【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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私達の親友

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「もうすぐ彼も帰ってくるだろうから、コーヒーの準備しよっかなっ!」

 全身が熱くなっているのを少しでもクールダウンさせようと、私はキッチンへ向かう。

「あっ、朝香の本職きた~♪」
「まだ本職じゃないよぅ」
「でももう就職先で研修してるようなもんじゃん」

 ビールやチョコレートを取りに戻ってきた真澄が茶化してきたけど、真澄もさっきの恥ずかしさ照れ臭さを落ち着かせたい気持ちがあるんだと私もなんとなく感じる。

「大学でブラックコーヒー飲んでいるから、真澄はブラックでいいよね?今日はブラジルの黄色い実の珈琲豆を使うんだ」
「黄色い実?」
「うん。コーヒーノキの果実は、熟したら赤くなるものがほとんどなんだけどこの豆の果実は黄色いの」
「黄色いから、赤いのよりも味が劣るとかあるの?」
「そんな事ないよ、甘みがあってとっても美味しいコーヒーになるんだよ。ミルク入れても美味しいし、ケーキやチョコレートにもよく合うよ」
「へぇ~見た目が違うだけなんだ」
「寧ろ黄色い実の方が甘いって評価だよ。丁寧な育て方や気候や土の良さも加味されてはいるんだろうけどね」
「ふぅん……」

 私は、3日前に焙煎した豆を挽いてペーパードリップで淹れ、ホットミルクも同時に用意した。この豆はブラックで飲むのも良いけど、個人的にはミルク入りもオススメだから。

「そういえばさぁ……朝香達って、まだ呼び名が名字なの、なんで?」
「え?」
「ほのぼのと微笑ましくカップルやりたい気持ちは分かるけどさぁ、もうすぐ付き合い半年に差し掛かるんだし『村川さん』『笠原くん』はやめていいんじゃない?」
「はうっ」

 ハンドドリップ中に真澄から痛い指摘をされ、手元が狂いそうになる。

「今だって私の前で『彼』なんて亮輔くんの事を言ってるしさぁ。私だって『妖怪』から『トモ』に呼び名変えたっていうのに」
「それって真澄が藤井くんを『妖怪』呼びしてたのが良くなかったんじゃ……恋人同士になったなら『妖怪』呼びするわけにいかないでしょ」
「同棲してる朝香達が名字呼びのままも良くないって」

 真澄に名字呼びを突っ込まれ、はわはわと慌てふためきながら3杯分のコーヒーをドリップし終える。

 2人だけの時は「あーちゃん」「りょーくん」だけど、真澄達の前ではまだ「村川さん」「笠原くん」の呼び名のままでいる。
 私はそれを嫌だと思ってなかったし、「きっとりょーくんは、外であーちゃんりょーくん言い合うのが恥ずかしいのかな」と想像している。だから敢えてりょーくんに「村川さん」「笠原くん」の呼び名を辞めようなんて提案してないしするつもりもなかった。

「やっぱり変かな……」
「変っていうか、よそよそしいよ」

 真澄に指摘され、心臓の鼓動を一層大きく速めていく私の耳に

「あっ! 帰ってきたみたい!」

 りょーくんが鍵を開ける音が聞こえて、私はすぐにパタパタと廊下を駆けて玄関に向かう。

「ただいまっ♡ あーちゃん♡」
「ひゃあ♡」

 目があった瞬間、玄関で靴を脱ぐよりも早く私に熱烈ハグをりょーくんがしてくる。

「おかえりって言ってよ♡ あーちゃん♡」
「おっ、おかえりぃ……」

 リビングに繋がるドアを開けたままにしているから「玄関でのこのやり取りが真澄に筒抜けになってるんじゃないか」と、私はちょっと恥ずかしくなりながら彼におかえりの言葉を呟くと

「小声でおかえり言うあーちゃんも可愛くって大好き♡」

 と、りょーくんは全身からピンク色な愛情をほとばしり、私への熱烈ハグを続ける。

「やぁん♡」
 
 恥ずかしいけど、りょーくんの愛情たっぷりのハグやふんわりと香るオシャレな香水で私の脳内は一気にピンク色に染まった。

「昼からエッチな声出してぇ♡ あーちゃんから匂う珈琲豆の香りもめちゃくちゃいい感じだし♡」
「ああん♡ 腰さわさわしちゃやぁん♡」
「腰触っちゃダメ? ちょっとくらいなら良くない?」
「ダメだよぅりょーくぅん♡ 真澄がもう来てるのにぃ♡」

 14時から真澄が来ているのは勿論りょーくんは把握済みだ。だからりょーくんはさっきまでお気に入りのスイーツショップでケーキを買ってきたんだから。

「じゃあキスして♡」
「え~……」
「テーブルんとこで座ってるんだろ? 矢野。だったら俺達のやり取り見えないよ声だって小さめにしてるし」

(真澄が……お客様が居るこの空間でりょーくんとキスしちゃうなんてっ!!)

 さっきまで真澄と名字呼びについて会話したばかりだから、普段私達が交わしている「あーちゃん」「りょーくん」の呼びあっているこの瞬間も胸がドキドキしているし

「ね、軽いキスだけ♡」
「うん……」

 熱く抱き合いながら玄関でチュッと軽くキスをするのも、ドキドキホワホワふわふわキュンキュンって、緊張と幸福と興奮で全身がとろけてしまう。

「ふふっ♪」

 唇をくっつけるだけの軽いキスであっても、りょーくんは満足そうに微笑んでいて

「ふふ♡」

 私の頬もゆるんでしまう。

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