【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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私達の親友

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「矢野はもしかしたら藤井のアパートに行ったのかも」
「えっ?」

 2人で昨夜使った布団類を干していると、りょーくんがボソッと私に呟いた。

「だってまだ9時だし、外で待ち合わせするには時間が早過ぎるでしょ?」
「ああ……そういう事かぁ」

 りょーくんの言葉の意味を、リビングのウォールクロックに目を向けながら私は相槌を打った。確かに、今の早い時間から外デートするとしたら場所が限られてしまうから。

「それなら真澄に何か手土産になるもの渡しとけば良かったかなぁ。藤井くんとお部屋を過ごしやすいようにお菓子とか」

 私は友達同士でお泊まりする経験が今まで全くなかったとはいえ、「常識的にこういうシチュエーションってお菓子とかなんとかを手渡するもんなんじゃなかったっけ?」とベランダの手擦りにうなだれながら反省する。

(夕紀さんはそういう作法に詳しいからなぁ……私、全然そういう部分に疎すぎるんだよねぇ)

「ふふっ、お菓子か」

 反省する私とは反対に、りょーくんはクスクス笑いながら私の頭をポンポンする。

「何よぅ馬鹿にしてっ」
「馬鹿にしてないよ『お菓子手渡す必要無いだろ』っていう感想を素直に思っただけ」
「そう? この話を夕紀さんにしたら怒られるヤツじゃない?」
「お姉さんが怒るかはちょっと分かんないけど、あーちゃんが矢野にそういう気を回す必要は無いと思うよ」

 私が上目遣いで彼の顔を確認すると、爽やかにニコニコと微笑んでいる。

「本当に?」
「本当に。親友を大事にする事は良いと思うけど、親友だからこそテキトーにしても良い部分があるもんなんだよ」
「?」
「まぁ、手土産くらい矢野が自分でなんとかするよ。24時間営業のディスカウントストアはここの駅と大学前の駅との中間辺りにあるんだし」
「ディスカウント……ストア?」

 そして、なんでりょーくんはわざわざコンビニでもスーパーでもなく「ディスカウントストア」と言ったのか疑問に思う。
 一応朝9時じゃケーキ屋さんやスイーツショップが営業してない事くらい理解している。夕紀さんの珈琲店だって10時半オープンだから。

(だから選択肢がコンビニかスーパーしかないだろうし、コンビニバイトしてるりょーくんなら尚更コンビニを推すと思っていたのに……)

「ディスカウントストアは便利で良いんだよ~♪ お菓子だって海外の珍しい商品扱ってるし、お菓子以外も必需品が揃うから♪」

 私の疑問なんか何にも知らないとばかりにりょーくんは、ニコニコをキープしたままディスカウントストアの良い点を純粋に私にアピールしてくる。

「お菓子以外の……必需品?」
「そうそう♪ 特にラブラブカップルの必需品が豊富に取り揃えてあるっ!」
「ラブラブカップルの? 必需品??」

 私はりょーくんが一体何を伝えようとしているのか全く理解出来てなかったんだけど……。

「ほんっとうに今日は朝からポカポカ陽気だなぁ~♪ 藤井の部屋のベッドは東南向きの窓のそばに置いてあるからさ、矢野が部屋で寛ごうとした途端にかも!」

 ……と、ワザと「寝たくなる」を強調してりょーくんが私にそう言ったから

「えっ? もしかしてりょーくんの言う必需品って……!!」

 それが何なのかを私はようやく理解して……

「俺らもベッドでちょっとしよっか♡」

 りょーくんには私の理解が察せたみたいで、体の内側からピンク色のオーラを放ちながら私の手を取りベッドルームへと誘い込む。

「えっ……休憩って! その意味っ!!」
「だーって、外デートするには微妙な時間帯だしっ! さっきまで家事してあーちゃんも疲れただろっ? だからさー、あっちで休憩休憩っ♡」
「ちょっとりょーくんっ! さっきから言ってるって、絶対に普通の休憩の意味じゃないよねっ??!」

 勿論、さっきまでの会話の流れで「休憩」が「そっちの意味」だと私も理解しちゃってる。

「今度、一回ホテルでの『休憩』も体験してみようね♡ あーちゃん♡」
「ああん♡」

 ベッドに体を預けた私達は、抱き合いながらコロンと一回転させて

も結構良いもんだよ♡ ベッドもここのよりもおっきくてさ♡」
「しかもその『ホテル』って言い方も絶対にビジネスホテルとかそういうのじゃないヤツだよね?!」
「あーちゃんにいっぱい教えてあげるね♪ 寝心地の良さとか♡」
「やぁん♡」

 仰向けになったセクシーな表情のりょーくんによって私の頭の中を覗き見させられた。

「でもまずはここでたっぷりイチャイチャしてからね♡ 藤井と矢野に負けないくらいラブラブにならなくちゃ♡」

 私の視界に映るりょーくんの顔は相変わらずイケメンでうっとりするくらいで……

「勿論常識的にあーちゃんをたっぷり愛してあげる♡」

 反論も拒否も出来ないまま今朝も親友2人よりも早くベッドの上に乗り、彼の深い愛に溺れてしまったのだった。
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