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私達の親友
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真澄はその後すぐに寝落ちしてしまい、私はすぐに真澄の為に布団を敷き、りょーくんは真澄をおんぶして優しく寝かせてあげる。
それから私が真澄を起こさない程度にメイク落としシートで優しくメイクを落としてあげて……そーっと2人で部屋を後にし……。
「さてっ、食器洗うか!」
「私は焙煎豆のハンドピックするっ」
と、各々手を動かす。
「最近毎日焙煎してるね」
カウンターキッチンだから、私がテーブルで作業していても食器洗いをしているりょーくんと顔を合わせながら会話が出来る。
「うん! りょーくんと一緒に生活するようになったらコーヒーの消費も増えたし、何より焙煎豆の香りがりょーくんを癒すのなら毎日やってリビングに香りを充満させてあげたいなぁって思って」
「ふふっ、嬉しい♪」
「それにこのブルボンアマレロは来月お店で販売するから、ちょっとでも生豆に触れておきたいの」
「ブルボンアマレロって、最近ずっと焙煎してる黄色い果実の珈琲豆だっけ?」
「そうそう」
りょーくんは私と一緒に住むようになって、より珈琲豆に興味を持ってくれるようになった。だから彼から質問を受けたら豆の銘柄やちょっとした特徴も補足してあげる事にしている。
「果実が黄色だからといっても、生豆の色は他のと変わらないんだな」
「そうだねー生豆の色を決めるのはあくまで精選の違いによるものが大きいからね」
「外側の実が赤いとか黄色いとかあまり関係ないんだ?」
「そうかも。結局コーヒーにするのは中の豆だからね」
「そっか……中の豆は黄色いものの方がなんとなく甘みを感じる気がするんだけどなぁ」
「その甘みも育て方によるよ。完熟したものを手で丁寧に摘んだものを天日干ししたものは甘みが増す傾向にあるから、黄色い方が赤いのより甘いってわけでもないの」
私は分かりやすく丁寧に説明したつもりなんだけど、りょーくんは
「そっか」
と素っ気ない返事をし、そこからは食器洗いに専念し始めた。
「じゃあ、今度は私がキッチンね」
りょーくんの食器洗いと片付けが終わったところで、彼と立ち位置を交代する。
「あーちゃんが焙煎するところ、見てていい?」
「勿論♪」
「嬉しい♪ あーちゃんが焙煎する姿、かっこよくて大好きだから♡」
「やあぁん♡」
りょーくんに一切触れられてないのに、キュンとくる事を言われたらエッチな声が出てしまうし、今から作業中見つめられるかと思うと余計にドキドキする。
「矢野がさ……言ってたんだ。大学入学したばっかりの頃、俺の事をめちゃくちゃ警戒してたって」
「え?」
焙煎作業中、りょーくんがカウンターに肘をつきながら私に突然そんなエピソードを話し始める。
「俺が金髪な上に、ピアスをジャラジャラさせてるから。
あーちゃんは俺のそんな見た目を一切気にしてない感じで想いを寄せてるのが、正直理解出来なかったんだって」
「……」
「矢野ってさ、大学の日替わりランチをメニュー見る前から決めるだろ? しかもABCをランダムに」
「うん……」
「俺はてっきり、矢野は冒険心の強い人なんだってイメージ作ってたけど、実は物事の先入観が強い方で『彼氏にするなら背が高くてイケメンで歳上で社会人じゃなきゃ』って意識が強かったみたい。
まぁ、矢野もお嬢さんだからある程度金持ってる歳上男性の方がリードしやすいっていうのもあるのかもな」
「……でも、ここんとこ真澄は付き合ってきた彼にことごとく酷い目に遭っちゃってるよ。花火大会のエピソードだってそうだし」
焙烙をシャカシャカ振りながら私はりょーくんの話に対して口を挟む。
「うん……矢野の『自分の彼氏はこうじゃなきゃ』っていう意識がここのところ暴走気味だったらしいよ。中身よりも見た目ばっかり気にし過ぎてて、あまりよく知らない段階で心も体も開いちゃって。だから特に今回の件は堪えたみたい」
「そっかぁ……」
「藤井にとってはラッキーなタイミングだよな。あんな『妖怪』って呼んでた矢野が『かっこいい』って感じちゃうくらい、藤井との花火大会は楽しかったみたいだし」
「タイミングどうこう限らず藤井くんはめちゃくちゃ良い人だよ。ただ真澄への想いが強過ぎなだけで」
「そうそう、俺も藤井の誠実さは矢野にアピールしたよ。アイツは矢野を裏切るなんて絶対にしないだろうし、矢野の事しか見てないから」
「一途だもんね、藤井くん」
「……だから、今は先入観を取っ払って藤井の中身を見つめようとしてるところなんだってさ。
今日、あーちゃんがコーヒーの説明をした時『黄色い実だから赤いのより良くないんじゃないか』ってつい思ってしまったけど、いかつい金髪の俺の中身が意外にもスイーツ好きで彼女をあーちゃんなんて呼んじゃう男って分かったように……黄色い珈琲の実から作られる飲み物にあんなに甘みがあって、ミルクを入れるとより美味しいって分かったように……。
自分の思う男性像からちょっとだけ外れてる藤井の本質をいっぱい知って、もっともっと好きになりたいんだってさ」
「……そんな事、真澄はりょーくんに話してたんだ」
真澄が彼にそんな内容を話していたなんて……と驚く私に
「俺が聞いたのもついさっきだからね。あーちゃんが料理してる間に矢野が話をしてくれたんだよ。勿論ちゃんとDVDに集中したり他の話題を話す時間もあったんだけど」
「そっかぁ」
りょーくんも「ついさっき聞いた話」と、驚く私に優しくそう言ってくれたんだけど私の驚きポイントは「真澄が親友の私に真っ先に話してくれなかった事」ではなかった。
それから私が真澄を起こさない程度にメイク落としシートで優しくメイクを落としてあげて……そーっと2人で部屋を後にし……。
「さてっ、食器洗うか!」
「私は焙煎豆のハンドピックするっ」
と、各々手を動かす。
「最近毎日焙煎してるね」
カウンターキッチンだから、私がテーブルで作業していても食器洗いをしているりょーくんと顔を合わせながら会話が出来る。
「うん! りょーくんと一緒に生活するようになったらコーヒーの消費も増えたし、何より焙煎豆の香りがりょーくんを癒すのなら毎日やってリビングに香りを充満させてあげたいなぁって思って」
「ふふっ、嬉しい♪」
「それにこのブルボンアマレロは来月お店で販売するから、ちょっとでも生豆に触れておきたいの」
「ブルボンアマレロって、最近ずっと焙煎してる黄色い果実の珈琲豆だっけ?」
「そうそう」
りょーくんは私と一緒に住むようになって、より珈琲豆に興味を持ってくれるようになった。だから彼から質問を受けたら豆の銘柄やちょっとした特徴も補足してあげる事にしている。
「果実が黄色だからといっても、生豆の色は他のと変わらないんだな」
「そうだねー生豆の色を決めるのはあくまで精選の違いによるものが大きいからね」
「外側の実が赤いとか黄色いとかあまり関係ないんだ?」
「そうかも。結局コーヒーにするのは中の豆だからね」
「そっか……中の豆は黄色いものの方がなんとなく甘みを感じる気がするんだけどなぁ」
「その甘みも育て方によるよ。完熟したものを手で丁寧に摘んだものを天日干ししたものは甘みが増す傾向にあるから、黄色い方が赤いのより甘いってわけでもないの」
私は分かりやすく丁寧に説明したつもりなんだけど、りょーくんは
「そっか」
と素っ気ない返事をし、そこからは食器洗いに専念し始めた。
「じゃあ、今度は私がキッチンね」
りょーくんの食器洗いと片付けが終わったところで、彼と立ち位置を交代する。
「あーちゃんが焙煎するところ、見てていい?」
「勿論♪」
「嬉しい♪ あーちゃんが焙煎する姿、かっこよくて大好きだから♡」
「やあぁん♡」
りょーくんに一切触れられてないのに、キュンとくる事を言われたらエッチな声が出てしまうし、今から作業中見つめられるかと思うと余計にドキドキする。
「矢野がさ……言ってたんだ。大学入学したばっかりの頃、俺の事をめちゃくちゃ警戒してたって」
「え?」
焙煎作業中、りょーくんがカウンターに肘をつきながら私に突然そんなエピソードを話し始める。
「俺が金髪な上に、ピアスをジャラジャラさせてるから。
あーちゃんは俺のそんな見た目を一切気にしてない感じで想いを寄せてるのが、正直理解出来なかったんだって」
「……」
「矢野ってさ、大学の日替わりランチをメニュー見る前から決めるだろ? しかもABCをランダムに」
「うん……」
「俺はてっきり、矢野は冒険心の強い人なんだってイメージ作ってたけど、実は物事の先入観が強い方で『彼氏にするなら背が高くてイケメンで歳上で社会人じゃなきゃ』って意識が強かったみたい。
まぁ、矢野もお嬢さんだからある程度金持ってる歳上男性の方がリードしやすいっていうのもあるのかもな」
「……でも、ここんとこ真澄は付き合ってきた彼にことごとく酷い目に遭っちゃってるよ。花火大会のエピソードだってそうだし」
焙烙をシャカシャカ振りながら私はりょーくんの話に対して口を挟む。
「うん……矢野の『自分の彼氏はこうじゃなきゃ』っていう意識がここのところ暴走気味だったらしいよ。中身よりも見た目ばっかり気にし過ぎてて、あまりよく知らない段階で心も体も開いちゃって。だから特に今回の件は堪えたみたい」
「そっかぁ……」
「藤井にとってはラッキーなタイミングだよな。あんな『妖怪』って呼んでた矢野が『かっこいい』って感じちゃうくらい、藤井との花火大会は楽しかったみたいだし」
「タイミングどうこう限らず藤井くんはめちゃくちゃ良い人だよ。ただ真澄への想いが強過ぎなだけで」
「そうそう、俺も藤井の誠実さは矢野にアピールしたよ。アイツは矢野を裏切るなんて絶対にしないだろうし、矢野の事しか見てないから」
「一途だもんね、藤井くん」
「……だから、今は先入観を取っ払って藤井の中身を見つめようとしてるところなんだってさ。
今日、あーちゃんがコーヒーの説明をした時『黄色い実だから赤いのより良くないんじゃないか』ってつい思ってしまったけど、いかつい金髪の俺の中身が意外にもスイーツ好きで彼女をあーちゃんなんて呼んじゃう男って分かったように……黄色い珈琲の実から作られる飲み物にあんなに甘みがあって、ミルクを入れるとより美味しいって分かったように……。
自分の思う男性像からちょっとだけ外れてる藤井の本質をいっぱい知って、もっともっと好きになりたいんだってさ」
「……そんな事、真澄はりょーくんに話してたんだ」
真澄が彼にそんな内容を話していたなんて……と驚く私に
「俺が聞いたのもついさっきだからね。あーちゃんが料理してる間に矢野が話をしてくれたんだよ。勿論ちゃんとDVDに集中したり他の話題を話す時間もあったんだけど」
「そっかぁ」
りょーくんも「ついさっき聞いた話」と、驚く私に優しくそう言ってくれたんだけど私の驚きポイントは「真澄が親友の私に真っ先に話してくれなかった事」ではなかった。
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