【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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おとぎばなしの魔法にかけられて

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 その後、夜が明けてもダブルベッドで寝る私の隣にりょーくんはやって来ず……朝8時にリビングで朝食を作っていたら彼は自分の部屋から欠伸をしながら廊下を踏みしめる足音が聞こえてきた。

(りょーくん……いつの間に帰ってたんだろう?)

「おはようりょーくん」
「ふあぁ……おはようあーちゃん……俺、寝ぼけて向こうの部屋で寝ちゃった」

 何時に帰ってきたのか謎な上に、そんな苦しい言い訳が彼の口から飛び出した。

「玄関開けてすぐだから、そのままお部屋の中に入ってベッドにバタッと倒れちゃったんだね」
「そうかも」
「まだ眠い?」
「うん……」

(深夜2時過ぎに女性とどこへ行ってたの? 結局何時に帰ってきたの?)

 本当は彼に色々質問したかったけどそんな事出来る筈もなく、ただただいつもと変わらない火曜日の朝の時間を彼と過ごす。

「ふあぁ……ねむ……」

 やはり帰宅時間はかなり遅かったようで、りょーくんの動きがいつもよりスローだし、私の朝ごはんを口にするだけで精一杯な様子でいる。



 バイクで出掛ける時、りょーくんは思い出したように口を開いて

「あのねあーちゃん。俺、もうすぐバイト辞めるんだ。その代わり大学が忙しくなるから一緒に帰れない日も多くなるし、出来れば電車通学してほしいかな……とか、思ってて」

 という衝撃発言をいきなり私にしてきた。

「え? コンビニのバイト辞めるの?なんでいきなり?」

 当然の事ながら私は目を見開いてビックリしていると

「矢野達とね……色々相談して決めたんだ」

 と、彼はボーっとした様子で大雑把に説明をする。

(は? どういう事?? バイトを辞める相談を私や上原さんじゃなくて真澄や藤井くんとしたの?? 全く意味が分からないんだけど!!)

 一瞬、真澄が以前漏らしていた就活に関する事なのかな?とも思ったんだけど

「じゃああーちゃん、行こうか」

 と、それ以降何の説明もないままりょーくんがエンジンをかけてしまう。

(えっ??! ちゃんと説明してよりょーくん!! どういう事なの一体!?)


 頭の中がクエスチョンマークだらけになってる私は2限の授業中、真澄に筆談で今朝のりょーくんについて相談してみようとしたんだけど、りょーくんの名前を書いた途端真澄から「授業に集中したいからごめんね」と返事を返されてしまった。




 昼休憩に入り、今度は藤井くんに訊こうとしたんだけど、私の姿を見るなりりょーくんからサージカルテープをひったくって口をバッテンに貼り、両手で耳を塞いでカフェテリアの場所取りに駆け出してしまった。

 もっともっと不思議だったのが、テーブル席についても無言で食事するりょーくん、真澄、藤井くんの様子だ。
 いつもならワイワイ楽しくおしゃべりしながらランチタイムを取るのに、今日ばかりはまるで様子が違う。

(なんなんだろこれ……本当に意味がわからないよ……)

 不思議な様子に私は戸惑うしかなくって……1人だけポツンと取り残された気分だ。
 とてつもない寂しさや恐怖が全身を襲い、ゾワゾワとする。





「じゃあ、また明日ねあーちゃん。今夜も俺、自分の部屋で寝落ちするかもしれないけど必ず帰ってくるから」
「うん……」

 午後の授業が終わってすぐ、今日もマンションまでバイクに乗せてもらってエントランスで彼と「バイバイ」する。

 私は頷く事しか出来ず、再びエンジンの振動させる彼の背中を見つめ……言葉の裏を探る妄想を働かせる。

(なんで既に「自分の部屋で寝落ち」って断言するの? 一緒のベッドで寝ようとしてくれないの?「必ず帰ってくる」って何? いつもバイト行く時はそんな事私に言わないのに。まるで今から私とは別のあの綺麗な女性のところへ行くみたいな……。
 りょーくんの言葉はどれも違和感だらけだよ……)






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