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苦手を好きで補っていく
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「絵梨さんが性に奔放になったのは私の所為……?」
目を見開いたまま夕紀さんの言葉をそう解釈する私に、夕紀さんは眉を下げながら「うーん」と唸る。
「私はね、朝香ちゃんを責めてるんじゃないの。
朝香ちゃんが頃合いの良いタイミングまで彼の名前を私に言わなかった事も、それから亮輔くんと大学のキャンパスでラブラブな姿を絵梨に見せつけてたのも、どれも無意識な行動なんだから責められないし悪くないと思う。
でも少なからず絵梨に対しての黒い気持ちは持っていたんじゃない?絵梨のビジュアルが皐月にどの程度似てるのか私は知らないけど、朝香ちゃんが話してくれた『妊婦さんになっても皐月に似てるんだなって感じた』の部分がいつもの朝香ちゃんっぽくなかったからね」
「っ!!」
優しい口調だけど私の心をズバンと撃ち抜く夕紀さんの言葉に私は口をキュッとつぐんでしまった。
「朝香ちゃんにとって皐月は『雨上がりの女神』で私の仕事のパートナーとなる筈だった人で、加えて亮輔くんの忘れられない初恋の相手なのよね……もしかしたら皐月の事をきっと『尊い存在』と思ってくれてるのかな?
だから皐月と似たビジュアルなのに嫉妬心剥き出しにして亮輔くんの噂をある事ない事流しててただでさえ皐月の尊さを穢しているのに、赤ちゃんのパパが誰か分からないような行動をしていたんでしょ? 朝香ちゃんは心中穏やかではいられない」
「……」
「亮輔くんも自分の行動を悔やんで落ち込んでて、せっかくスタートした同棲生活に影を落とすような感じになっちゃってる……そりゃあ朝香ちゃんだってイライラムカムカするに決まってるわよね」
夕紀さんはそう言ってエスプレッソコーヒーをカップに注ぐと、ミルクフォーマーで泡立てたミルクをゆっくりと上から重ねていった。
「牛乳に含まれているカルシウムはイライラやトゲトゲを緩和させるんだって。また、夜に飲むのも効果的らしいよ」
「あ……ありがとうございます」
私の目の前には綺麗なカプチーノが現れて、それを欲しようと自然と自分の指がスッと動く。
「夜にカフェインの入ってるコーヒーを出すのも良くない気がするんだけどね」
「そんな事ないです、夕紀さんのコーヒーはいつだって癒されますから」
私は眉を下げている夕紀さんに微笑みを返してカプチーノのきめ細やかな泡を口の中に含んだ。
(心地良い……)
エスプレッソの苦味をミルクのふわふわや甘さが包み込んで、一口……また一口と私は求める。
最後の一口まで飲み干した私は「ほうぅぅっ」と大きめの息をついて
「確かに私、絵梨さんに対してイライラムカムカしてましたし、すっごく苦手だなって感じていたんです」
まだ誰にも話した事のなかった自分の気持ちを夕紀さんに吐露した。
「うん」
「絵梨さんに対して『羨ましい』『敵わない』という気持ちの方が大きいんですけど……でもやっぱり絵梨さんの行動は褒められたものではないと感じてますから」
「うん」
「『皐月さんと似た姿で醜い行動取らないで』って思ってましたし」
「うん」
「皐月さんの事が大好きな彼の気持ちまで穢している気がして、すっごく嫌でした」
「うん」
夕紀さんは私の言葉を全て頷きと「うん」で肯定してくれている。
でも……。
「夕紀さんのカプチーノを飲んで思ったんです。私がこういう感情を持ってちゃいけないんだって。
彼と一緒に暮らしていく幸せだけに向き合って彼を支えていかなきゃいけないのに、他人に対して黒い感情を持つだとか苦手意識を持ってる場合じゃないなって思いました。
皐月さんに似ている人だからこそ、絵梨さんを苦手だとか嫌いだとか思ってちゃいけないって」
「それは違うよ朝香ちゃん」
私のその言葉にはハッキリと首を横に振って
「人間だもん。黒い感情は持ってていいのよ。苦手なものや嫌いなものは無理矢理棄てる必要はないし苦手は苦手のままでいていいと私は思う」
夕紀さんは私の飲み干したカップを手に持ちながらそう言い返した。
「大事なのは、自分の中にある『苦手』や『嫌い』を認める事。認めた上で自分はこれからどうすべきなのかを考える事。
ただ単に『苦手!』『嫌い!』と言い続けるんじゃなくて、自分がその『苦手』や『嫌い』とどう付き合っていくかが大事なのよ」
「苦手や嫌いとどう付き合っていくか……ですか?」
「そう! 今の朝香ちゃんのままじゃ亮輔くんの落ち込みを解決出来ないわねきっと。
亮輔くんは繊細な子だから朝香ちゃんの表情変化に気付いて更に自分を責めてしまうんじゃないかな? 彼にそうなって欲しくないと願うのなら、苦手だと思うものを好きなもので補って包み込んでやりなさい」
「……」
夕紀さんのその言い方は、かつてお母さんが夕紀さんに伝えていたあの方法に凄くよく似ていて……
これから私が何をすれば良いのかを、あの方法を通して伝えてくれているのだとようやく理解する事が出来た。
目を見開いたまま夕紀さんの言葉をそう解釈する私に、夕紀さんは眉を下げながら「うーん」と唸る。
「私はね、朝香ちゃんを責めてるんじゃないの。
朝香ちゃんが頃合いの良いタイミングまで彼の名前を私に言わなかった事も、それから亮輔くんと大学のキャンパスでラブラブな姿を絵梨に見せつけてたのも、どれも無意識な行動なんだから責められないし悪くないと思う。
でも少なからず絵梨に対しての黒い気持ちは持っていたんじゃない?絵梨のビジュアルが皐月にどの程度似てるのか私は知らないけど、朝香ちゃんが話してくれた『妊婦さんになっても皐月に似てるんだなって感じた』の部分がいつもの朝香ちゃんっぽくなかったからね」
「っ!!」
優しい口調だけど私の心をズバンと撃ち抜く夕紀さんの言葉に私は口をキュッとつぐんでしまった。
「朝香ちゃんにとって皐月は『雨上がりの女神』で私の仕事のパートナーとなる筈だった人で、加えて亮輔くんの忘れられない初恋の相手なのよね……もしかしたら皐月の事をきっと『尊い存在』と思ってくれてるのかな?
だから皐月と似たビジュアルなのに嫉妬心剥き出しにして亮輔くんの噂をある事ない事流しててただでさえ皐月の尊さを穢しているのに、赤ちゃんのパパが誰か分からないような行動をしていたんでしょ? 朝香ちゃんは心中穏やかではいられない」
「……」
「亮輔くんも自分の行動を悔やんで落ち込んでて、せっかくスタートした同棲生活に影を落とすような感じになっちゃってる……そりゃあ朝香ちゃんだってイライラムカムカするに決まってるわよね」
夕紀さんはそう言ってエスプレッソコーヒーをカップに注ぐと、ミルクフォーマーで泡立てたミルクをゆっくりと上から重ねていった。
「牛乳に含まれているカルシウムはイライラやトゲトゲを緩和させるんだって。また、夜に飲むのも効果的らしいよ」
「あ……ありがとうございます」
私の目の前には綺麗なカプチーノが現れて、それを欲しようと自然と自分の指がスッと動く。
「夜にカフェインの入ってるコーヒーを出すのも良くない気がするんだけどね」
「そんな事ないです、夕紀さんのコーヒーはいつだって癒されますから」
私は眉を下げている夕紀さんに微笑みを返してカプチーノのきめ細やかな泡を口の中に含んだ。
(心地良い……)
エスプレッソの苦味をミルクのふわふわや甘さが包み込んで、一口……また一口と私は求める。
最後の一口まで飲み干した私は「ほうぅぅっ」と大きめの息をついて
「確かに私、絵梨さんに対してイライラムカムカしてましたし、すっごく苦手だなって感じていたんです」
まだ誰にも話した事のなかった自分の気持ちを夕紀さんに吐露した。
「うん」
「絵梨さんに対して『羨ましい』『敵わない』という気持ちの方が大きいんですけど……でもやっぱり絵梨さんの行動は褒められたものではないと感じてますから」
「うん」
「『皐月さんと似た姿で醜い行動取らないで』って思ってましたし」
「うん」
「皐月さんの事が大好きな彼の気持ちまで穢している気がして、すっごく嫌でした」
「うん」
夕紀さんは私の言葉を全て頷きと「うん」で肯定してくれている。
でも……。
「夕紀さんのカプチーノを飲んで思ったんです。私がこういう感情を持ってちゃいけないんだって。
彼と一緒に暮らしていく幸せだけに向き合って彼を支えていかなきゃいけないのに、他人に対して黒い感情を持つだとか苦手意識を持ってる場合じゃないなって思いました。
皐月さんに似ている人だからこそ、絵梨さんを苦手だとか嫌いだとか思ってちゃいけないって」
「それは違うよ朝香ちゃん」
私のその言葉にはハッキリと首を横に振って
「人間だもん。黒い感情は持ってていいのよ。苦手なものや嫌いなものは無理矢理棄てる必要はないし苦手は苦手のままでいていいと私は思う」
夕紀さんは私の飲み干したカップを手に持ちながらそう言い返した。
「大事なのは、自分の中にある『苦手』や『嫌い』を認める事。認めた上で自分はこれからどうすべきなのかを考える事。
ただ単に『苦手!』『嫌い!』と言い続けるんじゃなくて、自分がその『苦手』や『嫌い』とどう付き合っていくかが大事なのよ」
「苦手や嫌いとどう付き合っていくか……ですか?」
「そう! 今の朝香ちゃんのままじゃ亮輔くんの落ち込みを解決出来ないわねきっと。
亮輔くんは繊細な子だから朝香ちゃんの表情変化に気付いて更に自分を責めてしまうんじゃないかな? 彼にそうなって欲しくないと願うのなら、苦手だと思うものを好きなもので補って包み込んでやりなさい」
「……」
夕紀さんのその言い方は、かつてお母さんが夕紀さんに伝えていたあの方法に凄くよく似ていて……
これから私が何をすれば良いのかを、あの方法を通して伝えてくれているのだとようやく理解する事が出来た。
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