン男性は頬と耳を紅く染めながら私の手をとってリビングまでエスコートしてくれる。
「えっ……? うそでしょ………………」
私は聞き慣れた声と、大きな掌と、両耳に嵌められている20個ものピアスのおかげで、この男性の正体を知る事が出来た。
太陽の光に反射してキラキラと輝いていた金髪は、今や真っ黒に全体をカラーリングされていて、肩まで伸ばしていたウェーブヘアがストレートのマッシュショートにカットされている。
(私の目の前で微笑むこの男性は………本当の本当にりょーくんなの?!!)
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