【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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おとぎばなしの魔法にかけられて

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「あーちゃん…… 起きてよ、あーちゃん」

 次の日の朝、誰かに揺り動かされて目が覚める。
 ハッとして目を開けるとそこにはりょーくんの顔があった。

「!!」

 上半身を起こしながら、りょーくんから離れるようにベッドの上で後退あとずさりする。

「どうしたのあーちゃん、いつもなら今の時間朝ごはん作ってくれてるのに。夜眠れなかった?」

 彼はまるで私を心配しているように声を掛けている。

「来ないで!!」

 私は叫んだ。

「え……?」

 私の方へ伸ばしていた彼の指先が静止する。

「私に触らないで!!」

 私は、子どもみたいに大声を張り上げて彼を拒絶した。

「どうしたの? お腹空いてないの?  もうそろそろ大学行く支度始める時間だけど、大丈夫? 外出れそう?」

 なおも私に問う彼に

「りょーくんには関係ないでしょ? ほっといてよ!!」

 泣きそうになりながらベッドから降りて自分の部屋へと急ぐ。

(何よ! 私が寝てると思って他の女性のところへ行ってた癖に!!
 昨日なんてもっと早い時間からどこか知らないところへ行ってた癖に!!)

 顔を洗えないまま、別の服に着替えて荷物を掴んで、りょーくんがリビングにいるスキに扉を開けて外へと駆け出した。




 駅のトイレで自分の顔を見るともうグシャグシャで見てられないくらいブサイクで、急いで冷水とミニタオルで拭き取ると電車に乗り込んだ。

「もうやだ、悲し過ぎるよ……なんで私の誕生日前にこんな気持ちにならなくちゃいけないんだろう?」

 先月のりょーくんのお誕生日会は幸せだった。お互い微笑み合っていっぱいエッチして凄く凄く幸せだったし、その時は1ヶ月後に迫る私の誕生日にワクワクしていた。

(こんな気持ちになるなんて、全く予想してなかった……)

 


「ちょっと!どうしたの朝香!!」
「目が真っ赤だよむらかーさん!!」

 りょーくんよりも早く大学へ到着すると真澄と藤井くんが私の顔を見るなり驚いていた。
 
「亮輔くんと何かあったの?」
「笠原まだ来てないし、アイツなんかやらかした?」
「……」

 2人から口々にそう訊かれたけど、私は何も言わずにそっぽ向いて教室へと向かう。

「また後で聞くから。ねっ?」

 真澄は私の隣に座り、ポンと私の肩を叩いて鞄から筆記用具を出している。

「……」

(何よ! 真澄達だって、私に内緒でりょーくんと何やら連絡とってるんじゃないの? りょーくんがバイトを辞めて大学が忙しくなるとかなんとか言っていたけれど、それに真澄も関わってるんでしょ? 私の知らないところで!!)

 私の心配をしているような表情を作る親友の姿に私はイライラムカムカしながら黙って授業の支度に取り掛かり、その後も無言で午前の授業をこなしていった。




 昼休憩が始まると真澄は私の手を引っ張ってカフェテリアの方へ連れて行こうとする。

「はい。とりあえず座ってよ朝香っ!」

 真澄に促されてしぶしぶ座る私。
 一応空気を読んで藤井くんりょーくんは離れたところでランチを食べるようだ。

「土曜日なんだけど、お昼に何かご馳走させてよ。一緒にランチしよっ!」
「えっ?」

 急にそんな事を言われ、私は真澄の顔を見上げた。

(え? いきなり何言ってんの?)

「それとも土曜日は何か用事ある?」

 真澄にそう訊かれたけど首を横に振った。
 
(本当ならその日はりょーくんが朝から何かを計画してくれていたのかもしれないんだけど、今の感じじゃそんなこともうしてくれてるわけがないよね……)

「真澄と一緒に過ごす」

 私がそれだけ言うと、真澄は少しホッとした様子で

「じゃあ土曜日の11時に私の近所の方まで来てもらっていい?」
「……」

 時間と駅を指定され、私はまた黙って頷いた。



 
「ねぇあーちゃん一緒にバイクで……」

 授業が終わってすぐ、りょーくんに呼びかけれたけど、一緒にバイクに乗る気持ちになれなくて真澄と電車で帰った。

 電車を降りてマンションのエントランスまで向かうとそこにはりょーくんが立って待っている。

「あっ……」

 普通に考えたら嬉しい気分になれるのに、この時ばかりは昨日や一昨日の事を思い出して涙が滲んだ。

「あのさ、俺が悪い事したから……そんなに機嫌が悪いんだよね?」

 しかも開口一番そんな事を言われて正直ムカっとくる。

「りょーくんは今夜も、明日の夜も明後日の夜も2時半くらいに帰ってくるんだよね?」

 上目遣いで彼に確認したら、彼は視線を私から逸らし「うん」とだけ返事をした。

「そっか……しばらくずっとそんな感じのシフト勤務なんだね」
「うん……そうだね」

(りょーくんの嘘つき)

 りょーくんはやっぱり私に内緒で今夜も明日も明後日も綺麗な女の人へカラダを貸しに行くって事になる。
 バイトはずっと休みにしているのに、私に嘘をついて最低だ。

 週末は私の20歳の誕生日がくるのにりょーくんからの具体的なお誘いもない。

(女の人のところへ行って忙しそうにしてるんだもん、土日は私と過ごすつもりがないんだろうな……)

 薄々覚悟してはいたけど悲しくなる。

「分かった。りょーくん頑張ってね」
「構ってあげられなくてごめんねあーちゃん」
「いいの。もう分かっている事だから。それにね、土曜日は予定が出来たの。真澄とランチ行く約束をしたから」

 土曜日は昼から真澄とランチして、夕方になったら珈琲店に顔を出そうと決めた。本当は夕紀さんからお休みを貰ってるけどりょーくんと過ごす気にはなれないしりょーくんだって私とワインを飲む約束を忘れているかもしれない。

「そっか。じゃあ土曜日の夜までは、お互いバラバラの行動だね」

 するとりょーくんの頬が弛んで笑っているように見えた。

「っ……」

 ホッとしたような顔つきで、平然とした様子で「バラバラの行動」なんて言えてしまう彼の態度に私の目から涙が滲む。

(いっその事、私に飽きたから別の複数の女性と付き合うって言ってくれればいいのに……実際言われるのもそれはそれで悲しくなるけど、そうされた方がりょーくんを切り捨てて珈琲に専念出来るからまだマシだよ!!)

「どうしたのあーちゃん! 泣いてるの?」

 ずっと我慢していた涙がとうとう堪えきれなくなって頬をかすめていった。
 りょーくんもりょーくんで心配しているみたいな顔でこちらを覗き込もうとするからそれがまた私をイラつかせて

「知らない!!  私もう仕事あるから!!」

 りょーくんの胸板を腕で強く押してその場から離れ、私は自転車に乗って珈琲店へと急いだ。
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