【完結】雨上がりは、珈琲の香り②

チャフ

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苦手を好きで補っていく

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「あ……このコーヒー、ちょっと苦手かも」
 
 夕食後のコーヒータイム中、りょーくんは私に初めてそんな感想を漏らした。

「ごめん、りょーくんの苦手な味だったかな?」
「うん、なんか……大地っぽい?」
 
 しかもそう言いながらりょーくんはコーヒーカップから手を離してしまう。

「大地っぽい……かぁ。確かに水を使わない精選方法ではあるからなぁ」

 今まで一緒にコーヒーを飲んできてここまで彼が拒否反応を示した事がなく、私は驚き自分のカップをマジマジと見つめた。

「俺の味覚がおかしいだけなんじゃないかな……ちなみにあーちゃんは美味しく飲めてるの?」
「私は夕紀さんからこの豆を取り寄せてもらう前の段階から特徴を知っていたからりょーくんの『大地っぽい』って感覚を理解した上で楽しんでる感じなんだよね。だからまぁ『こんなもんなのかなーこれも所謂持ち味だよなー』って思いながら飲めてるよ」
「じゃあやっぱり俺の味覚が変なんだ」
 「そんな事はないよ! 誰にだって苦手な特徴の豆ってあるし、私も『めちゃくちゃ美味しい』って感じながら飲んでるわけじゃないから」
「でもあーちゃんは『不味い!』とか『うわあ苦手!』って感じてる程じゃないんだよね?」
「それはそうだね……旨味は感じるし」
「やっぱり俺がダメなんだ」
「ダメだなんて言わないでよぉりょーくん。次からは違う豆を淹れるようにするからっ!」

 私はそう言ってりょーくんを宥めようとしたんだけど、彼は納得してはいないみたいで

「いや、ダメなんだよ俺は……。絵梨えりを中退に追い込むような事してしまったし」

 と、今朝の一件も相まってめちゃくちゃ落ち込んでいる。

「絵梨さんのお腹に赤ちゃんがいるのも大学を辞めちゃうのもりょーくんの所為じゃないよ。絵梨さんだって『父親は亮輔じゃない』って言ってたし」
「だけど、誰が父親なのかは分からないって言ってた。
 絵梨が誰と抱き合って妊娠したのかも分からないくらい奔放にヤッてたっていうのは多分俺の所為なんだよ」
「りょーくん……」
「俺は無理矢理絵梨とエッチしてたけど、絵梨は俺との行為で大好きになったって言ってたし」
「……」
「やっぱり酒やタバコ使ってまでするべきじゃなかったんだよ、俺は」

 今日私達は、大学の学生課でりょーくんの元カノさんが退学届を出しているところに出くわしてしまった。

「別れて1年以上経つけど、やっぱり俺は悪い男だなぁって反省するよ」
「……絵梨さんって、これから1人で赤ちゃん産んで、育てていくんだよね?」
「絵梨の話だとそうなるなぁ……」
「大変……だよね。赤ちゃんを産むのだって、1人で頑張って乗り切らなきゃいけないんだし」
「うん……」

 去年の春から夏休みに入る直前までりょーくんがお付き合いしていた絵梨さん。同じ大学だけど別の学部で、私達より一つ歳上だ。
 その絵梨さんが今日、妊娠を機に退学届を提出して、働きながらお腹の中の赤ちゃんを1人で育てる事を決めたのだそうだ。

 お腹の赤ちゃんのパパは誰なのか、ハッキリしないみたい。DNA検査をして調べてパパを探し当ててまでその人と共に生活していこうとは考えていないみたいだ。
 絵梨さんからその話を聞いたりょーくんは想像以上にショックを受けていて、昼からずっと卑屈な思考回路に彼はなっちゃっている。

(こういう時ってどう声を掛けてあげればいいのか分からないな……「元カノの事なんか忘れて私と楽しく過ごそうよ!」なんて良心が痛むような事言えないし)

 私がそう思ってしまう理由は幾つかある。
 かつてりょーくんが心を寄せた人だからっていうのもあるけど、1番は183㎝のりょーくんの横に並んで明るく笑っていた絵梨さんの背後姿うしろすがたを去年何度も見かけていては溜め息をついていたから。
 それほど、りょーくんと絵梨さんはお似合いのカップルに見えていた。
 身長が170㎝くらいあって、スレンダーな体型で、髪の毛はゆるやかなウェーブヘアで……りょーくんが絵梨さんとお付き合いしようという決め手になった「初恋の人に似てるから」が物凄く納得出来る外見を絵梨さんは持ち合わせていた。

 そして今日目にした絵梨さんはやっぱり、安定期を迎えた妊婦さんとは思えないくらいの細身のスタイルだったし髪も皐月さんのウェーブヘアに似てたから。
 「妊婦さんになってしまっても皐月さんに似てるんだな」って思ったし「敵わない」って思ってしまった。
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