【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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【番外編】執着的で盲目的な(夕紀side)

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「……」
「朝香さんを素直に働かせてあげれば良かったのに。そうすれば朝香さんは亮輔の単なる隣人でしかなり得えませんでしたし、亮輔と生活リズムが全く合わない朝香さんは亮輔と恋仲になる事はなかったでしょうね」
「……」
「確かに私は村川氏に、朝香さん向けの住居を提供しました。氏は氏で亮輔の事を4年半以上もの間気にかけて下さってますから、亮輔の隣室を契約する事は互いにとってWin-Winなんです。私も学生の朝香さんに家賃の負担を軽減させる事が出来ますし」
「……」
「ですが、それだけしかしていません。寧ろ貴女の行動が2人を引き合わせたとも言えますよ。朝香さんが大学進学を決めた事が、2人の引き合わせに成功したというわけです」
「嘘……では?」
「つきませんよ、私は。私は好意を持つ相手に許される程度の嘘しか付きません。
 本当は元から家賃を値引いているにもかかわらず、『学生さんには家賃値引きさせてあげたいから』と朝香さんに持ちかけてお金を渡しちゃうレベルの嘘ならいくらでもつきますけどね……」

 上原俊哉はその直後、おぞましいほどに鋭い目付きで私を睨みつけ

「私はね……完全に許してませんし、個人的にまだ嫌悪しているんですよ。貴女の、身勝手な過去の発言を」

 まるで鋭利えいりなナイフを突き立てるかのように、低い声で私の余計な思考を強制的に止めさせた。

「それは……本当に申し訳ありません」

 確かに私のあの発言で笠原亮輔の人生は一変した。それは、朝香ちゃんという存在が彼を救おうとしているこの瞬間も、反省しなければならないと思っている。

「私はね、甘い恋心に賭けたいんです。亮輔のこれからの人生を朝香さんに託してみたい」

 俯いた私に、上原俊哉は声のトーンを上げて自らの希望を語り始めた。

「朝香ちゃんに……託す、ですか?」
「そうです。私は簡単なノリで彼女に亮輔との同棲をお願いしたのではないんです。亮輔の安寧あんねいは今、朝香さんの行動にかかっています。それに私は賭けてみたい」

 再び上原俊哉の顔に視線を戻すともう、私への睨みは解けていた。

「私の想いは朝香さんにとって非常に重たいものかもしれません。ですから朝香さんが亮輔との同棲からすぐに逃げ出しても良いように『アパートの契約は3月まで継続させてほしい』と言いました。また朝香さんがそのアパートの部屋すら拒絶したら、別の住居を提供しようとさえ考えています。
 二重にも三重にも対策を整えた上で、私は朝香さんに亮輔との同棲をお願いしたんです」

 上原俊哉は笠原亮輔に恋心以上の重たい想いをかけている。
 そしてそれは現実的な意味でも、笠原亮輔と朝香ちゃんの個の気持ちを尊重したいという意思にも繋がっているのだと私は思い知らされた。

(……やっぱり敵わないな、この人には。
 私よりも年齢が下なのに、ずっとずっとこの人は大人だ)

「ありがとうございます上原さん……私の大事な弟子を、大事な『妹』を、よろしくお願いします」

 だから私も、この人の「賭け」に乗ってみる事にした。
 
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