【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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おとぎばなしの魔法にかけられて

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「あー……ムカつくぅ」

 バイトへと気持ちを切り替えなきゃいけないっていうのに、真澄への苛立ちばかりが募る。

(身なりに気を付けろって忠告は正直ありがたいよ。自分でも分かってる部分だし……だけど『元カノが居なくなったからって気を抜いてるんじゃないか?』みたいな発言は解せないっ!! まるでりょーくんに近付く新しい女性の存在があるみたいな言い方っ!!)

 あの発言は絶対に良くないと思った。
 私だけでなくりょーくんにも失礼な物言いだから。

「こんな事ならりょーくんと一緒にマンション戻って休憩しとけば良かったっ! せっかく今日は真澄と楽しく会話しようって思ったのに、すっごく嫌な気分っ!」

 今だって電車内だというのに独り言のブツブツが止まらない。
 だってりょーくんは私を見た目じゃなくて心から好きでいてくれるし、そんな私だって外見云々よりも中身そのものの彼が大好きなんだから。

 そもそも外見ばっかり気にして服を着飾ってばかりにお金かけるなんて、人間の本質からズレていると思う。
 常識的に身なりを整えるのは重要だろうけど、大事なのは中身なんだ。お互いがお互いの中身を大好きで居るのだとしたらもうそれでカップルとして成立してるんじゃないかって私は考えている。


(それなのに真澄ときたら、『私がもっとオシャレに気を遣わなきゃりょーくんが嫌うんじゃないか』みたいな失礼な言葉を……!!
 もうっ!! なんなのよっ!! めちゃくちゃイライラするっ!!)


「……」


「……」


(でも、そんな私だって最初はりょーくんのかっこいい背格好に一目惚れしたんだっけ……)

 車窓を眺めているとイライラが取れていって次第に冷静を取り戻していく。

(私と違って大人っぽくて、背が高くてオシャレな部分にまず一目惚れして……
 遠くから彼を観察してたら、金髪ピアスの見た目に反して寡黙で授業受ける姿が熱心だって分かって……彼の色んな面が素敵に見えて……
 アパートの隣に住んでいると分かってからもなんとなく近付けなくて、見てるだけで幸せだったというか……)

 結局は片想い中彼の外見も内面も両方好きになったけど、そもそものきっかけは彼の背中が素敵だと感じた「外見」の方だった。
 りょーくんは私の珈琲の香りをきっかけに恋してくれていたと言っていたけど、そう言われてみれば私の「外見」を彼は付き合い当初からどう感じていたのか気になってしまう。

(水族館デートの直前に買ってくれたオシャレ服ってもしかして『これを着てくれなきゃ並んで歩けない』って意味を示してたとしたら……)

 そこまで考えたら、あの時にりょーくんが買ってくれたオシャレ服の事まで気になってきた。

(夏服いっぱい買ってくれたのも、ダサい私を少しでもマシにしようという配慮だったんじゃ)

 いや……「だったんじゃ」じゃなくて、絶対にそうなんだと思う。秋も段々と深まっていったらきっと彼は「あーちゃんに秋冬服を」と考えているに違いない。

 そこまで頭を働かせていたら段々と血の気が引いてきた。

(私……もしかして、結構ヤバい?
 人間は中身が大事って思っているけど、真澄の言う通り20歳になったらもっともっと色んな事に気を遣わなきゃいけないヤツ??
 りょーくんは普段から私を「可愛い」って言ってくれるけど……もし今の私のまま、もっっのすごーく落ち着いたJKファッションレベルのまま20歳を過ごす事に満足してないのだとしたら……私、りょーくんに愛想尽かされちゃうのかな??)



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