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おとぎばなしの魔法にかけられて
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しおりを挟む「はぁ……」
水曜日も木曜日も金曜日もいつも通り大学と珈琲店の往復で終わり、りょーくんから土日の予定の提案が何もないまま過ぎていってしまった。
夕紀さんから20歳の誕生日のエピソードを聞かされた時はとても気の毒に感じたけど、まさか自分までもがそうなってしまうなんて驚きだ。
土曜日となった今日、りょーくんの姿は朝からない。彼の部屋のベッドはシーツが整えられたままでベッドルームも私しか使っていない。
昨夜は本当に深夜2時半に帰ってきたのかさえ分からないような状況だった。
「少し早いけど、真澄との待ち合わせ場所へ行こうかな」
どうせ電車で移動するのだからと、スキニーのデニムパンツに夕紀さんからプレゼントで頂いたショートブーツを履き、これもプレゼントで頂いたベージュの秋用コートを羽織って外に出た。
コート中はいつも愛用してるシャツだけど、こうしてみると少しは大人っぽく見える気がする。
「お待たせ朝香っ! 今日はちょっと雰囲気違うね!」
待ち合わせ時刻ちょうどに真澄は私の前に現れ、私の肩を軽くポンと叩くなり嬉しい感想を言ってくれた。
「ありがとう真澄」
「すごくいい感じ!! そのコートにブーツ!!」
「お店のお客様やマスター、商店街の人達からオシャレ可愛い服を沢山プレゼントしてもらったの」
「お店の常連さんやマスターからのプレゼントだったんだね。凄く似合ってるよ♪」
真澄のオススメのお店でランチをご馳走になりながら、服装を褒めてくれた。
「ありがとう。でも私着飾るのに慣れてないから似合ってないよね?」
「そんなことないよー! めちゃくちゃ似合ってる!!」
真澄は笑顔で言い返してくれるけど、素直に喜べない。
「……」
つい表情を曇らせてしまった私の顔を真澄は覗き込んで
「じゃあランチ行こっ!! 明日は朝香のお誕生日だし、今日は私が奢るから♪」
と、明るい表情で呼び掛けてくれた。
「うん……お腹ペコペコ」
「おっけ♪ じゃーいっぱい食べよ♪ 今から行く店、デザートも格別なんだからっ♪」
「うん」
素敵な服を着ているんだし、真澄もこうして明るく誘ってくれてるんだから暗い表情ばかりしていられない。
そう思って私は気持ちを切り替えようとしたんだけど……。
「私、もっと女の子らしくなりたい」
ランチコースのティラミスを少しずつ口にしながら、私はしんみりとした雰囲気で真澄にぼやいてしまった。
真澄は「えっ?」と少し驚いていたけどすぐにニッコリと笑って
「朝香は亮輔くんの事が本当に大好きなんだね」
としみじみした感じで言う。
「……りょーくんが……本当に、大好き……?」
「この前は私もちょっとムキになっちゃって朝香に『もう少し女らしくしろ』みたいなこと言っちゃって悪かったなぁって反省したんけど、真っ直ぐで素直な朝香が心からそういう風に思ってくれるんだったら嬉しいよ。
朝香とりょーくんは外見で好き合ってるんじゃないんだろうけど、女らしい格好ってやっぱり大事だよ」
真澄もそう言ってくれているのに、美味しいものを食べているのに……また気持ちが沈んでしまう。
「うん。大人っぽくなったら、りょーくんにまた振り向いてもらえるかなって思って」
「振り向いてって……亮輔くんは朝香の事振り向きまくりなんじゃないの?」
「だって」
(真澄は知らないから……)
りょーくんが私にゾッコンだと信じてやまない真澄の言動に私の胸がズキッと痛んで
「だってりょーくん浮気してるから。たくさんの女性と……」
本当は口にも出したくはない彼の真実を目の前の親友に告げた。
「は??! なにそれ?! ありえないんだけど!!」
私の言葉に真澄は驚いていた。
「本当だよ。バイトのシフトを私に嘘ついて伝えててその間に私の知らない女性のところへ行ってるの。しかもりょーくん、バイト辞めるって言ってたし」
「バイトを辞めるのは……授業があるからじゃない?」
(そういえばバイト辞める事を真澄と相談したって言ってたっけ?辞める件はやっぱり真澄も知ってたんだな)
「……真澄はさぁ、りょーくんがバイト辞める理由を知ってるんだよね?」
せめてそれだけでも真澄から話を聞こうかなと思っていたら
「えっ? ちょっとそれも亮輔くん話してないの? 朝香に話してなさすぎじゃん!」
と少し怒ってる雰囲気を醸し出す。
「真澄だって藤井くんだって大学でりょーくんの事訊こうとしたら話はぐらかしたでしょ? 私だけ1人除け者にされてる感じがしてすごく嫌だったんだよ!」
本当はこの話題を出して真澄に怒りたくはなかったんだけど、話していたら段々嫌な気持ちになってやっぱり口に出してしまった。
「ちょっと待って朝香! 朝香ちょっと勘違いしてるとこあるかも! バイトを辞めることは私達からじゃなくて亮輔くんから朝香に伝えてもらう約束になってただけだから。
それよりも私はさっきの浮気云々のことの方が気になって仕方ないんだけど!」
真澄はすごく慌てている。
「りょーくんの浮気の事…………」
(やだ……また泣きそう………)
「兎に角さぁ、亮輔くんが浮気してると思う理由をちょっと聞かせてよ。だから朝香、涙を拭いて」
真澄は私にハンカチを貸してくれた。
私の方から「浮気」の言葉を口にした癖に、何回もそのワードが出ると悲しくなって涙が出て、真澄から借りたハンカチがすぐにビショビショになる。
「夜中にね、りょーくんの好みのタイプ女性とりょーくんがマンションの下で待ち合わせしてて、それから2人車に乗って何処かへ行くのを見たの」
ただただ涙だけをハンカチに吸い寄せながら私は月曜日の夜に見た光景を真澄に伝えると
「それっていつの話?」
真澄は「んん?!」と唸りながら私に質問返しした。
「今週の月曜日だよ。あ、でももしかしたらもっと前からなのかも……」
「えー? ちょっと待ってよそれ……」
私の話に真澄はしばし考えて……
「朝香がそれを見たのが今週だったら絶対浮気じゃないよ」
優しい口調でそう結論を出す。
「絶対? 多分じゃなくて、絶対??」
真澄の『絶対』が信じられない。
「うんっ! 私も朝香もちょうど食べ終わったところだし、次の場所へ行こ!! 連れて行きたい場所があるの!」
真澄は立ち上がって私に手を差し出す。そして会計をサッと済ませると店の外へ出た。
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